フロンティア技術は、日本の人口減少を解決する鍵となるか
日本の人口減少と高齢化の問題は、日本の将来に課題をもたらします。 Image: Unsplash/DLKR
- 日本政府及び地方自治体は、社会課題の解決方法としてフロンティア技術を活用しています。
- 人口減少に伴う課題の解決策として利用されているのが、Web3、メタバース、自動化、NFTなどのデジタル技術です。
- 日本は、早期に最先端の技術を採り入れているケースが比較的多く、そうした国が社会的ジレンマの解決にテクノロジーを適用することは、他の国々にとってPoCになるかもしれません。
人口減少は日本が抱える課題の中で最も深刻なものの一つであり、2008年以降、人口は減少を続け、2100年には5,000万人を割り込むと予測されています。
また、高齢化が進む中で、2060年には現役世代が総人口の約半分程度までさらに減少するとされています。
この状況に対して、政府のみならず地方自治体も独自にさまざまな取り組みを始めています。福岡市では、来るべき超高齢化社会に向けた取り組みとして、テクノロジーを活用した持続可能な地域づくりを目指す「福岡100」というイニシアチブを2017年から進めています。
グローバル・シェイパーズ・コミュニティの日本における拠点の一つである福岡ハブは、昨年8月、複数のハブと共同で「Global Youth Social Entrepreneurship Summit(グローバル若手社会起業家サミット)」を開催し、社会起業の観点から人口課題について深く考える機会を設けました。
福岡ハブはまた、自動化、Web3、メタバースの専門家とともに、これらのフロンティア技術の最新トレンドが人口問題の解決にどのように貢献できるかを協議しました。この記事では、その中で話題に上がった、自動運転や自動化による労働力不足の解消、メタバースを利用した社会的孤立の解消、デジタル村民によるコミュニティの財政健全化への影響などについてご紹介します。
自動運転と運転手不足
運転免許を取得しない日本人は年々増えており、若者の運転免許取得者数は20年間で650万人以上減少しています。信頼性の高い交通網が整備されていることや、テレワークへの移行が進んでいることがその背景にあります。こうした状況でも、日本の貨物の70%以上を輸送するための運転手は必要不可欠です。
日本は、新しいテクノロジーの採用が、他国に先駆けて一番早いとは言わないまでも、二番手になることが多い国です。自動運転の時代はすぐそこまで近づいており、日本の運転手不足への解決策として期待されています。たとえば、レベル3の自動運転(システムにより運転操作の交代が要求された場合に、運転手が完全に運転を行う)は、国内の公道ですでに許可されています。
ラストマイルと自動化
物流に関わるコストの50%以上はラストマイルで発生し、ラストマイル問題とも呼ばれています。理由としては、顧客の要求が多様であるために、業界のイノベーションが遅れていること、輸送における予測不可能性、非効率なルーティングとルート最適化の欠如などが挙げられます。
ラストマイルの配送に必要な時間とコストの削減に向けては、自動化による解決策が効果を発揮しています。2030年にはラストマイル配送が78%に拡大すると予想されており、より多くのプレイヤーが市場に参入することが見込まれています。現に、政府の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて、複数の企業が合同で、日本の四大都市における非接触型自動配送の試験運用を行っています。
人口が減少する一方で、日本は、世界の他の地域でも実施可能な、自動化による新たな解決策の実験場になる可能性を秘めています。
高齢化社会に対応したWeb3とメタバース
自動運転や自動化の他に、日本の社会課題を解決するテクノロジーとして、Web3やメタバースがあります。
2021年12月、新潟県の人口800人の小さな村、山古志で錦鯉の絵柄の非代替性トークン(NFT)が発行されました。このNFTの保有者は「デジタル村民」と呼ばれ、山古志に関わる予算の一部を執行する権限を与えられています。
デジタル村民の求めによって、NFTの売却益の一部は、山古志地域の存続に向けた計画の実施に充てられる予定です。どのような計画を進めるかは、デジタル村民の投票により決定します。
山古志村は、以前は住民の55%が65歳以上という人口構成でした。しかし、現在では、実際の住民の数を上回る約950人の若いデジタル村民が世界中から集まっています。定住者でも観光客でもない、デジタルツールによって地域と関わる人口(デジタル関係人口)が増えている日本の小さな村。その一つの例が山古志です。
外部からの補助金に頼らず、村役場は村民やデジタル村民たちと一緒に村の財政の未来を決めることで、持続可能な山古志を作ろうとしています。
内閣府の2015年の調査によると、日本で社会的に孤立している15歳から39歳の人は推計で約54万人。つまり、日本人の100人に一人が社会的孤立を感じ、労働力の一部になっていないということです。厚生労働省は、登校や就労、人付き合いなどの社会的参加を避け、半年以上にわたって家庭にとどまり続けている状態の人を「ひきこもり」と定義しています。
福岡県では、メタバースを活用して「ひきこもり」状態にある人の就労支援の実証実験を開始しています。県の職員とひきこもりの方はアバターとなってオンラインでのメンタリングセッションに参加し、ラフな形での交流を進めています。仮想空間を利用することで、若い参加者が恥ずかしさをあまり感じることなく発言できる、インタラクティブなセッションの場が実現しつつあります。
日本、Society 5.0へ向けて
こうした新しい技術の可能性が広く示されている一方で、日本には多くの課題が残されています。
日本は新たなデジタル時代に対応した組織構造、人材開発、起業家精神などに関して、イノベーション能力が低いと言われています。しかし、内閣府が今後の日本社会のあるべき姿としてSociety 5.0を発表するなど、変化の兆しも見られます。
テクノロジーの発展が社会的な課題への新しいアプローチを生み出し続ける中、グローバル・シェイパーズ・コミュニティ福岡ハブのような若い世代に期待される役割は、専門性の枠を超えた議論の場を継続的に作り、そのアプローチを実際の解決策に変えることだと言えるでしょう。
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