世界経済フォーラムの取り組み

メタバースの価値を最大化する、3つの共有原則

The metaverse promises to integrate the digital and physical worlds.

メタバースは、デジタル世界と現実世界の統合を約束するものです。 Image: Unsplash

Peggy Johnson
Chief Executive Officer, Agility Robotics
  • メタバースは、デジタルと現実世界を統合し、私たちの日常の活動、仕事、空間へより良い変化を起こします。
  • 必要なイノベーションを大規模に提供するためには、強固なエコシステムの中で原則とインフラを共有する必要があります。
  • 最大の可能性と最速のイノベーションは、AR、つまりオープンで相互運用可能なエコシステムと、価値の高いアプリケーションに対する企業の投資にあります。

派手な広告キャンペーンや息を呑むような見出しは、メタバースを仮想の万能薬、ほぼ無限の新しい世界が存在する場所として描写することがよくあります。しかし、実際には、メタバースが叶えられることはこうしたSFシナリオよりも、はるかに強力でより実用的なものです。

メタバースが持つ可能性のうち最も重要なことは、新しい仮想世界を作ることではなく、現実世界とデジタルの世界を最終的に統合することなのです。

コンセプトはシンプルですが、その意味合いは大きく変わります。メタバースはすでに、デジタル情報を2Dスクリーンから3D空間へと導き、より直感的な操作を可能にしています。同時に、現実世界に関する知識をコンピューティングの言語に翻訳することも可能。その結果、空間を意識した情報の双方向の架け橋となり、場所や方法など私たちの働き方をより良くすると同時に、アプリケーションが現実世界を理解することを可能にします。

課題は、正しい原則を受け入れること

しかし、こうした未来の実現には、強力なチップだけでなく、高度な光学機器、ヘッドセット、センサー、空間認識ソフトウェア、3Dデータのレンダリングを行うためのクラウドベースのコンピューティングなど、極めて高度なテクノロジーが求められます。必要なイノベーションを起こすためには、強固なエコシステムの中で、原則とインフラの共有が不可欠になるでしょう。

インターネットの台頭は、良い例えを示してくれます。数十年にわたるイノベーションは、オープンなプロトコルと標準に根ざした素晴らしい成果を生み出しましたが、共有された原則が明確でない時には、落とし穴や論争も生じました。同様に、メタバース空間には現在さまざまなモデルが存在します。私たちが今受け入れるものが、メタバースがどのようなものとなるのか、どのくらいの速さで進化していくのかを決定付けると言えるでしょう。

今後の道筋を考える上で、イノベーションの加速と、ユーザー、ビジネス、社会全体の価値の最大化を可能にするために必要な3つのアクションを紹介します。

  • 現実とデジタルを統合する

メタバースのプラットフォームには、通常、拡張現実(AR)または仮想現実(VR)のいずれかが使われます。VRは、ゲームやeスポーツ、エンターテインメントなどを通じて、完全なアバターや仮想環境を作り出し、過去10年の間に息を吹き返しました。一方、ARは現実世界での仕事により適しています。

成長するメタバース市場ではどちらも有用ですが、最終的にはARが最も大きな可能性を持っていると考えてよいでしょう。周りのオブジェクト、ツール、環境、そして人とインタラクトすることができるARは、導入がより容易な上に、既存の活動に大きな価値を与え、高い利益収益率をあげられるでしょう。さらに、このパラダイムはより自然で直感的に感じられます。人間の進化がこの方法で対話することを可能にしてきたからです。

  • オープンで相互運用可能なエコシステムの構築

こうした技術やアプリケーションが登場すると、業界関係者は、市場に投入するための最適なモデルの選択をしなければなりません。オープンなエコシステムなのか、ウォールドガーデンなのかを。

インターネットはオープンで相互運用可能なエコシステムの力がいかに強力かを示しています。オープンスタンダードは、開発者、ハードウェアメーカー、モバイルデバイス管理者およびその他のパートナーが協調した作業をできるようにし、導入の加速、イノベーションの促進、ユーザーの最善のアイデアの決定を後押しします。このモデルは、機密保持とデータ・プライバシーにも役立ちます。ウォールドガーデンは、特定のユースケースやコミュニティ、ビジネスモデルには適していますが、これらは、より広範なエコシステムの中での「島」として最適な役割を果たすものです。

  • 先行者として企業の力を解き放つ

メインフレーム・コンピューティング、携帯電話、クラウド・コンピューティングのように、企業はこれらの進歩のパイオニアになることができます。実世界のシナリオに沿った、必要不可欠で価値の高い作業に理想的なARの導入は、企業や専門家だけでなく、社会にとっても、雇用や包括的な成長を通じて、必要な投資を正当化し、最大の価値もたらします。

外科医による複雑な手術の計画、製造技術者による遠隔の専門家支援、危機的なシナリオに備えた救急隊員の訓練など、高度なARアプリケーションは、こうした分野ですでに活躍しています。これらは、デジタルと現実を統合することで利益が最も明確に得られる初期のユースケースの一部ですが、他にも事例は多くあります。企業は、生産性、競争優位性、そして、顧客にとっての価値を理解し、この道をリードしています。

共有するビジョン:過去に学び、未来を守る

メタバースを発展させ、編み合わせていくには、何を構築しているのかという定義の共有、どのように構築するのかという明確なルール、そして、それを実行するための説得力のあるインセンティブが必要です。

インターネットの台頭から学んだことを応用し、利益を増幅させながら、落とし穴を回避することができるでしょう。私たちは、データのプライバシーやセキュリティ、責任あるガバナンスポリシーやライセンス契約、オープンで相互運用可能なエコシステムへの標準ベースのアプローチといった分野でのコンセンサスを取ること、そして、市場やビジネスモデルがこれらの原則に沿い、イノベーションに報いることができるようにする必要があります。

メタバースは、計り知れないチャンスを提供します。私たちは、メタバースの力を最大化するために、協力し合わなければなりません。

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