日本が世界に誇るべき「安定性」
日本が世界に誇るべき「安定性」 Image: Ben Cheung/Pexels
混迷する世界情勢を各国が舵取りする中、日本の経済社会の安定性が際立っています。安定した政治体制を有し、貿易相手国としても信頼が置かれている日本は、分断が進む時代において、頼れる存在としてその価値を高めていくでしょう。
私たちは今、社会の利益を何よりも優先させるという共通の価値観を、当たり前のことと捉えてきたことに気づかされています。責任を果たすことや、一度限りの取引ではなく長期的な関係構築を大切にするといった基本姿勢を、かつてないほど重要視するようになり、こうした価値観が、目先の経済的利益以上の成果をもたらすことも再認識しています。
私は、10年以上の海外生活の経験がありますが、それでも日本が私のホームです。イノベーションや社会変革が活発な場所とは言い難いかもしれませんが、この国の安定性には目を見張るものがあります。優れた安定性は、日本社会が個人の成功よりも社会全体のウェルビーイング(幸福)に重きを置いてきた結果であると言えるでしょう。
日本が誇るその安定性は、世界的にも広く認知されています。日本政府観光局の推計によると、政府が新型コロナウイルス感染症に関する水際対策を初めて緩和した、2022年10月の訪日外国人旅行者数は49万8,600人。前月9月から大きく増加しました。世界経済フォーラムが公表した最新の「旅行・観光開発指数」においても、日本は上位に位置しています。治安の良さ、清潔さ、近代的であることなど、日本が人々を魅了する理由は数多くあります。島国である日本に住む1億2,500万人の国民の気質はおおむね親切で、安定性を後押しするような行動をとっていることも特徴でしょう。
マスクの着用は、社会の利益を重視する日本人の気質をよく表している行動の一つです。この習慣は、必ずしも個人の利己心によるものではなく、どちらかというと公衆衛生の観点からくるものであり、他者への配慮と共同責任の意識が行動に現れているのです。
こうした日本人の公共心は、日本の外でも見ることができます。例えば、昨年カタールで開催されたFIFAワールドカップでは、日本の試合終了後に日本人サポーターは観客席でごみ拾いをし、日本人選手はロッカールームを清掃してスタジアムを後にしましたが、その行動が世界から賞賛を集めました。選手たちはさらに、ロッカールームのテーブルに折り鶴を残し、開催国への敬意を表しました。日本人は、この大会を自分だけのものとしてではなく、全ての人のためのイベントであると捉えていたのです。
全体の利益を重んじる日本の国民性は、この3年間、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)による苦境を乗り越えることにも貢献してきました。パンデミックの影響で大量解雇が行われたケースは少なく、全日本空輸(ANA)や帝国ホテルなどの企業は、雇用を守るために業況が回復するまで従業員を社外に出向させる措置を講じました。ANAはまた、従業員が他社とも雇用契約を結べるようにし、副業で収入を補うことができるような方針も打ち出しました。これは、危機的な状況においては、たとえ企業業績が落ち込み給与が減ったとしても、安定した雇用を維持することが重要であると日本社会が判断し行動をとった結果なのです。
当然のことながら、日本も、パンデミック、インフレ、ウクライナ侵攻の影響による世界的な景気後退の打撃を受け、その結果、メンタルヘルスの悪化など社会的な懸念も生じました。しかし、路上にホームレスの人々があふれるような光景を目にすることはありませんでした。日本のセーフティネットに穴がないと言い切ることはできませんが、人々の最低限の生活を維持するための協調的な努力が積まれてきています。さらに、ここ数十年で進められてきた経済政策の結果、高齢者を含む労働人口が増加しました。平均賃金は停滞したままではあるものの、雇用機会は確保され続けているのです。
日本にも、もちろん課題はあります。例えば、ある報告書では、人生における選択の自由度が低いことを理由に、日本人の生活は必ずしも満足度の高いものではないとされています。このことは、社会全体の安定性が優先されているがゆえである可能性もあり、検証が必要でしょう。既存の仕組みが有効に機能しない可能性のある若者やマイノリティグループにとっては、個人と社会の利益のバランスを適切に保つことが特に重要です。
それでもやはり、社会全体の長期的なウェルビーイングを重視することが、激しい変化で混迷を深める現在の世界情勢を日本が乗り越えていく上でプラスに働くことになるでしょう。 すべての人々のウェルビーイングのために世界の国々はどのような投資を行うべきか。日本の「安定性」は、それを示すことができるでしょう。
2023年に開催されるG7広島サミットで議長国を務める日本は、国際協力の新しい形を構築するためにリーダーシップを発揮することが期待されています。長期的な安定を確かなものとするために、世界は今、共通の目標と共存共栄を新たに認識する必要があるでしょう。
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Gayle Markovitz and Spencer Feingold
2024年12月3日