不確実な世界で、イノベーションを推進する4つの方法
ベンチャー企業などの他社や、政府機関、アカデミアとのパートナーシップは、イノベーションの勢いを加速させます。 Image: Pixabay for Pexels
世界は今、かつてないほど変動性、不確実性、複雑性、曖昧性に満ちています。そして、社会と市場の変化は加速する一方です。しかし、それ自体は問題ではありません。変化は強力な触媒となり、新しいアイデア、これまでにない製品やサービスの開発を後押しするからです。しかし一方で、経験したことのない程に不確実で先行きが不透明な状況に直面すると、人は慣れ親しんだ過去のパターンに固執し、より保守的になり、思考することを止めてしまう傾向があります。
大企業の伝統的な研究開発手法が、変化の激しい世界における価値創造に最適な手段ではなくなっていることは明らかです。三菱重工グループでは、二年前にこの課題を解決する取り組みを行いました。研究開発機能を分解し、何百もの小規模でアジャイルな研究チームを結成。それぞれのチームが、当社が顧客のビジネスを構築するものとして特定した120におよぶ「メガトレンド」のうちの一つにフォーカスして活動を行いました。チームは、3ヶ月の期間と決められた予算で、課題設定とその解決策を仮説として立て、検証や試作を行います。そして、その成果を社内および顧客に発表し、必要があれば修正を行い、さらに3ヶ月間検証と試作を行うサイクルを繰り返します。この「ピボット開発」のプロセスは、実用的なプロトタイプができるか、できないと判断されるまで繰り返されます。開始時に想定しなかった方向性を見出すこともあれば、実用化につながる成果を生むこともあります。想定外の結果は、いわゆる失敗ではなく、成功への手段の絞り込み、もしくは、新たな方向への展開とみなされ、貴重な経験と捉えることができます。
この新しいアプローチは、私たちの当初の予想を上回る成果を生みました。24か月で1,000以上の仮説検証プロセスを繰り返した結果、39のタスクフォースが結成され、18の新たな大規模プロジェクトが始動しました。その中には、温室効果ガス削減に寄与する消費電力の少ないマイクロデータセンターの開発や、電気自動車の使用済みバッテリーのエネルギー貯蔵設備への転換、成田空港近くのショッピングモールでのロボットによる自動バレーパーキングシステムの試験的な導入などがあります。
ここでは、こうしたイノベーションを促進するために鍵となる4つの方法を紹介します。
1、外部とのパートナーシップ
ベンチャー企業などの他社や、政府機関、アカデミアとのパートナーシップは、イノベーションの勢いを加速させます。当社グループの各ピボット開発チームは、外部の力を積極的に活用することで、技術力の幅を広げることに成功しています。現時点で、AI(人工知能)や材料化学など、重工業の領域を超える700以上の技術の活用を進めています。
2、スタートアップとのコラボレーション
大企業の知見と、中小企業やスタートアップのアイデアやノウハウを組み合わせることで、開発期間を数年から数か月に短縮することが可能です。例えば、イノベーション共創を活性化させる場であるYokohama Hardtech Hub(YHH)は、現在9つのベンチャー企業と4つの社内プロジェクトを支援しています。米国においても、ゼロカーボン燃料の開発に取り組む複数のベンチャー企業に投資しています。また、2018年に設立したイノベーション推進研究所では、従来の発想を覆すような研究開発を進めており、大学と連携して、核廃棄物をより安全なものに変換するための方法の調査・研究を行っています。
3、課題設定の対象を厳選する
多くの場合、大企業は豊富な知識と経験を持ち合わせています。例えば、当社グループは33の事業領域があり、700以上の基盤技術をもって500を超える製品を作っています。基盤技術の組み合わせはほぼ無限にありますが、リソースはそうではありません。そのため、アジャイルな開発を追求するだけでなく、課題設定の対象を厳選する必要があるのです。このプロセスには、研究者やエンジニアだけでなく、法律や知的財産などさまざまな分野の専門家も巻き込む必要があります。
そして、何より顧客の視点が極めて重要です。三菱重工は、CO2回収技術で長年にわたり世界をリードしてきました。従来は、用途ごとに設備の仕様をカスタマイズしていましたが、顧客の意見がヒントとなり、標準化した汎用性の高いモジュール式の小型CO2回収システムが生まれました。モジュール化したことで、数ヶ月要していた現場での設置が、わずか2日で可能になりました。
4、「かしこく・つなぐ」
先進技術領域では、企業内の事業単位や、メーカーとサプライヤーなどの外部パートナー、顧客との間だけではなく、機械とシステムの間にも高度な連携が求められます。主にハードウェアで知られる当社グループは、その頭脳である安全かつフェイルセーフなオペレーティングシステムや制御システムの設計と構築を得意としています。機械とこうしたシステムを「かしこく・つなぐ」ことで初めて「スマートマシン」となり、カーボンニュートラルの実現に貢献することができるのです。
私たちは、イノベーションの先に明るい未来があると期待しがちですが、イノベーションや環境負荷の低減の追求と、エネルギー安全保障、経済効率、安全性のバランスに意識を向けなければなりません。顧客や消費者に受け入れられるかどうかが問われるからです。当社グループは、この複雑とも言えるイノベーションに取り組むチャンスを手にしています。これまで培ってきた社会的信頼を握り、安全安心を前提とした、先進技術による豊かな未来を示していくことができると確信しています。
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