年次総会2023:インフレ率減速するも、収束の兆し見えない生活費の危機
世界経済フォーラムの年次総会で、専門家たちは世界のインフレを低下させ生活費の危機に対処する方法を議論しました。 Image: World Economic Forum/Pascal Bitz
世界のインフレはピークに達したと思われますが、開発途上国や低所得の人々が直面している生活費の危機はすぐには緩和されそうにないと、世界経済フォーラムの年次総会に集まった専門家たちは述べています。
国際通貨基金(IMF)ギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は、年次総会2日目に行われた生活費の危機に関するセッションで、「世界経済のヘッドライン・インフレは、2022年にピークを迎えたと考えています」と語りました。
生活費の危機と表裏一体であるインフレに取り組むことは、この危機を緩和する鍵となると、セッションのパネリストたちも同意を示しました。
ただし、「インフレ率が下がっても物価が高いのは、デフレではなくインフレ率が低いため」だと警告。「物価は上昇していますが、それが家計や消費にどの程度の影響を及ぼしているかは、国により異なります」。
社会の全ての階層を守る
ドイツのクリスチャン・リンドナ財務大臣は、生活費の危機から国民を守るために同国が発表した2,000億ユーロ規模の総合対策を強調しつつも、これほどの規模の予算が結果的に必要でなくなる可能性があると見通しを述べました。「物価水準は予想より低く、生活苦のケースも少ないため、相当規模の保護は必要ないだろうと私は考えています。これは良い兆しです」。
さらに、社会的に脆弱な立場に置かれた人々保護に加え、中間層の人々の生活も守る必要があると、リンドナ財務大臣は付け加えました。
「ドイツ、そしておそらくヨーロッパから見れば、私たちは最も弱い立場に置かれた人々のために多く施策を行なっていますが、同時に、ルールに従い懸命に働いている有能な人々が安定した生活を送ることができるように、何ができるかについても私たちは問わねばなりません」。
「企業が賃金を支払うことができるよう、競争力を強化させること」が、有効策の一つであると、リンドナ財務大臣。「電力市場の改革、税制負担の軽減、ドイツの中小企業のための枠組みの条件を改善することなど、サプライサイドの措置を講じる必要があるでしょう」。
また、インフレと生活費の危機へ実効力ある対応を取るためには、新型コロナウイルスの感染拡大によりサプライチェーンが受けた打撃に対する、リショアリング産業の無条件反射的な反応は避けなければならない、という点についてもパネリストの意見が一致しました。
ビジネスからの視点
「生活費の危機は、ピラミッドの底辺にいる人々に不均衡に大きな打撃を与えます。金利の引き締めや景気刺激策について多くの議論がなされていますが、不平等が拡大する長期的な傾向を打破する唯一の方法は、生産性だと考えます」とジョープ氏。
不平等が拡大する長期的な傾向を打破する唯一の方法は、生産性だと考えます。
”ユニリーバは、自社の従業員の給与を増加させたと話す同氏は、他の企業も同様の決断をするよう促しました。
経済学者であるカリフォルニア大学バークレー校のローラ・ダンドリア・タイソン教授も、賃金の根本的な問題を強調しました。「生活費の危機は、今に始まったことではありません。それは、以前から存在したもので、多くの人が苦しんできたものです」。
生活費の危機は、今に始まったことではありません。それは、以前から存在したもので、多くの人が苦しんできたものです。
”食料、エネルギー、そして、決定的なのは住宅にかかる費用。経済的な闘いは真新しいものではありません。「生活費の大部分を占めるこうした分野の価格高騰は、生活賃金や貧困の問題を世界中で悪化させたのです」と、タイソン氏は語りました。
インフレ危機からの脱却策
この課題に対処するために、同氏はインフラの重要性も強調しました。そして、住宅供給の計画や認可に関して長年抱えている問題に取り組み、より多くの住宅ストックを形成し価格を下げることを提案した上で、気候危機への対応やテクノロジーの活用がインフレへの世界的な対応に役立つと話しました。
最後に、IMFのゴピナート氏は、インフレ抑制のための意義ある動きは、おそらく失業率の上昇を招くことを警告しました。「米国やユーロ圏では、失業率は過去最低水準にあります。金利をこれだけ引き締めた場合に金融政策がどのように機能するかについて、私たちが見通せることは、失業率の上昇に尽きます。そして、それがインフレを下げる方法になるのです」。
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