製造業の未来、データと分析が推進力に
製造業の経営者のうち、単一製品の生産工程を超えたデータ駆動型の活用事例を展開することに成功したと報告しているのは、わずか39%です。 Image: REUTERS/Noah Berger/File Photo
- 製造業におけるデータの有効活用は、ビジネスをよりサステナブルで収益性の高いものにします
- しかし、製造業の経営者のうち、単一製品の生産工程を超えたデータ駆動型の活用事例を展開することに成功したと報告しているのは、39%に過ぎません
- 世界経済フォーラムのマニュファクチャリング・データ・エクセレンス・フレームワークは、新しい分析能力の開発およびパートナーシップ構築の指針と、データからより大きな価値を引き出すための戦略をメーカーに提供します
製造業は、データ主導の革命を迎えようとしています。企業はハイパーコネクテッドなバリューネットワークで連携し、データ・分析アプリケーションを利用して生産性の向上、新しい顧客体験の開発、企業の社会的・環境的影響の改善に取り組んでいます。
この技術的進歩は、目下のところ不確実性の高い時代に起きています。気候変動、サプライチェーンの混乱や紛争がグローバル・システムを苦境に立たせていますが、データの革新的利用が、世界の製造業を安定させる力にもなり得るのです。
データ、分析、製造業
このハイパーコネクテッドなバリューネットワークのビジョンを実現するために、メーカーは、予知保全、先進的なロボティクス、供給ネットワークにおける追跡など、多種多様なデータ・分析アプリケーションを導入する必要があります。このようなアプリケーションの生命線となるのが、基礎的なデータ資産です。このデータは、以下のことを実行可能にします。
- 人が行ったレポートやダッシュボードの分析データからパターンを識別し、実用的なインサイトを提供します
- 過去のデータの高度な分析を活用し、ビジネスステークホルダーの行動指針となる未来の結果を予測します
- 過去およびリアルタイムのデータのインプットにより、自己学習型セルフステアリングアルゴリズムによって自律行動をとる自己最適化システムを実現します
現在、大部分のメーカーが製造のデータエクセレンスへの道を歩み始めているものの、多くの企業がそこから大きな価値を見出すことに苦戦しています。製造業の経営者1,300人余りを対象に行われた2021年の調査では、単一製品の生産工程を超えたデータ駆動型の活用事例を展開することに成功し、明らかに良好なビジネスケースを実現できたのは39%にとどまることが判明しました。
データ共有によって価値を開放
グローバルに接続された製造データエコシステムの開発を加速させるため、世界経済フォーラムとそのコミュニティは、「マニュファクチャリング・データ・エクセレンス・フレームワーク」を立ち上げました。このフレームワークは、企業が新しい能力を開発し、新たにパートナーシップを築き、データ駆動型アプリケーションの成熟度を評価するのに役立ちます。また、企業、サプライチェーン、エコシステムの各レベルでデータから価値を引き出すために必要な組織的・技術的イネーブラーを確立するにあたり、進捗状況を企業が評価することにも利用できます。
世界経済フォーラムの「データ共有による製造業の価値開放イニシアチブ」のメンバーに、これらの課題をどのように対処したか、そして、このコミュニティへの関わり方や、マニュファクチャリング・データ・エクセレンス・フレームワークの適用がビジネスにどのように役立ったかについて、語ってもらいました。
メルクグループ、スマート・マニュファクチャリング・グループ、グローバルヘッド、ミケランジェロ・カンツォネリ氏
最先端のプラグ・アンド・プロデュース技術、先進ロボティクス技術、AI(人工知能)対応システムにより、スマートマニュファクチャリングは第四次産業革命の中核をなすものとなりました。この潮流の最前線にあるのが、データを駆使したデジタルツインによる製品と製造知識のカプセル化です。デジタルツインは、科学と技術を統合することで、例えば生産工程やサプライチェーンのシミュレーションによる予測精度の向上や、クオリティ・バイ・デザインへのさらに効率的なアプローチなど、さまざまな製造上のメリットをもたらします。
この先駆的なコミュニティに参加して共に学び、ベストプラクティスを共有できることは、非常に貴重な経験です。バリューチェーン全体で製造のためのデータエコシステムの育成を進め、スケールアップする方法を評価することが可能になりました。デジタルツインを活用する製造業のステークホルダーにとって次のステップは、データとモデルを共有するための協調的で安全なアプローチを開発することで相互運用性を向上させ、共通のフレームワークでデータを交換し、絶えず変化する環境にスピーディー且つアジリティ高く適応することでしょう。
ZFグループ、コーポレート・プロダクション担当シニア・バイス・プレジデント、ガブリエル・ゴンザレス氏
データエコシステムは、工場内、グローバルサプライチェーン、あるいは最終顧客レベルで、オペレーションエクセレンスに大きな利点となります。ZF社はデジタル・マニュファクチャリング・プラットフォームの開発に取り組んでおり、現在、全工場でこのプラットフォームを展開しています。これは、工場で一定レベルのデジタル利用を実現し、状態監視やOEE分析、工場の現場管理アプリケーションなど、パフォーマンスの完全性を強化することを目的としています。
世界経済フォーラムの「データ共有による製造業の価値開放」イニシアチブに参加したことで、当社は工場のデジタル成熟度に関する知見を深めることができました。欧州と北米の工場で実施した6回の自己評価集中プログラムを通じて、デジタル成熟度に関わる作業を学びました。明らかな利点は、評価の所要時間が短いこと、外部支援を必要としない簡単な管理システムであること、多くの他企業と評価の結果やベストプラクティスを比較できることです。
このフレームワークを改善することにより、評価の粒度を上げること、また、サイバーセキュリティとコネクティビティを考慮した完全なデジタル化へのロードマップを作成することが可能だと考えています。
シーメンス、製造部門シニア・バイス・プレジデント兼ファクトリー・デジタル化担当責任者、グンター・バイティンガー博士
地球温暖化との闘いに勝ち、気温上昇を2.0℃以下に抑えることは、人類が直面する最大の課題の一つであり、これに対処する上で産業バリューチェーンの脱炭素化は欠くことができません。しかし、この闘いにおける勝利は、脱炭素化を促すためにサプライチェーンとデータを共有し、排出の推定値ではなく実際値に基づいてあらゆる側面で責任あるサステナブルな行動を取り始めないかぎり、達成できないでしょう。
この課題に対処する上でデータエコシステムは不可欠です。世界経済フォーラムのワーキンググループ、「データ共有による製造業の価値開放」では、透明性と機密性の根源的対立という課題に取り組むにあたり必須となるデータエコシステムの設計方法を定義しました。当社は、サプライチェーンにおける信頼できるデータ交換のためのアプローチを開発し、これらの原則の基にある団体に出資しました。このような取り組みにより、データ主権も保証された、分散化されたオープンで信頼できるエコシステムを利用できるようになったのです。
アルチェリク、デジタル・プロダクション・テクニック担当エグゼクティブ・ディレクター)、ハルドゥン・ディンゲック氏
製造業において、エンドツーエンドに接続されたバリューチェーンの構築を可能にするのがデータです。このようなバリューチェーンは、一段とサステナブルかつアジャイルになり、生産性を向上させ、革新的なカスタマージャーニーを推進するために必要です。このデジタル時代、第四次産業革命における技術がさまざまなアプリケーションの構築に必要なデータ駆動型エコシステムを実現しています。その例として、需要予測、品質保証インテリジェンス、スマートエネルギー管理、スマート労働力管理、現場監視、サプライヤーコネクティビティ、完全カスタマイズ製品などのアプリケーションを挙げることができます。
世界経済フォーラムの「データ共有による製造業の価値開放」イニシアチブに参加したことで、データ交換がもたらす可能性に啓発されました。また、知的財産権の保護や技術的知識の共有における障壁も、別の手段を検討することができたことで克服することができました。さまざまな企業から集まった専門家チームと共に一つのプロジェクトを完成させたことは、とても貴重な経験でした。プロジェクトがサステナビリティを目的としたものだったことも、幸運でした。
今後も、このコミュニティと共にデータ駆動型のハイパーコネクテッドなバリューネットワークのビジョンを実現すること、また、AIのようなインテリジェントな製造技術がデータの力のさらなる活用にどのように役立つかを探求することに期待を置いています。
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