クラウドコンピューティング技術で健康格差の解消へ
パンデミックにより、医療分野でのクラウド技術の活用が加速しました。 Image: REUTERS/Luc Gnago
- 経済水準の両端にある国々の間には、健康アウトカムに大きな格差があります
- 医療機関や企業は、クラウドベースの革新技術を活用して、健康格差の解消に取り組んでいます
- 診断治療から医療アクセスの「民主化」にいたるまで、テクノロジーはヘルスケアの未来を形づくります
健康の公平性への関心が世界中で高まっています。リソースレベルが異なる国々の間で、健康アウトカムが著しく異なるという新たな根拠が示され、世界保健機関(WHO)の「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)」に関する研究結果は、先進国と、資源に乏しい国の間で平均寿命に19年の差があると指摘しています。
平均寿命に差異がある理由は複雑で、遺伝、社会経済的地位、教育、環境条件など多くの要因が考えられますが、これらだけにとどまりません。健康の公平性は、政府や組織が単独で取り組めるものではないことは明らかです。
クラウドコンピューティング技術は、この分野に大きな影響を与える可能性があります。この課題に対処するため、2021年に「AWS健康公平性イニシアティブ(AWS Health Equity Initiative)」が発足しました。このイニシアチブは、医療への平等なアクセスの促進や、健康の社会的決定要因に対処する新しい方法の考案、開発を進めている機関を包括的に支援する目的で立ち上がり、3年間で4,000万ドルが拠出されます。
アマゾン ウェブ サービス社(AWS)のワールドワイド・パブリックセクター担当バイスプレジデント、マックス・ピーターソン氏は、次にようにコメントしています。「健康格差を解消するためには、新しくより良いアプローチで医療サービスを提供する必要があります」
「タンザニアとレソトでの、陣痛が始まった女性へ救急医療を提供するためのモバイル技術を用いたタクシーサービスから、アフリカにおける、新型コロナウイルス感染症などの病気への対応を容易にするゲノム配列解析技術に至るまで、あらゆる革新が起きています」
診断を改善し、健康の公平性を促進させる
治療を進めるにあたり診断は重要な役割を果たすにもかかわらず、特に糖尿病や高血圧などの、プライマリヘルスケアに関連した対応は、常に見過ごされ、十分な財源が確保されていないのが現状です。非感染性疾患は世界の死因の約70%を占め、低・中所得国(LMIC)では、その死者数は他地域に比べて突出しています。
過去2年の間、パンデミック(世界的大流行)がきっかけとなり、医療機関や企業は新型コロナウイルス感染症への対応策として、クラウドを利用した新しい診断技術を開発してきました。今後、多様な疾患に対する持続的な診断イノベーションが必要とされていますが、これらの新たな診断技術はそれに対応することを見込んだものです。
ハイラックス・バイオサイエンシズ社は、クラウドを利用した診断治療をLMICに提供する企業の一つです。南アフリカを拠点とする、バイオインフォマティクスソフトウエア企業である同社は、新型コロナウイルス感染症のゲノム解析により、アフリカにおけるウイルスへの理解を深め、その推移を追跡することを可能にしています。これにより、国内外の保健当局による感染症のモニタリング、新たな変異体のスピーディーな特定と理解、そして迅速な対応が期待できます。ハイラックス社は、新型コロナウイルス感染症以外にも、HIV、結核、マラリアなど、他地域に比べ開発途上国の人々が多く罹患している疾患にも対応できるよう、ゲノム配列解析技術の開発を進めています。
ハイラックス・バイオサイエンシズ社の最高経営責任者(CEO)、サイモン・トラバース博士は、「次世代シーケンシングデータは、大規模かつ計算負荷の高いものです。当社は大量のゲノムの生データを、数日、数週間ではなく、数時間で処理することができるようになりました。アフリカでまん延している新型コロナウイルスの変異体をより早く特定できるとすれば、大陸全体の新型コロナウイルス感染症の多様性をより早く理解し、できる限り多くの人々に適切な治療を提供することが可能になります」と述べています。
医療アクセスの「民主化」
治療やケアにおける不平等への取り組みも大きく前進しています。
例えば、米ワシントン州シアトルでは、スタートアップ企業のヒューロン・AI社が、質の高いがん予防とケアシステムへのアクセスを「民主化」しようとしています。同社は、アフリカ系の人々のデータソースとアルゴリズムから得られたAI搭載アプリケーションを構築し、がん治療のアウトカム(健康結果)の格差解消に向けて取り組んでいます。
アフリカでは腫瘍専門医が不足しており、ルワンダでは人口約1,300万人あたりのは、腫瘍専門医による遠隔患者モニタリングや腫瘍遠隔診療を全国で提供できるようにするシステムです。腫瘍専門医は、デジタル機器やショートメッセージ上でグチザ・アプリを使用して患者とコミュニケーションをとり、より多くの場所で患者に治療を提供できるようになります。
ヒューロン・AI社の創業者兼チーフストラテジスト、キングスレイ・ンドー博士は、「クラウドを利用することで、グチザ・アプリを拡張し、アフリカのがんデータの格差を解消、さらに患者のがん治療全体のサポートを強化することができます。グチザを通じて治療のコンプライアンスと完了率を高めることで、副作用により生じる入院コストを削減し、生存率を向上させることも可能になるのです」と語っています。
医療サービスへのアクセスの難しさは、プライマリメディカルケアにも及んでいます。救急救命士は、交通手段がない、あるいはプライマリ・ケアへのアクセスが難しいという理由で、緊急性のない患者のサポートを要請されることが少なくありません。米アリゾナ州を拠点とする遠隔医療事業者イービジット社は、救急救命士が遠隔医療サービスを提供できるよう支援し、ケアサービスを十分に受けられない患者が病院の救急外来を利用しなくても、必要な治療を受けられるようにしています。
救急医療技師が携帯するタブレット端末を数回タップするだけで、イービジット社のバーチャルケア・プラットフォームにアクセスでき、救急車を呼んだ患者はそのまま現場で、救急医療医による面談形式のオンライン診療を受けられるようになります。
イービジット社の最高戦略責任者であるジュリ・ストーバー氏は、「脆弱でケアサービスを十分に受けられない人々にとって、医療機関へアクセスするコストと可能性は目の前の難題なのです。遠隔医療は、この格差を解消するための重要な役割を果たせます。当社のプラットフォームは、救急救命士が患者に必要な支援を容易に提供し、患者が不必要に来院しなくてすむように設計されています」と説明しています。
健康格差を解消する
優れた取り組みが進行中ですが、健康格差を解消するためには、まだまだすべきことがあります。私たちは、このグローバルな重要課題に取り組む機関や組織がクラウドの力を活用できるよう、今後も支援策を考えていきます。
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