世界経済フォーラムの取り組み

グローバルな課題への取り組み、いくつもの小さな連携が希望に

米ニューヨークで撮影された国連ビル(2018年9月24日)

アメリカ・ニューヨークの国連本部の国旗。 Image: REUTERS/Carlo Allegri

Børge Brende
President, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合

第77回国連総会開幕しました。世界のリーダーたちがニューヨークに集結し、今日の主要な課題を議論しています。その議題には数多くの項目が挙げられています。

ロシアのウクライナ侵攻では激しい戦闘が続き、エネルギー市場が不安定化。世界の気温は上昇し続けています。また、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が長引くなかで、ほかの公衆衛生上の懸念も浮上しています。一方、インフレはいたるところに波及し、世界中の消費者、企業、各国政府に負担を強いています。

これらの課題に対処するために、世界のリーダーたちは、国連事務総長が「分断された世界」と呼ぶ今日の世界で、連携を強化する必要性を強調するでしょう。問題は、分断化が進んでいると思われる今、グローバルな連携は実際にどのようなあり方になり得るかということです。

幸いなことに、実例があります。厳しい逆風が吹いていても、希望の持てる連携を可能にし、これを持続させるためのヒントを与えてくれる例が、わずかながらも存在します。

実りある連携は、「緊急性」、「具体的分野での協力」、「明確なメリット」という3つの要素によって特徴付けられる傾向があります。

気候変動に対する行動は、これらの各要素の最も顕著な例と言えるでしょう。

地球温暖化対策が急務であることは間違いありません。気候変動は、世界中でますます大きな混乱を引き起こし、経済的、人的に甚大な被害を与えています。パキスタンの壊滅的な洪水は、気象パターンの激化により人命が失われた記憶に新しい災害です。今年始め、国連が最新の気候報告書において、破滅的な地球温暖化を回避するための行動を起こすには「今が最後のチャンス」と警鐘を鳴らしたのも、このためです。

緊急度が高いため、具体的な行動が求められます。世界のリーダーたちは、期限通りに達成すれば気候変動の悪影響を軽減できるベンチマーク(基準)を策定。これには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を45%削減し、2050年までにネットゼロエミッションを達成する取り組みも含まれています。このような削減が叶えば、地球温暖化を産業革命前の水準の1.5℃以下に抑えられると専門家は期待しています。現在、世界の排出量の76%を占める70カ国以上が、ネットゼロ達成のためのタイムラインを作成しています。

気候変動において連携することのメリットは明白です。地球温暖化の影響は国境を越えて及ぶため、気候変動目標は関係者が協力し合わなければ達成できないということは、周知のとおりです。さらに、気候変動との闘いの鍵となるグリーンエネルギーシステムへの移行は、この10年間に世界で1,000万を超える雇用を生み出すと予想されています

これらのことを背景に、196の関係国が参集し2015年にパリ協定を採択。昨年にはグラスゴーの国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、炭素削減のためのコミットメント拡大に合意したのです。

気候変動に対する行動は、各国が意見の相違を越え、具体的な課題については分野ごとに優先して協力できることを示す証拠にもなっています。

米国と中国が協調する意向をみせているのは、その一例です。昨年のCOP26において両国は共同宣言を出し、「気候変動危機の深刻さと緊急性」を明言するとともに、双方が協調して行動する分野の概要を示しました。

最近では、2022年5月にダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会において、米国と中国の気候担当特使が両国の気候対策における連携を再確認しました。最近協議が中断され、この連携が道半ばであることは否めませんが、ジョン・ケリー気候変動担当米国大統領特使は、気候変動対策が「両国に影響するほかの課題を理由に中断してはならない分野」だとして、協議再開を希望すると表明しています。

また、冷戦時代においても、米ソ両国が環境保護政策、特に、大気汚染や水質汚染、環境保全、気候変動追跡のためのメカニズムに関する指針で協調したことも、思い起こす意味があります。

重要なのは、「緊急性」、「具体性」、「有益な結果」という3つの要素が目に見えるようになるまで手をこまねいている必要はないということです。むしろ、新型コロナウイルスのパンデミックへの取り組みから、グローバル経済を下支えし、新しいテクノロジーのメリットを解き放つことに至るまで、リーダーたちがこれらの各要素を見極め、前進させることで、連携に向けたモメンタムを構築することができるのです。

そして、連携が実現したときに期待できるもう一つの要素、それは「包摂性」です。

企業、政府、市民団体のパートナーシップは、気候変動との闘いにおける重要な取り組みを後押ししています。2030年までに世界の排出量50%の削減を目指す国連が支援するキャンペーン「Race to Zero(レース・トゥ・ゼロ)」には、7,000以上の企業、1,000余りの教育機関、1,000を超える都市が参加しており、世界経済フォーラムもこのキャンペーンを推進しています。こうした広範な連携は、好ましい結果をもたらす可能性を高めるだけでなく、当事者間の結束力を強化し、持続性を高める役割も果たします。

世界の課題に取り組むのは容易なことではありません。だからこそ、私たちは連携が可能な分野を早期に見つけ、それを実現する環境を作り出さなければなりません。他分野で意見が食い違うために重要課題の進捗が阻害されるリスクは、単純に言ってあまりにも高すぎるのです。

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