日本は「給与デジタル払い」でキャッシュレス化への遅れを巻き返せるか
日本は、他のアジア諸国と比べキャッシュレス化への移行が遅れていますが、給与デジタル払いの導入で状況の改善が期待されます Image: Unsplash/Jonas Leupe
- 日本政府は、給与のデジタル払い制度を来春にも解禁する方向で調整を進めています
- しかし、制度の導入を実現するためには、システムコストと運用コスト、運用工数の増大が多くの企業の障壁となっていることが分かりました
- 他のアジア諸国と比べ、日本のキャッシュレス化への歩みは遅れをとっていますが、日本政府は本腰を入れて状況の改善に取り組む姿勢を示しています
日本政府は、給与をデジタルマネーで受け取る制度を2023年春にも導入する準備を進めています。企業が、銀行口座を介さずスマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して、労働者に給与振り込みができるこの制度を推進することで、外国人労働者の受け入れや金融サービス市場の拡大、規制緩和といった複合的な課題の解消と成長促進を図ることが期待されています。
しかし、大手法人向け統合人事システムの開発を行うワークス・ヒューマン・インテリジェンス社が247法人を対象に行った調査によると、「給与デジタル払い」の導入を、検討中もしくは検討予定であるとした企業は30%に満たず、70%の以上の企業が、検討の余地も利用する予定もないと回答。その理由に、システムコストと運用コスト、そして、運用工数の増大が障壁となっていることが分かりました。
給与支払いにかかる事務手数料の削減や、銀行口座の開設へのハードルが高い外国人労働者への利便性の向上に加えて、従業員の給与受け取り手段の多様性への対応が実現することで、QRコード決済や電子マネー決済の利用によるキャッシュバックやポイント還元といった特典を、企業が福利厚生の一環として間接的に提供できるなど、デジタルマネーによる給与払いのメリットは大きい一方で、コスト面やリスク面で考慮すべき点が多いという理由から、実現に向けてすぐに動き出せる段階にない企業が大半である現状が浮き彫りになりました。
経済産業省は、日本のキャッシュレス化の方向性や方策案を示す「キャッシュレス・ビジョン」を2018年に策定し、大阪万博が開催される2025年までに、キャッシュレス決済比率を40%に引き上げることを目標に、キャッシュレス化への取り組みを推進してきました。将来的にはその比率を世界最高水準の80%まで上昇させることを目指しています。その目的は、人手不足や地域活性化、生産性向上などの課題解決へつなげていくことにもあります。
同年、政府、教育機関、研究機関、企業からなる一般社団法人キャッシュレス推進協議会が設立され、業界横断的にこの取り組みを後押ししています。同組織が公開している「キャッシュレス・ロードマップ2022」によると、2010年に13.2%だった日本のキャッシュレス決済比率は、2021年に32.5%に上昇。一方、諸外国の状況を見てみると、アジア諸国だけでも、2020年時点の韓国(93.6%)、中国(83%)、シンガポール(60.4%)で状況をみると、日本のキャッシュレス化への歩みは遅れをとっていると言わざるを得ません。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行われている日本への入国規制が緩和され、観光消費がもたらす経済効果に期待が高まる中、日本は未だ現金決済が主流です。キャッシュレス決済の便利さに慣れている外国人観光客を迎え入れるにあたって、環境整備の加速化が求められます。方策を迅速に行動に移していくことで、さらなるインバウンド消費の機会を生むことに、大きな期待がかかります。
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