そのテクノロジー、ウェルビーイング? 文脈の捉え直しに市場あり
ウェルビーイングに関する領域では、どのようなトレンドやテクノロジーがあるのでしょうか。 Image: Splashimages
パンデミックを経て、私たちの生活は大きな変化を遂げています。DXが進んだことで、画面上でのコミュニケーションが増え、時間や場所の制約が減り、さまざまな面で効率は向上。一方で、人間が本来持っている肉体性を備えた充実感については、むしろ意識的に努力しないと得られないようなものとなりました。
同じくコロナ禍を機に「ウェルビーイング」という言葉が広がり、「幸福」と訳されますが、一連の流れを受けると、効率化を促進しつつ、肉体性を伴うことが、その実現のカギとなりそうです。つまり、そこに“ビジネスの種”があるともいえます。
では、ウェルビーイングに関する領域では、どのようなトレンドやテクノロジーがあるのでしょうか。オンラインデータプラットフォーム「スタティスタ(Statista)」のデータを元に考察していきます。
まず、市場規模について。グローバル ウェルネス インスティチュートが対象に実施した調査によれば、2020年時点での米国の市場規模は、全てのカテゴリーを合計すると4.4兆ドルになります。
美容やフィットネス、食事などのフィジカル分野が先行していることがわかりますが、ウェルビーイングはフィジカル・メンタル・ソーシャルの3つの柱からなるとされ、それぞれは切り離せない3重螺旋のような関係性があるため、メンタルはもちろん、職場や住環境など社会面も絡み合って成長していくことが期待されます。
ハピネス需要は世界のどこにある?
国別・地域別の動きはどうか。それを見る前に、世界各国の「幸せの度合い」をまとめた最新版の「2021 World Happiness Report」の数字に目を向けてみます。
10段階で幸福度を評価したランキングで、トップにつけたのはフィンランドの7.82。その後デンマーク、アイスランド、スイスと続き、いわゆる“大国”でないヨーロッパ諸国が高得点を挙げているのが目立っています。ベンチマークとして知っておきたい米国は6.98です。
アジアでは台湾が6.51の最高ポイントで、日本は6.0。数値上ではありますが、ウズベキスタン、クウェートやホンジュラスと同程度であり、経済的な規模と幸福度と必ずしも比例しないことが示唆されています。
すると、上位の国がテクノロジーの活用で抜きん出ているかといえば、そうでもありません。スタティスタが世界56カ国で定点観測として行っている消費者調査から、ヘルスケア関連のアプリに関する利用実態を集計。代表的な国だけを抽出すると、わかりやすいコントラストが見て取れます。
最もアプリを活用しているのは中国の65%、しかもそのおよそ7割が有料アプリを使用しています。一方の日本は12%と低迷していますが、裏を返すとまだまだ伸びる代があるということ。新しいテクノロジーの浸透が遅れてやってくる傾向が強い日本でも、今後の可能性に大きな期待ができるとも言えます。
もっと大きな地域単位で俯瞰すると、アジア太平洋や欧米の成熟度が明らかです。今後の人口増や昨今のモバイルの急成長といった要素を考えるならば、サハラ以南のアフリカが狙い目と言えそうです。
スマホが浸透し始めた初期には「24時間30cm以内」とも言われ、常時接続性の高さがハイライトされましたが、スマートウォッチやフィットネストラッカーを身につけて自分を「常にモニタリング」し、健康状態を可視化、分析することも世界では日常となりました。
こうしたデバイス市場の動向を見ると、2017年に189億ドルだったのが、2020年には463億ドルに成長。そこから2026年にかけてほぼ倍増、913億ドルにまで成長する見込があるとされています。
デバイスは、スマートウォッチだけではありません。IoMT(Internet of medical things)が上半身にほぼ「全部入り」となったイラストをご覧ください。電子タトゥーでストレスホルモン分泌をチェックしたり、フェイスマスクで呼吸パターンを測定したり、来るかもしれない未来が描かれています。
まだ市場が確立されていないテクノロジーも多いですが、例えば、皮膚温度や代謝をウォッチする「スマートテキスタイル」に関しては2019年の11億ドルから、2027年には64億ドルへと大きな伸びが予測されています(Research and Markets社調べ)。
皮膚温度の変化を察知してアクションを促したり、自動でコントロールをしてくれる機能は、業務で制服を着用するケースや肉体的な作業を伴う場合だけでなく、体温調節機能が衰えるとされる高齢者への普及も期待したいです。
スイッチオフに幸せを見出すトレンドも
テクノロジーを活用したアプローチが主流な一方で、見逃せないのが「デジタルデトックス」です。スタティスタが米国、中国、ドイツ、英国の4カ国(各国1049人ずつ)を対象に行なった「デジタルとウェルビーイング」に関する意識調査から、その裏付けが得られます。
「I consciously decide to ‘digital detox’ to improve my mental well-being(意識的にネット利用を減らして心の平静を他守るようにしている)」と回答したのは、中国が最多の24%。同時に、「I am afraid I will miss something important if I don’t check my smartphone constantly(スマホを常に見ていないと大事な何かを見逃してないか気が気でない)」も中国が最も高い45%。
つまり、デジタルデトックスを助けるテクノロジーやデジタル漬けに起因する不安を和らげるビジネスにはチャンスがあるということです。
実際、グーグルは、個々人がテクノロジーとのより良いバランスを見いだせるようサポートする取り組み「Digital Wellbeing Experiments」を展開。デジタルとの付き合い方をデジタル技術に助けてもらうというのも皮肉ですが、どんなアプリやツールを組み合わせるべきかを提案してます。
そのテクノロジー、ウェルビーイング?
成長が期待されるウェルビーイング市場に参入するには、最先端のデバイス、斬新な商品、聞いたこともないようなサービスが必要かというと、必ずしもそうではありません。
聖書には「新しき酒は新しき革袋に盛れ」という言葉があります。新しい考えを表現したり、新しいものを生かすためには、それに応じた新たな形式や場が必要であるという意味ですが、ことウェルビーイングにおいては、「古い酒も新しい革袋に」。つまり、これまで培ってきたビジネスやアイデアをウェルビーイングの文脈で新たに定義しなおすことで、市場性を得られるのではないでしょうか。
文=津乗 学(Statista Japan カントリーマネージャー)
*この記事は、Forbes JAPANの記事を転載したものです。
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