世界経済フォーラムの取り組み

8人の最高経営責任者が語る、企業が未来に対応するための方法とは

未来に備えるため、中小企業がレジリエンス(強靭性)を構築し、長期的な価値を生み出して社会貢献できる存在になるにはどうすればいいのでしょうか。

未来に備えるため、中小企業がレジリエンス(強靭性)を構築し、長期的な価値を生み出して社会貢献できる存在になるにはどうすればいいのでしょうか。 Image: Unsplash/@mikofilm

Julia Devos
Head of Business, Growth and Operations; Head of New Champions, World Economic Forum
Zishu Chen
Engagement Specialist, Strategic Intelligence, World Economic Forum Beijing
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム 年次総会2022
  • グローバル経済と持続可能な開発目標を推進する上で、中小企業は重要な役割を果たしています。
  • 世界経済フォーラムのレポート「Future-ready SMEs(未来対応型の中小企業)」は、未来対応力をグローバルに評価し、成功に導くための要素を特定しています。
  • 世界経済フォーラムのNew Champions Community(ニュー・チャンピオン・コミュニティ)のメンバーは、様々なアプローチを活用して未来対応型企業の創出に取り組んでいます。

中小企業は、世界の経済と社会の基盤にとって不可欠な存在です。そのため、これらの企業が外的ショックに対するレジリエンス(強靭性)を高めると同時に、 長期的な価値を創出して社会全体に利益をもたらす存在になるための方法を理解することが重要です。

200本以上の査読付き論文を徹底的に分析し、300人以上の中小企業の最高経営責任者や創業者の協力を得て作成された世界経済フォーラムのレポートによると、未来対応力の基本は、サステナブルな成長、社会に与える影響、適応能力という3つの柱であると結論づけられました。中小企業は、それぞれの未来対応力を評価するために、世界経済フォーラムのベンチマークツールを使用することができます。

世界経済フォーラムのNew Champions community(ニュー・チャンピオン・コミュニティ)は、新しいモデル、新しいテクノロジー、サステナブルな成長戦略を支持する中堅企業のグループです。これらの企業は、3つの柱を用いて未来対応力の構築をリードしています。

これらの企業の最高経営責任者(CEO)数名に、中小企業が未来への準備態勢を整えるための方法について話を聞きました。

1. サステナブルな成長

デジタル戦略で成長を実現する

モハメッド・アクージー氏、南アフリカのインペリアルロジスティクス最高経営責任者(CEO

アフリカを中心とした総合的な市場アクセス・物流ソリューションの事業者として、業界における当社の重要性が高まっています。当社が直面している課題は、仲介輸送や、非常に革新的でディスラプティブ(創造的破壊)なオペレーティング・モデルを持つ新しい競合他社の参入などです。

デジタル戦略は、新しい機会を捉え、データ主導型組織としてバリューを拡大させ、差別化して顧客のニーズを満たし、予測し、イノベーションを起こすための基盤となっています。

事業の核となるのは研究開発

趙燕氏、 中国のブルーメジバイオテクノロジー社、最高経営責任者CEO

当社では、20年以上にわたる基礎研究・開発を基に、バイオテクノロジーの発明をより良い健康のために応用しています。2011年には、ヒアルロン酸の分子量制御を可能にする酵素生分解を発明したことで、産業界への導入の可能性が拡大しています。

未来対応型企業になるためには2つの核となる要素があります。それらは、イノベーション能力を継続的に拡大することと、好調な営業利益を維持することです。この2つが当社の活力と成長を支える大きな原動力となっています。

市場ギャップを特定とリスク回避

ヨースト・ズィードベルク氏、オランダのCardano Development(カルダノ開発)社最高経営責任者(CEO

フロンティア市場における大規模で先駆的な金融リスクマネジメント・ソリューションのインキュベーター、開発者、ファンドマネージャーとして、当社のサービスや製品は、国内外の投資家が包摂的でサステナブルな経済成長に携わる際のリスクを吸収し、障壁を取り除くことを目的としています。

金融市場が十分発達しさらに強靭であることが地域の企業や社会の将来性を確保する上で鍵となる、と当社は考えています。国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための資金ギャップは2.5兆ドルと推定され、パンデミック(世界的大流行)の開始以来約70%増加しています。当社の業務でもこのギャップに対する緊急対応が焦点となっており、このような資本フローを強化することは、長期的かつインクルーシブな成長に不可欠なのです。

「インターネットビジネスが成長し続けていくには、変化を先取りしたイノベーションが必要であると考えています」。

ベン・クロフォード氏、セントラルニック・グループ最高経営責任者(CEO)

イノベーションを原動力とし、先手を打ち、成長を続ける

ベン・クロフォード氏、英国のセントラルニック・グループ最高経営責任者(CEO

企業や政府、そして一部の国家がオンラインでやりたいことを実現できるよう、当社はデジタル革命の最前線に立ち、支援してきました。インターネットビジネスでは、変化を先取りしたイノベーションで、先頭に立ち、成長できると考えています。

イノベーションの本質は、これまでのやり方と異なる方法を取り入れることです。イノベーション文化を向上させる戦略の一つは、ファッションのように、シーズンごとに自己改革を行う業界から人材を採用すること。これは、イノベーションを継続的に推進させる機会だと考えています。

2. 社会的インパクト

SDGsの目標を戦略、文化、オペレーションに組み入れる

ホセ・カルロス・フンクエイラ・S・メイレレス氏、ブラジルのピネイロ・ネト法律事務所(Pinheiro Neto Advogados、パートナー

当社は、社会的責任のイニシアチブに従事しているブラジルの法律事務所です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)と並んで、人権、労働、環境、腐敗防止に関する普遍的な10原則へのコミットメントを支持している、国連グローバル・コンパクトの署名企業です。

当社と社会全体に対して長期的な価値を生み出すことが可能となるように、当社の戦略、文化、オペレーションにプラクティス、バリュー、SDGsを組み込むことで未来対応力が高まり、企業の社会的責任に関する行動の透明性が増大します。

「世界の大きな課題に事業を集中させることが、未来への対応につながると考えています」。

張祥東氏、オーガニック&ビヨンド社最高経営責任者(CEO)

カーボンニュートラルに向けた重要な課題に焦点を当てる

張祥東氏、中国のオーガニック&ビヨンド社最高経営責任者(CEO)最高経営責任者(CEO

当社は中国の有機農業の先駆者です。農業はカーボンニュートラル達成に資する8つの重要分野の一つであり、温室効果ガス総排出量の約21-37%が食料システムに起因しています。

農業がカーボンニュートラルに寄与しているという認識がないこと、構造化されたビッグデータの不足、非科学的な炭素排出量の算定などは、有機農業を発展させる上で課題となっています。同時に、チャンスも多く、有機農業は伝統的な農業の欠点を補ってくれます。生物多様性の保護、土壌の質の向上、水質保全などの面です。世界の主要な課題に事業を集中させることが、会社の未来対応力を上げてくれると考えています。

3. 適応能力

長期的に考え、迅速に行動する

ヘンリク・エーケルンド氏、 スウェーデンのBTS GroupBTSグループ)創業者兼最高経営責任者(CEO

危機的な状況下では、短期的な思考がデフォルトになりやすいのですが、それでも行動が間に合わないことがあります。2020年2月にイタリアで新型コロナウイルスの感染が拡大したとき、グローバルコンサルタント会社である当社は対面式ワークショップが事業の70%を占めるため、長期的に大きな影響を受け、企業存続の危機に直面しました。

当社のアクションプランは競合他社とは異なるため、多くの人を驚かせました。1,200人の従業員全てに対し、減給なしに雇用を維持することを決定し、事業のデジタル化により販売戦略を転換し、配当や賞与の先送りや借入によって大きな手元資金を準備しました。当初は7割の減収となりましたが、2021年は2019年比で20%の増収増益となり、過去最高を記録しました。アジリティとレジリエンスは、当社の適応能力の鍵となり、未来対応力を高めてくれました。

テクノロジーを良い方向に向かう原動力にする

スタニスラス・ボッケ氏、香港のPALO IT(パロIT)社最高経営責任者(CEO

当社は、グローバルなイノベーション・コンサルティングを提供するアジャイルなソフトウェア開発会社で、恩恵をもたらすテクノロジーを企業が取り入れられるよう支援しています。この2年間、ほとんどの企業は困難に直面しましたが、危機は常に歴史を加速させるものだと認識しました。

当社の特徴は、デジタルトランスフォーメーションとサーキュラー・エコノミーという2つの大きなトレンドが交差する市場に位置していることだと思います。優先順位やスキルセットを変更することで、カーボンフットプリントが大きい企業に刺激を与えることができるようになったのです。当初は課題だったものが、長期的には大きなチャンスとなり、変革のニーズの高い分野でゲームチェンジャーとなることができたのです。

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