技術革新を気候変動目標の達成に役立てる3つの方法
テクノロジーだけで気候変動危機を解決することはできません。企業と政府が果たす役割は大きいのです。 Image: Unsplash/Hugh Whyte
- 経済や社会をネットゼロ・エミッションに移行させていくことが必要です。
- 3Dプリンティング、AI、量子コンピューティング、遺伝子組み換えなどが牽引するイノベーションは、ネットゼロ・エミッションへの移行を加速させるでしょう。
- それでも、テクノロジーのみで気候変動危機を解決することはできません。企業と政府が果たすべき役割は大きいのです。
気候変動がもたらす最悪のシナリオを防ぎ、より安全な未来を確保するために、世界は早急に低炭素経済に移行することが必要です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新調査によると、温室効果ガスの排出量を2025年までにピークアウトさせ、その後急速に減少させなければ、気温上昇を産業革命以前の水準から1.5℃以内に抑えることができないと予測されています。
気候変動目標を達成するカギとは
この目標を達成するためには、既存のクリーンエネルギーソリューションの規模の急速な拡大、クリーンエネルギーを生産・貯蔵する新しい方法の開発、そして過去の排出量を相殺する方法の検討が必要です。すべての段階において、技術革新が重要な役割を果たすことになるでしょう。
既存のクリーンエネルギーソリューションの拡大
これまでも、イノベーションによって風力、太陽光、原子力のようなクリーンで安価なエネルギーソリューションが実現しています。既存のクリーンエネルギー源を活用するには、導入規模を拡大し、効率の向上を継続することが必要です。ここでは、3DプリンティングとAI(人工知能)の進化が重要な役割を果たすでしょう。
3Dプリンティングは、より軽量で表面積の大きなソーラーパネルの製造を可能にし、太陽光発電の効率向上とコストダウンに貢献しています。また、3Dプリンティングによって、メーカーは複雑な次世代原子炉を設計し、迅速に試作、試験、市場投入を行うことが可能です。
新たなクリーンエネルギーの生産・貯蔵方法の開発
現在の気候変動対策を強化しても、目標を達成することはできません。ネットゼロを達成するためには、現時点で利用可能でない、またはコスト面で普及していない新たなテクノロジーやソリューションが必要です。
風力や太陽光のような変動率が高い再生可能エネルギーによって、温室効果ガス排出量を大幅に削減するには、今よりも優れたエネルギー貯蔵方法が求められます。電池のテクノロジーについては最近かなりの進展が見られますが、希少資源に依存しない、より安全で軽量な電池を開発することが必要です。量子コンピューティングは開発の初期段階にありますが、次世代電池の材料特性や設計のより良い組み合わせの解明に役立つかもしれません。
また、新たなエネルギー貯蔵方法を開発するだけでなく、核融合のような新しいエネルギーの利用も必要です。核融合は、安全で持続可能かつ効率的な無限のエネルギー源となる可能性があり、エネルギー研究では長い間「聖杯」と考えられてきました。
核融合は、水素などの軽い原子核が融合して太陽の中心よりも高温のプラズマを発生する仕組みで、ウランなどの重い原子核を核分裂させて小さな原子核にする既存の原子炉とは異なります。
プラズマは本来不安定なため、核融合に必要なプロセスを原子炉内で持続させることは困難です。しかし、ディープマインド社が深層強化学習を利用して核融合反応を制御する新たな方法を発見したことは重要なマイルストーンであり、核融合が将来的に実現可能なエネルギー源になることが期待されます。
しかし、既存・将来の再生可能エネルギーや電池だけで、ネットゼロ社会に完全に移行できるわけではありません。長距離輸送には、エネルギー密度が非常に高いエネルギーキャリアが不可欠です。そのため、海上輸送や航空輸送では、今でも蓄電された電気ではなく、燃料に頼っているのが現状ですが、グリーン水素と合成バイオ燃料が、よりクリーンなエネルギーへの移行を支援すると考えられます。遺伝子組み換えや合成生物学の進歩により、バイオ燃料の原料となる植物の遺伝子を組み替えて、バイオ燃料の生産効率を向上させる新たな可能性が開かれるかもしれません。
過去の排出量の相殺
意欲的なエネルギー転換を実施した場合でも、温室効果ガスを意図的に環境から除去することは、過去に排出された温室効果ガスを埋め合わせ、転換が遅れている産業からの排出量を相殺するための重要な手段になると思われます。
二酸化炭素除去(CDR)は、環境から二酸化炭素を直接回収し、自然または人工の貯蔵庫に貯蔵して、排出量をマイナスにする幅広いアプローチのことです。
現在、二酸化炭素を根に蓄える植物や、海から取り込んだ炭素を岩石に貯蔵する水処理技術など、さまざまな研究開発が行われています。しかし、これらのテクノロジーやその他のCDR技術を、気候危機に伴う緊急の必要性に対応する規模と時間で展開するには、莫大な投資が必要です。
炭素除去に関する「アースショット」のようなイニシアチブは良い出発点ですが、官民の動きを加速していかなければなりません。
変革を形にする
世界経済フォーラムは、革新的なスタートアップ企業と既存の企業を結びつけることで、エネルギー分野とその先の変革を形作るアイデアとソリューションの共有を促進しています。ダボスで開催された2022年の世界経済フォーラム年次総会では、「テクノロジー・パイオニア」と「グローバル・イノベーター」のコミュニティから100名以上の専門家や起業家を迎えました。
また、世界経済フォーラムの第四次産業革命センター(Centre for the Fourth Industrial Revolution)(C4IR)は、スタートアップ、既存の企業、各国政府、市民社会との連携を促進し、AI、ブロックチェーンなどのテクノロジー領域におけるイノベーション環境を形成する役割を担っています。C4IRは、ナショナルセンターとサブナショナルセンターの急拡大中のネットワークを通じて、ルワンダにおける医療品のドローン配送やAIを活用したブラジルの鉄道軌道保守など、技術的な解決策の試行、継続、拡張を支援しています。
気候変動危機は、テクノロジーのみで解決することはできません。意欲的な気候変動対策の目標達成には、各国政府、企業、個人の強力な取り組みが必要です。しかし、私はイノベーションによって現在の排出量を削減し、近い将来には排出量を取り除くことできると、前向きに捉えています。
*本記事は、Caixin Globalの記事の和訳を転載したものです。
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