産業の深層

グリーンテックの活用が、サステナブルな成長の新時代を拓く

新たなグリーンテックにより、サステナブルな成長と同時に、環境フットプリントの削減が可能に。

新たなグリーンテックにより、サステナブルな成長と同時に、環境フットプリントの削減が可能に。 Image: Reuters/Mike Segar

Philip Meissner
Professor ESCP Business School, Founder & Director European Center for Digital Competitiveness
  • 脱炭素化を進めるグリーンテクノロジーを活用することで、経済の発展と地球の生産限界の問題にうまく折り合いをつけながら解決することが可能です。
  • 垂直農法(ヴァーティカルファーミング)や3Dプリンティング、植物由来の代替肉など、新たなグリーンテックは、サステナブルな成長を実現しながら環境フットプリントの削減を可能にします。
  • グリーンテックを拡大させることでこの分野への投資が増え、ビジネスとディープテックの専門家の交流が活発になると期待されます。

作物の生育のため必要な水の量を95%減らすことや、食肉の生産時に必要な農地を80%減らすことを想像してみてください。また、生産拠点を顧客の近くに移転したり、100の部品から成る最終製品の部品を減らすことで、グローバルサプライチェーンから排出される二酸化炭素を削減するとしたらどうでしょう。突拍子もないアイデアに思えるような方法がグリーンテクノロジーによって、今日、現実的な解決策となっているのです。

グリーンテックとは、農業から建築まで幅広い分野で、人間が環境に与える負の影響を緩和するテクノロジーおよび科学的根拠に基づく解決策を指します。世界の二酸化炭素排出量の分野別割合は、輸送16%、農業19%、エネルギー生産27%、建設と製造31%となっており、残りの7%は暖房によるもの。グリーンテクノロジーは、これらすべての二酸化炭素を排出する分野に適用することができ、サステナブルな成長のための幅広い解決策となります。

グリーンテックにできること

農業の分野では、垂直農法(ヴァーティカルファーミング)が野菜の生産方法を大きく変える可能性があります。ベルリンに本社を置くインファーム社(Infarm)では、従来の方法に比べ、農地面積を99%、肥料を75%、水を95%削減しながら作物を栽培。また、タンパク質もより環境負荷の少ない方法で生産することができます。スイスのスタートアップ企業プランテッド社(Planted)は、二酸化炭素の排出量を74%削減しながら、ケバブから北京ダックまで、植物由来の(しかも美味しい)代替肉を生産しています。植物由来の食肉の良さはそれだけに留まりません。家畜を育てる必要がなくなることで、畜産業に使われている世界の農地の80%を他の用途に利用できるようになるのです。現在、世界の人口のカロリー摂取量のうち、動物由来の割合は20%にすぎません。

もう一つ、グリーンテクノロジーとしておそらくあまり知られていない新技術が、3Dプリンターです。その可能性は、一般的なロケットが必要とする部品数のわずか100分の1で、ロケット全体とエンジンを3Dプリンターで製造できるRelativity Space(レラティヴィティ・スペース社)の技術を見れば明らかです。

これにより、最終組み立てのために生産拠点に輸送する部品の数を減らし、最終的には集中型から分散型の生産インフラに移行することで、工場やサプライチェーンで排出される二酸化炭素を削減できると考えられています。

さらにグリーンテックは、エネルギーの生産と貯蔵の方法にも変化をもたらします。この分野では、重力エネルギーを利用して再生可能な電力を効率的に貯蔵するエナジー・ボールト社(Energy Vault)や、太陽光発電だけでグリーン水素を製造するHeliogen(ヘリオゲン社)が、最も革新的な企業として注目されています。

垂直農法は3Dプリンティングや蓄電とは根本的に異なりますが、これらの解決策には共通する点があります。それは、技術の進化と地球の生産限界の問題に折り合いをつけ、サステナブルな発展を可能にすること。それにより、グリーンテックは、世界中の生活水準を向上させる上で重要な解決策となり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に大きく貢献することができるのです。

良い意味で大胆に

地球や社会のためにグリーンテックの可能性をフルに活用するには何が必要でしょうか。また、この分野における大胆なイノベーションはどうすれば促進されるのでしょうか。根本的な解決策として、グリーンテック分野の資本と優秀な人材を世界中で増やすことが求められます。

必要な資金については、多くの投資家がこの分野への高い期待を示しています。例えば、ブラックロック社(Blackrock)のCEO、ラリー・フィンク氏は、今後ユニコーン企業となる企業のうち、1,000社はグリーンエネルギー企業だろうと述べています。

ビル・ゲイツ氏は、この分野から、テスラや、グーグル、アマゾン、マイクロソフトに相当する企業が8社から10社生まれると予想し、PwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、こうした見通しからグリーンテックへの投資が年間で210%増加していると報告。

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こうした投資の拡大が革新的な思考や大胆な起業家と結びつけば、グリーンテック分野は大きく成長するでしょう。その際、大学のエコシステムが重要な役割を果たすと私は考えています。また、グリーンテック分野における発明とその商業化を成功させるには、ディープテクノロジーの知識とビジネススキルが必要となるため、組織や分野の枠を超えたコラボレーションを可能にする新しいオープンなエコシステムを作り出すことが求められます。

こうすることで、専門的な大学とビジネススクールの学生や卒業生の間で新たな絆が結ばれ、そこから、グリーンテクノロジーを通して前向きな変化を起こすためのチームが生まれるのです。

技術の進歩と地球の生産限界の問題に折り合いをつけ、サステナブルな成長への道を開くグリーンテック。今、この道を進んで行くかどうかは私たち次第なのです。

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