新たな「老後の風景」? いま、高齢者たちのルームシェアが熱い
年を取ってからの一人暮らしが不安であれば、安い家を探している高齢者ハウスメイトを見つけて、ハウスシェアすればいいのではないか。 Image: Getty Images
高齢者社会化の中、シニア人口の増加は当然、介護費、医療費の増大にもつながる。国際医学情報センターによると、先進国では、老人ホームや在宅看護に対する支出が1990〜2001年で約2倍(アメリカでは1320億ドル)となり、また2000年から2020年における長期的ケアの公的融資がアメリカ、イギリスでは20〜21%、日本では102%増加すると推定されているという。
そんな中、アメリカで、高齢化社会における新しい問題解決か、ともいえるおもしろい動きがみられる。
高齢者たちにのしかかる「住まい」のコスト
「Harvard Joint Center for Housing Studies」によれば、アメリカでも2030年には50歳以上の人口が1億3200万を超えるという。2030年には5人に1人が65歳以上になり、2040年には8人に1人が75歳になることが予測されている。
また、既に2012年には、アメリカで1,250万人の65歳以上の高齢者が1人暮らししているという統計が出ている。ちなみに、そのうち70%が女性だ。
そして、高齢になってからのライフスタイルの中でも「住まい」にかかるコストはとりわけ大きいという数字も出ている。2012年には、50歳以上のアメリカの人口のうち3分の1が収入の30%以上を住居費として支払っていることが明らかになった。
住みなれた家から離れたくはない、しかし広すぎる家を維持するコストは重荷だし、セキュリティ上も心配だ。使っていない部屋や家具はいたむし、何より、年を取ってからの一人暮らしが不安であれば、安い家を探している高齢者ハウスメイトを見つけて、ハウスシェアすればいいのではないか。
時代背景を背負ったそんな需要から続々と現れているのが、広くなりすぎた家にルームメイトを探している(一人暮らしが不安な、住宅コストも削りたい)老人と、安い住まいを探している(一人暮らしが不安な、住宅コストも削りたい)入居希望者とのマッチングサイト、「エルダーヘルプ(サンディエゴ大学発NPO)」「シニアホームシェアリング」「シニアホームシェアーズ」などだ。ユニバーシティ・オブ・ミシガン病院にも「シニアのホームシェアプログラム」が設けられ、マッチングの活動を行なっている。
孤独感は「毎日タバコ一箱」と同じ悪作用
「シニアホームシェアーズ」創業CEOのステファニー・ヒーコックス氏は数年前、一人で暮らせなくなってきた高齢の母親が有料老人ホームには入りたがらないことに困って、このアイデアを思いついた。
高齢者は家の中で階段から落ちたりして怪我をする恐れもある上、丸一日誰とも話さない日も多くなる。最近ではシニア層の中で孤独感は特に大きな問題となっている。ある研究結果によると、孤独感は「毎日タバコ一箱を吸う」のと同じ負の影響を体に及ぼすそうだ。
ヒーコックス氏は、母のような高齢者たちが同じような境遇の人たちと一緒に住み、交友関係を構築し、食事なども共有する環境を目指した。結果、「シニアホームシェアーズ」は、必要以上に家が広い老夫婦や高齢未亡人と、安全で手頃な価格の住まいを探している高齢者をマッチングするサービスを提供している。
「ヘルパーシステム」。連絡の受返信も代行
ヒーコックス氏がこのプロジェクトを実現するにあたってまず初めに作ったのが、「ヘルパーシステム」だ。
「シニアホームシェアーズ」では住宅所有者と家を探している者同士をマッチングするために、希望者に個人プロフィールをサイトから入力してもらう。趣味やこだわりなどを含む自己紹介文章の入力や、高齢者ならではの質問や一緒に住むにあたって気になる点なども記入できる。
「ヘルパーシステム」は、このサイトから入力を、ホームシェアを利用する高齢者本人ではなくヘルパー、すなわち家族や友人に代わりにやってもらう仕組みだ。まずはウェブサイトで初期設定をし、連絡の受返信も本人に代わって行うことが可能だ。
ちなみに居住地や予算など、ユーザーのプロフィールに関する質問にアルゴリズムを適用し、各ユーザーに適したハウスメイトを紹介するシステムとなっている。
江戸時代の「長屋」的な共同体や、三世代以上同居世帯が珍しくなかったかつてへの回帰は無理かもしれない。だが、住空間をシェアすることで高齢者たちも、「テラスハウス」さながらに、自分たちのコミュニティを作ることができるのではないか。「アメリカでは一人暮らしの70%が女性」の数字があるので、男女比がやや心配ではあるが。
老後の人生における「正解」「幸福」は実に人それぞれには違いない。だが、大事なのは選択肢が増える、それぞれの引退後の人生を選べることだ。高齢者のQOL向上の意味からも、「老人たちのルームシェア」は、老後の人生におけるダイバーシティの実現になっていきそうだ。
文=石井節子 協力=我満萌香
*この記事は、Forbes JAPANの記事を転載したものです。
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