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ウクライナ危機、その人道的影響は長期間に及ぶ見通し

ウクライナへの軍事侵攻による国内避難民は、700万人に達する恐れがあります。

ウクライナへの軍事侵攻による国内避難民は、700万人に達する恐れがあります。 Image: UNSPLASH/Markus Spiske

Andrej Kirn
Head, International Organizations and Humanitarian Agenda, World Economic Forum
Lisa Ossenbrink
Writer, World Economic Forum
  • ウクライナでの紛争激化による民間人の死傷者は膨大な数にのぼり、人道支援の必要性が急激に高まっています。また、この紛争が新たに近年最大の難民危機の一つになる恐れがあると援助機関は警告を発しています。
  • 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2月末時点で60万人以上がすでにウクライナ国外に逃れており、今後数カ月で400万人が避難すると推定しています。
  • ウクライナの今回の危機では国内避難民も多数にのぼり、その影響は長期にわたって多くの人に及ぶとみられます。

過去から続く紛争の激化

ウクライナ東部におけるウクライナ国軍とロシアが支援する分離派との紛争は、2014年に始まりました。この8年に及ぶ紛争で民間人3,400人を含む1万3,000人の生命が奪われ、85万人以上が避難しました。この間に、何があったのでしょうか。

2014年のウクライナ革命によって、ウクライナでは親ロシア派による社会不安が生じ、その結果、ロシアが戦略的に重要なクリミア地方を併合。ドンバス地方において親ロシア分離派が、ウクライナ政府軍と紛争を始めるに至りました。援助機関は当時、コンタクトライン近くに居住を続ける80万人を含む250万の人々に支援を行っていましたが、分離派支配地域への支援を届ける際に、ますます多くの障害に直面することになりました。

その後8年にわたる東ウクライナでの紛争により、300万人余りが緊急人道支援を必要としていました。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって事態が悪化。人々はより一層弱い立場に置かれ、継続的な保護と人道支援への依存度が高まったのです。

現在の危機の深刻さ

暴力行為が現在のように激化する以前から、ウクライナでは300万近くの人々が人道支援を必要としていました。UNHCRは、今後数カ月の間にウクライナから周辺国へ逃れる難民は400万人に昇ると推定しています。

それだけではありません。国連の推定によると、今後ウクライナ国内の1,200万人に救済と保護が必要になることから、人道支援を必要とする人々が計1,600万人に達することになるのです。欧州委員会のヤネス・レナルチッチ危機管理担当委員(European Commissioner for Humanitarian Aid and Crisis Management)は、これがヨーロッパ大陸において過去数十年で最大の人道的危機になるおそれがあるとの声明を発表しました。

「私たちが現在目の当たりにしている出来事は、ヨーロッパ大陸においてこの数十年で最大の人道的危機になる恐れがあります。支援の必要性はこの瞬間にも高まっているのです」。

欧州委員会危機管理担当委員ヤネス・レナルチッチ

特に、家庭や子どもへの影響が懸念されます。軍事侵攻により、重要なインフラが被害を受けたことで、数十万のウクライナの子どもたちが安全な水、暖房、電気を利用できない状況にあります。身近で起こる暴力により子どもたちは深い心的外傷を負い続けており、大規模な爆発で負傷した民間人には、子どもたちも含まれています。

UNHCRは、この種の攻撃で負傷する民間人の数が増加していることを受け、ウクライナの人々に対し、人口の多い地域を避けるよう促しています。

国際社会の対応

ウクライナ内外で高まる人道支援のニーズに対する反応は、まさに全世界がこの危機の展開を注視しているように、勇気づけられるものでした。米国政府は、同国に約5,400万ドルの人道支援を表明。欧州連合(EU)は緊急支援の調整を行い、人道支援を強化しています。欧州委員会は、紛争被害にあった民間人を支援する緊急援助プログラムに9,000万ユーロ(1億ドル)の資金を追加提供すると発表しました。

さらに国連は、ウクライナ国内の人々と近隣諸国へ逃れた難民に対して今後3カ月間で計17億ドルの緊急の人道支援を提供すると、共同緊急アピールを発表

赤十字国際委員会(ICRC)は、 ウクライナ国内の人々や戦闘員のために、すべての当事者が国際人道法を遵守し、人道的アクセスを確保することが極めて重要だと強く訴えています。さらに、ウクライナでの紛争激化を受け支援を必要としている人々に、1億5,000万スイスフラン(1億6,300万ドル)を提供することを呼びかけました。

EUはウクライナの紛争から避難した人々への外部支援の方法を検討し、27のEU加盟国に最長3年間滞在、就労する権利をウクライナ人に与えることを決定。このほか、多くの市民が、越境した難民がいる国境に食料品や医薬品、衣類やその他の必需品を届け、自ら支援を行っています。

しかし、危機が長期化し、ほかの国々にも影響が及ぶにつれ、さらに長期的な資金提供が必要になるとみられます。世界銀行と国際通貨基金(IMF)は、ウクライナを支援する声明を発表し、迅速な予算支援活動も含めた資金支援の選択肢を準備しています。

すべての難民の尊厳が守られるために

ウクライナから避難したアフリカ出身の人々や他国の国民が、列車への乗車を拒否されたり、避難場所を求めて近隣諸国に入国することを阻まれたりしている事実が、複数のレポートで明らかになっています。何よりも重要なのは、紛争から逃れてきたすべての人々が平等に扱われることです。

ウクライナ危機は、最も弱い立場にある人々が影響を受ける新たな危機です。この危機によって脆弱な人々は先の見えない避難を強いられており、すでに相当数にのぼっている世界の避難民を増加させています。

国際社会が目の当たりにしている人道的危機がウクライナ、エチオピア、シリアのいずれで起きていたとしても、すべての難民が尊重され、国際的に保護されるとともに、人としての尊厳を認められなければなりません。今回ウクライナで起きた出来事に対し、世界的に強い抗議の声が上がり、メディアの注目が集まりました。こうした反応は、人道的危機の、あるいは避難先を求める世界中の人々に対する新たな基準に反映されるべきものです。

UNHCRの推計では、世界全体で8,240万の人々が避難を余儀なくされており、保護と支援を必要とする人々の数は、過去最高の水準に達しています。ウクライナ危機は膨大な数の国内避難民と難民を生み、その影響は今後数ヶ月から数年にわたって多くの人に及ぶものとみられます。

この危機が続く限り、国際社会はウクライナを支援し続けなければなりません。

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