ニュースルームの多様性がより良いメディアを生む、その理由は
ニュースルームの多様性は、社会の多様性を映す鏡です Image: Flickr/Anthony Quintano
- あらゆるメディアプラットフォームが存続していくためには、ニュースルームにおける多様性の維持、包摂的なコンテンツの提供が不可欠です。
- ニュースルームと報道の在り方がより多様で包摂的であれば、社会をより良く表現することができ、視聴者の信頼を獲得し、さらには報道機関の収益性の向上へとつながります。
- ニュースルームの多様性や包摂性を積極的に優先しようとしない報道機関は、読者や視聴者と収益、その双方を失う可能性があります。
BLM(ブラック・ライブス・マター)の活動や#MeToo運動は、職場における人種の多様性とジェンダー・ダイバーシティの欠如に光を当てました。ニュースルームにおける多様性も例外ではありません。2016年のピュー研究所の分析によると、ニュースルームの従業員のうち有色人種はわずか23%。男女比で見たときの男性の割合は61%でした。
これまで私は、Internews(インターニュース社)のチーフ・エグゼクティブとして、全ての大陸を股にかけ、数多くのニュースルームを訪問してきました。全てに共通しているのは、多様な人材を確保することが、正確で報道性の高いニュースコンテンツの制作につながる、ということです。
世界がますます多様化する中、それを組織に反映させることはニュースルームに課せられた使命であり、それができないニュースルームは取り残されていくでしょう。
新たな視聴者の獲得において、従来のメディアを凌駕することも多いユーザー生成型のニュースプラットフォーム。その台頭が明確に示しているのは、多様な視聴者に対応しないことで生じるリスクです。ブラビティ(Blavity)やOutlier(アウトライアー)のような、ユーザーによるトレンド生成型のニュースプラットフォームにおける視聴者の増加傾向から分かるのは、新世代の読者・視聴者が自身の経験や視点を反映したコンテンツを求めているということです。
どのようなメディアプラットフォームであっても、存続していくためには従業員の多様性を維持し、包摂的なコンテンツを提供することが不可欠です。だからこそ私は、今でも業界内でインクルージョンが不足していることにショックを受けているのです。しかしありがたいことに、世界経済フォーラムの報告書「Tackling Diversity and Inclusion in the Newsroom(ニュースルームにおける多様性および包摂性への取り組み)」では、ビジネスと倫理の観点からこの課題が取り上げられています。
様々な視点を取り入れる
様々な視点や声の探求、よく調査された複雑なストーリーの提供を誇りとするメディア機関にとって、社内の多様化はなくてはならないものです。メディアが提供するニュースコンテンツは、そのサービスの提供対象である多様な社会を正確に反映したものでなければなりません。社会を反映するためには、文化、宗教、性別の異なる、様々なジャーナリストの参加が必要です。
大切なのは、異なった視点や観点を提供することだけではありません。メディア機関は、制作している多様なニュースコンテンツが、ニュースルームの文化にしっかりと反映されていることを確認する必要があります。そうしなければ、視聴者にニュースの信憑性を疑われてしまうかもしれないのです。
文化的に不適切なミスをなくす
どのような経歴を積み重ねていようと、ジャーナリストであれば誰しも、自身とは異なる視点を持つストーリーを客観的に報道する能力を十分備えているはずです。しかし、知識不足や無意識の偏見により、文化的に無神経な報道を行ってしまうジャーナリストも存在しています。
誤解しないでいただきたいのですが、あるニュースに個人的なつながりのあるジャーナリストだけがその話題について書くべきだと言いたいのではありません。しかし、ニュースコンテンツのレビューをサポートできる多様なジャーナリストチームを持つことで、報道機関のブランドを傷つけるようなミスを減らすことができるのです。
昨年、ガーディアン紙は、ワイリー氏に関する記事中でイギリスのラッパー・ケイノ氏の写真を誤って使用し、謝罪を掲載しました。ワイリー氏には当時、反ユダヤ的な発言により世間の厳しい視線が注がれていました。同紙はこれを「単純な誤り」であると主張したものの、ネット上ではニュースルームにおける多様性の欠如に関する議論が巻き起こったのです。少数派コミュニティ出身のジャーナリストの多くは、より多様性を備えたニュースルームであれば、世に出す前にミスに気づけはずである、という見解をもっていました。
信頼獲得に貢献する
27カ国を対象としたイプソス(Ipsos)の調査によると、2014年から2019年までの5年間で、新聞・雑誌に対する国民の信頼は平均16%低下したことが分かりました。一方、模範となる独立したメディアシステムの模範とされてきた米国と英国では、印刷メディアに対する国民の信頼がそれぞれ26%、27%低下しました。
ここで重要なのは、「メディア」と「ローカルメディア」の間には大きな違いがあるということです。ローカルニュースの報道機関は、自分たちがサービスを提供しているコミュニティをよりよく知り、それを反映していることが多いため、高い信頼を獲得しています。
今回のパンデミック(世界的大流行)を経て、メディアへの信頼がかつてないほど重要になりました。ここ数年、メディア機関は新型コロナウイルスの感染率やワクチンの取り組みについて、何十億人もの人に最新情報を提供する役割を担ってきました。エピセンターNYC社(Epicenter-NYC)の成功は、ローカルメディアがコミュニティの信頼を得ることができた時にどれほど大きな影響力を持つかということを示す一例です。エピセンターNYC社は、ニューヨークのジャクソンハイツ地区の住民が中心となって設立した、住民のためのメディア企業。地域でのワクチン接種率が低迷していた際、エピセンター社はワクチン予約に関する情報をサイト上で簡単に確認できるよう公開しました。その結果、同社は4,600名以上のワクチン接種を促進したのです。
ニュースルームの多様性を高めることは、様々なコミュニティやその他の少数派のグループとの信頼関係の構築に役立ちます。パンデミックが未だに猛威を振るっている中で、ローカルなニュース機関も、国際的なニュース機関も、視聴者との信頼関係を維持・構築するための方法を模索しなければなりません。
メディア機関の収益性を向上させる
研究によると、高い多様性を備えた企業は多様性のない企業に比べ、収益性の面で上回る傾向にあることが示されています。マッキンゼー社(McKinsey)の2019年の分析によると、経営陣のジェンダー・ダイバーシティが上位4分の1に入る企業は、同業他社に比べて平均以上の収益性を達成する可能性が25%高くなっています。ニュースルームの多様性や包摂性を積極的に優先しようとしない報道機関は、読者・視聴者と収益の双方を失う可能性があるのです。
世界経済フォーラムが発表した調査結果が浮き彫りにしているのは、今の世界を正確に反映したニュースコンテンツの提供を誇りとするメディア機関を更に良いものにしていくためには、ニュースルームの多様化が不可欠だということです。
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