ダイバーシティやインクルージョンを推進する、ヒューマンライブラリーとは
「物語を共有するため、人という本を借りましょう」。ヒューマンライブラリーは読者にそう呼びかけています。 Image: UNSPLASH/Alfons Morales
- パンデミックの発生以降、60%以上の人が、国家間の対立が悪化したと考えています。
- 偏見をなくすため、ヒューマンライブラリーでは異なる立場の人たちが集まる場を提供しています。
- デンマークで生まれたこの非営利団体は、現在1,000冊以上の「ヒューマンブック」を貸し出しています。
人々は皆、良い物語が大好きです。物語は強力なコミュニケーションツールであり、適切な方法で利用すれば、人と人の溝を埋めることもできます。
しかし、活字から誰かの物語を読み解くのではなく、実際に経験者の話を聞くことを想像してみてください。ホロコーストの生存者の体験談や、摂食障害のある人に話を聞いて、自分の認識を改めることがもしできるとしたらどうでしょうか。
「物語を共有するため、人という本を借りましょう」。ヒューマンライブラリーは、それを可能にします。
それぞれの「本」は、ライフスタイル、信念、障がい、民族など、偏見や不名誉と闘う各グループを代表しています。
科学で偏見をなくす
新型コロナウイルス感染拡大の中で、社会的な隔たりが広がったと言われています。ピュー・リサーチセンターの調査によると、パンデミックの発生以降、国家間の分断が悪化したと考える人は60%を超えています。
この調査結果は、人々を結びつけるのに今ほど最適なタイミングはないことを示しており、これは世界経済フォーラムの2022年の年次総会における「Working Together, Restoring Trust(信頼を取り戻すために一致協力を)」というテーマで取り上げられています。
「The Essential Job Interview Handbook(エッセンシャルジョブインタビュー・ハンドブック)」の著者で、キャリアコーチのジーン・バウア氏によると、人があなたのことを好きかどうか、あるいは一緒に働きたいかどうかを判断するのに要する時間はわずか3秒だそうです。では、どうすれば自分の先入観や偏見、ステレオタイプの判断を取り除くことができるのでしょうか。
偏見への対策として長年続けられてきた研究に「接触仮説」というものがあります。この理論によると、グループ間の接触が適切な条件下で行われた場合、寛容と受容を促進するのに役立つとされています。
また、これまでの研究でも、たった10分間他人の視点に立ってみることで、長期的な効果が得られることが示されています。例えば、ある研究によると、個別に対話することでトランスフォビアが軽減されることがわかりました。直接対話することにより、トランスジェンダーの人の視点に立って世界を想像することができるようになるからです。
ヒューマンライブラリーも同じ原理で運営されています。
ヒューマンライブラリーの仕組み
ヒューマンライブラリーは、21年前にデンマークの人権活動家でジャーナリストのロニー・アバゲール氏が、非暴力活動に興味を持ったことがきっかけで創設されました。
現在では80か国以上でイベントを開催し、50以上の言語で1,000冊以上の「ヒューマンブック」を貸し出しています。
それぞれの「本」には、「慢性うつ病」、「人身売買の生存者」、「イスラム教徒」、「トランスジェンダー」、「黒人活動家」などのタイトルがつけられており、それらを代表する人々の経験が語られます。
「図書館というのは、金持ちでも貧乏でも、ホームレスでもお城に住んでいても、教授でも読み書きができなくても、誰もが歓迎される数少ない場所の一つです。だからこそこの取り組みはうまくいくだろうと考えていました」とアバゲール氏はCNNのインタビューで語っています。「間違いなく、現代において最もインクルーシブな施設なのです」。
ヒューマンライブラリーは、一対一でも少人数のグループでも、人が安心して参加できる空間を作り、本を表紙で「判断しない」ように呼びかけています。ここでは、多様性やインクルージョンに対して画一的な解決策でアプローチするのではなく、一人ひとりの偏見や先入観に合わせたアプローチを行っているのです。
「人々は安全な場所で他者とつながり、緊張やストレスを和らげたいのでしょう」とアバゲール氏は語ります。
ダイバーシティとインクルージョンの戦略
昨年、世界経済フォーラムが発表した「ダイバーシティ、平等、インクルージョン4.0ツールキット」は、企業がテクノロジーを活用して公正で公平かつ、多様性のある職場づくりを進めるよう支援するものです。
「成功する組織は、従業員の多様な意見、スキルセット、人生経験によって支えられています」。世界経済フォーラムの取締役であるサーディア・ザヒディは、発表時のプレスリリースでこのように話しています。
「人種間の正義、ジェンダー公正、障がいのインクルージョン、LGBTIの平等、そしてあらゆる形態の人間の多様性を包括することは、新型コロナウイルス感染拡大の危機から抜け出そうとする職場の『新常識』となる必要があり、この「新常識」を早急に実現するためにテクノロジーを活用できることは間違いありません」。
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