国連総会からCOP26へ:気候変動対策の次に必要なこと
Image: REUTERS/Caitlin Ochs
多くの人が、この10年を気候変動対策の「決定的な10年」と呼んでいます。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)から世界が立ち直り始めた中、気候変動対策のための時計の針は進み続けています。気候変動政府間パネル(IPCC)は年頭に、気温が予想を上回る速度で上昇していると報告しました。また、今月初めに発表された報告書では、各国の気候変動問題への取り組みがなお不十分であることが明らかになりました。また、ニューヨークで行われた第76回国連総会(UNGA)には、11月にグラスゴーで開催される国連気候変動会議第26回締約国会議(COP26)を前に、世界のリーダーたちが集まりました。
こうした国連総会において行われた発表は、何を意味しているのでしょうか。人、地球、繁栄を守る方法でこの決定的な10年に突入するためには、COP26までにどのような重要なステップを踏む必要があるのでしょうか。ここでは、先週の国連総会で取り上げられた、COP26において気候変動対策に関する実質的合意を得るために重要となる4つの分野を紹介します。
1. ファイナンス
バイデン米大統領は、先週の国連総会において、開発途上国に対する米国の資金拠出を年114億ドルに倍増させることを約束しました。経済協力開発機構(OECD)の最新の報告によると、2019年の気候関連の資金提供は796億ドル相当にのぼります。COP26で資金提供を成功させるには、オーストラリア、カナダ、日本、イタリア、英国などの国々が年間20億ドルから40億ドルの追加拠出を誓い、気候変動対策資金の公正な分担を果たす必要があります。こうした成果が得られると、炭素市場や透明性といった重要な問題に合意するための自信が深まります。先週の国連総会での約束は、COP26に向けた気候変動対策資金への期待を新たにするものでした。
次に必要なこと:気候危機は地球規模課題であり、世界のすべての国が対応しなければなりません。しかし、最貧国は気候変動に対処する体制が最も乏しく、その影響を最も受けやすい国々です。そのため、2009年にコペンハーゲンで開かれたCOP15および2015年のパリのCOP21において、富裕国は気候変動対策資金として2020年までに年間1,000億ドルを貧困国に提供することを約束しました。また、COP26の合意には、アフリカグループ(Africa Group)、気候脆弱性連合(CVF:Climate Vulnerable Forum)、後発開発途上国(LDC:Least Developed Country) 、小島嶼国連合(AOSIS:Alliance of Small Island States)などの国々からの信頼を得ることが必要です。これらの交渉グループにとって、コペンハーゲンとパリで交わされた現在未達成の約束を果たすことが、グラスゴーでの交渉による合意の前提条件となります。
2. エネルギー
先週の国連総会では、中国が海外における石炭火力発電所の新規建設を停止することを表明しました。これは年初の日本および韓国の動きに続くものであり、中国の海外におけるエネルギーインフラ投資が大きく変化したことを示しています。
世界の温室効果ガス(GHG)総排出量の約65%を、エネルギーが占めています。世界的に見ても、私たちはよりクリーンなエネルギーに向けて重要な一歩を踏み出しています。今年初めには、世界のほとんどの地域で太陽光発電や風力発電が、石炭や化石燃料発電よりも安価になりました。エネルギーの課題に特化した首脳級の会合としては過去40年で最大規模となった、今月初めの「国連エネルギー・ハイレベル対話」では、フランス、ドイツ、英国、チリなどの各国首脳が、新たな石炭発電所の建設を中止することを誓いました。しかし、世界の電力の3分の2は、未だに化石燃料の燃焼によるもので、これは世界で最も炭素消費量の多いエネルギー源です。
次に必要なこと:よりクリーンなエネルギーを求める機運が高まっていることは間違いありません。その事例の一つが、COP26の議長国であるエネルギー転換協議会(Energy Transitions Council)が最近立ち上げた技術支援パッケージです。このパッケージが促しているのは、主要開発途上国において石炭を過去のものにするということです。しかしながら、インド、南アフリカ、東南アジアなど、未だに石炭に依存している主要地域がクリーンエネルギーに移行するには、富裕国が必要な資金や技術的を提供することが重要な課題となります。
3. モビリティ
輸送が燃料燃焼による排出量に占める割合は24%に。また輸送による二酸化炭素排出量のおよそ4分の3は路上走行車両が占めています。そのため、各国がパリ協定を達成するためには、ゼロエミッション車への移行が不可欠です。今年初め、英国や欧州連合(EU)を含む主な自動車市場は、2035年までにすべての新車をゼロエミッション車にすることを誓約しました。同様に、2036年までに製造車両をゼロエミッション車のみにすることを約束しているのは、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、GM、JLRです。ところが、米国、中国、インドなど、いくつかの大規模な自動車市場では、そうした誓約がなされていません。
次に必要なこと:COP26でモビリティに関する成果を上げるためには、米国、中国、インドなどの主要な自動車市場と自動車メーカーが、ゼロエミッション車以外の全車両の廃止時期を2035年頃に定め、これを達成するための明確な計画を立てることが必要です。しかし、ゼロエミッション車の生産を拡大し、これらの目標を達成するには、電気自動車の充電インフラが依然大きな問題となります。
4. 重工業と大型輸送
セメント、鉄鋼、化学などの重工業と、海運、航空、トラックなどの大型輸送を合わせると、世界の排出量の30%を占めています。現在の傾向が続けば、これらのセクターが2050年までに排出量の16ギガトンを占める可能性があることが、最近の試算で明らかになりました。
これらのセクターの脱炭素化には、いわゆるグリーン・プレミアム(温室効果ガスの排出量が多い技術よりもクリーンな技術を選択した場合に発生する追加コスト)を低減する必要があります。2019年に立ち上げられたミッションポッシブル・パートナーシップは、重工業と大型輸送の脱炭素化に向けて、重要なステップをすでに踏み出しています。しかし、クリーンな手法を世界的に導入するには、グリーン・プレミアムが余りに高額であることがわかっています。
次に必要なこと:これらのセクターでさらに前進を遂げるには、グリーン・プレミアムを引き下げるためのイノベーションを促す規制や、経済的なインセンティブが不可欠です。COP26が成功を納めれば、将来性のある技術が手の届くところにあることを示すことができます。そのためには、小売業、自動車、建設業などの、重工業や大型輸送をサプライチェーンに持つ需要側の主な企業が、ネット・ゼロ・テクノロジーに投資することが必要です。そのためには、COP26の交渉担当者にとって重要な成果であるパリ協定第6条で合意に達し、炭素排出量をコスト化することで、各国政府はこれらの投資を促すことができます。
今後の展望
気候変動の最悪の影響を防ぐために、私たちは何をすべきかわかっています。それは、遅くとも2050年までに、炭素排出量を実質ゼロにすることです。そのためにはこの10年間で、排出量を大きく削減しなければなりません。今年の国連総会では、ファイナンス、エネルギー、モビリティ、重工業と大型輸送の各分野において進展がみられました。さらに、各国政府や企業が、COP26を気候危機へ取り組むための重要な転換点として活用できるようにもなってきました。それでも、気候変動対策の10年後までにこれらの重要目標を達成するには、あらゆる立場のリーダーたちが行動すること、しかも早急に行動することが必要です。
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