「自然気候ソリューション」への期待
自然気候ソリューションが求められる理由と、その対策を拡大するために必要な資金確保の方法とは Image: REUTERS/Lucas Landau
- 「自然気候ソリューション」が効果的に実現すれば、気候変動と生物多様性の損失という2つの危機に対処することができます。
- 自然気候ソリューションを拡大させるには多額の投資が必要となり、その取り組みへの信頼性を高めるための対策も求められます。
- COP26に先立ち、自然気候ソリューション・アライアンスはこのソリューションの実現に向けた大規模な資金調達に取り組んでいます。
猛暑や壊滅的な洪水、火災は、人々の生活を脅かすだけでなく、森林、農地、サンゴ礁などエコシステムにも甚大な影響を与えています。その結果、エコシステムに依存している経済や社会がさらなるダメージを受けることになります。
例えば、世界で最も寒い地域の一つであるシベリアで最近発生した森林火災を考えてみましょう。この「未曾有」の大火災は、5,700平方キロメートル以上の森林を破壊しただけでなく、65メガトン以上の炭素が放出し、危険な大気環境により住民は屋内に留まることを余儀なくされました。
もう一つの例は、サンゴ礁です。現在知られている海洋生物の約3分の1がサンゴ礁に生息していますが、気候変動の影響でサンゴ礁の消失が加速しています。この状況は、そこに生息する生物種に悪影響を及ぼすだけでなく、食料、観光、洪水被害軽減などの面でサンゴ礁に依存している、私たちの経済にも大きな影響を及ぼします。
そして、忘れてはならないのがアマゾンです。かつては「世界の肺」と呼ばれていましたが、森林伐採の影響を受け、現在では吸収する量よりも多くの炭素が排出されています。
このように、気候変動と自然破壊の加速という複合的な危機が、地球上で現実のものとなっていますが、この2つの問題に同時に対処し、環境、社会、経済に大きな付加価値を生み出すことができる戦略があります。それが「自然気候ソリューション」です。
自然気候ソリューションは、急速に進めるべき脱炭素化と同様に、気候目標を実現するために不可欠なものですが、その規模を拡大するためには課題があります。
10月31日から11月12日にかけて、スコットランドのグラスゴーで開催されるCOP26は、気候変動をコントロールするための最後のチャンスだと考えられています。ネットゼロを達成する期限である2030年までに、そして、ダメージを元に戻すことが手遅れになるまでに、私たちに残された時間はあと数年しかないのは事実ですが、このCOP26は、各国政府、グローバル企業、NGO が一丸となって、気候変動の緩和と適応戦略を強化するための重要な機会となります。
自然気候ソリューションへの期待
自然気候ソリューションとは、温室効果ガスの排出を回避し、森林、草原、湿地の炭素貯蔵量を増加させる行動です。よく知られている例は、森林の保全、修復、管理などです。修復は、森林を健全な状態に戻すだけでなく、炭素隔離量の増加、エコシステムにおける生物多様性の向上や土壌・水の質の改善、さらには、その森林に依存する地域社会への経済的利益をもたらします。
世界経済フォーラムがマッキンゼー・アンド・カンパニーと共同で発表したレポート「ネイチャー・アンド・ネットゼロ」によると、自然気候ソリューションにより、地球温暖化を1.5度または2度に抑えるために必要な排出削減量の約30%の削減を実現することができるとしています。この削減量は、各国政府や企業が直接的に実現することができるものですが、取引可能な市場で炭素クレジットを購入することで、より多くのステークホルダーが市場に参加し、自然気候ソルーション活動への投資を生み出すことにつながります。
自然気候ソリューションの活動例を紹介します。
- アマゾンは世界各地の森林、湿地、草原の保全と回復のために1億ドルを投資しています。具体的には、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーとのパートナーシップを通じて、米国東部における家族経営の森林所有者の炭素隔離を支援する目的で 1,000万ドル、さらに、ベルリンをはじめとする欧州の都市における生物多様性の促進、都市部のヒートアイランド現象の緩和、雨水管理の改善のために、375万ユーロをそれぞれ投資しています。
- ココアのサプライチェーンにおける森林破壊をなくす取り組みの一環として、ネスレはガーナとコートジボワールの森林再生に投資しています。これまでに数百万本の木を配布し、地域の農家1万人以上に対して森林保護の重要性や農業のベストプラクティスについての研修を実施してきました。
- ウォルマートは、2030年までに少なくとも5,000万エーカーの土地と100万平方マイルの海の保護・管理・復元への支援を約束しました。具体的には、米国内で同社が1エーカーの土地を開発するごとに、少なくとも1エーカーの自然生息地を保護することなどが挙げられます。
- アップルとコンサベーション・インターナショナル社は、コロンビアにある2万7,000エーカーのマングローブを保護する取り組みを行っています。これは世界で初めて完全に炭素クレジット化されたマングローブです。
なぜ今、アクションが急がれるのか?
2010年には、炭素クレジットに占める自然気候ソリューションの割合はわずか5%でしたが、今では40%を占めています。
世界経済フォーラムと持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同で設立した「自然気候ソリューション・アライアンス」が発行したガイダンス「企業のための自然気候ソリューション」によると、ボランタリー市場は、今日の自然気候ソリューションへの重要な投資源となっています。
ガイダンスは「自然気候ソリューションのクレジットに対する自主的な需要は近年急速に高まっているものの、2019年の自主的な炭素市場への投資額は1億7,000万ドル程度であり、2030年までに自然気候ソリューションによる真の緩和効果を実現するために必要な100億〜1,000億ドルと比較すると少ない額にとどまっている」としています。
特に、森林フロンティア地域や南半球において自然気候ソリューションの規模を拡大し、炭素市場に対する国際社会の容認と理解を深めるためには多額の投資が必要です。
「多くの企業は自然気候ソリューションへの投資には不確実性とリスクが伴うことを認識しています。気候変動対策の利点は明らかですが、共通の利益を最大化し、潜在的なマイナス影響を抑えるような質の高いプロジェクトや管轄プログラムを見つけて投資することは、必ずしも容易ではありません」と、「企業のための自然気候ソリューション」は言います。「加えて、気候変動戦略における自然気候ソリューションの役割に関する、NGOや規制当局の継続的な議論は、投資を検討している企業関係者に混乱と不確実性をもたらす危険性があります」。
そのため、「国際市場メカニズムの高い環境保全性を確保する強固なルールが広く適用されるべきであり、セクターごとの規定は必要ない」としています。 今回のCOP26では、パリ協定第6条の緩和効果の国際移転(ITMOs)、つまり、国際的な炭素市場についての合意を得ることが重要な課題となります。国際的な炭素市場のルールについては、これまで国際社会で合意が得られていませんでしたが、ルールへの合意を進めたいとする国が十分増えていることに期待が持たれています。
世界経済フォーラムの取り組み
自然気候ソリューションの取り組みを進めるための大規模なカーボンファイナンスを構築するには、自発的な活動かコンプライアンスに則った活動かにかかわらず、政府、企業、投資家、市民社会の緊密な連携が必要です。官民連携のための国際組織である世界経済フォーラムは、特に、世界的な専門家やイニシアチブと連携した取り組みにおいて支援することができるユニークな存在です。
世界経済フォーラムの気候と自然対策チームは、マッキンゼー・アンド・カンパニーと共同で、自然気候ソリューションの取り組みを加速し、市場を開放するための5つのアクションをまとめたレポート「ネイチャー・アンド・ネットゼロ」を発表しました。
自然気候ソリューション・アライアンスは、自然気候ソリューションと炭素市場への投資の機会と障壁を特定することを目的とした、マルチステークホルダーグループです。知識の共有と技術的な能力強化を目指すプラットホームとして、このアライアンスは「企業のための自然気候ソリューション」を発表しました。これは、自然気候ソリューション を含め、信頼できる気候戦略の計画、自然気候ソリューションクレジットの品質の定義、これらの戦略についてのコミュニケーションのガイドラインです。
自然気候ソリューションに関する世界経済フォーラムのイニシアチブには、さらに以下のものがあります。
- 「1t.org」イニシアチブ:2030年までに1兆本の木を保全、回復、成長させることを目的としています。
- ネイチャー・アクション・アジェンダ:2030年までに生物多様性の損失を食い止めることを目指しています。
- 熱帯林アライアンス:熱帯林諸国における森林破壊の削減と、持続可能な土地利用管理に基づく持続可能な農村開発を実現するためのグローバルな官民連携です。
さらに、世界経済フォーラムは、COP26でセクターごとの脱炭素化のコミットメントを実現するために、政府以外のプレーヤーを動員するグローバルな活動に参加し、「レース・トゥ・ゼロ・ダイアログ」と「FACTダイアログ」の両方に貢献しています。
自然破壊や気候変動の問題は深刻ですが、まだ悲観的になる必要はありません。私たちは、これまでにもグローバルな危機を解決するために団結してきました。そして、気候変動が2030年までに解決しなければならない課題であるという現実を、多くの政府や企業が受け入れている今、私たちには方向性を変える好機を得ているのです。
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