COP26が、海の力で気候変動を緩和する好機となる理由
海は、地球の気候の調整役です。 Image: Unsplash
Peter Thomson
UN Secretary-General's Special Envoy for the Ocean and Co-Chair, Friends of Ocean Action- 海洋は、人為的な温室効果ガスによる過剰な熱の90%超を吸収しており、地球の大気が発するのと同量の熱が海面から数メートル下までの表層に蓄積されています。
- COP26は、気候変動に対する海洋の貢献度を更に高め、世界の気候変動対策資金を確実に動かすために、最大の好機となります。
- 海洋経済活動への官民の資金を大幅に拡大することで、2050年までの二酸化炭素排出量ネットゼロ世界の達成目標に向けた前進を加速することができます。
海洋環境の悪化を食い止めるために活動するグローバルコミュニティは、今年11月に、英国グラスゴーで開催予定のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に期待をかけています。気候変動の緩和と適応のために海洋が担う重要な貢献が必須検討事項となること、そして海洋と気候の関係が示す課題への取り組みを強化しリソースを拡大することが、COP26の結論に盛り込まれます。
「海洋と気候の関係に伴う課題」は、産業革命以降に大気中に排出され続けてきた人為的な温室効果ガスが、海洋環境悪化の主要因であるという事実に集約されています。
地球の気候は、海洋の水循環、海流、生物ポンプなどによって調整されています。海洋は人為的な二酸化炭素の年間大気排出量の約23%を吸収しており、これまでに人為的な温室効果ガスによる過剰な熱の90%超を吸収しています。そして、地球の大気の熱と同量の熱が、海面から数メートル下までの表層に蓄積されているのです。
心穏やかならぬことですが、気候問題に対する海洋のこうした貢献と能力には限界があると認めなければなりません。2020年には、80%以上の海洋域において、海洋熱波がすでに1回は発生しています。また、現在水深1,000メートル地点においても海洋温暖化が観測されています。多くの閾値や臨界点が明らかになり、海洋の生物多様性と生態系に対して、同時に悪影響を及ぼしています。
海洋の酸性化と脱酸素化
二酸化炭素の過剰排出により、海洋酸性化が地球史上最速のペースで進んでいます。不可能ではないにせよ、多くの海洋生態系や海洋種にとってこのような急速な変化に適応するのは極めて困難であり、サンゴ礁の存続は海洋温暖化と海洋酸性化の加速が重なって脅かされています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告では、地球温暖化による気温上昇を1.5℃に抑えても、熱帯サンゴ礁は最大90%消滅すると予測されています。今世紀末までに世界は3℃以上の温暖化への道を進んでいるとする世界気象機関の報告書が発表されている現在、事態は深刻です。
海洋では酸性化と同様に、脱酸素化、海流循環の変化、海氷の劇的な融解が拡大しており、海洋生物は熱帯地域から移動しています。また海面温度上昇により、熱帯低気圧の頻発とその強度が増大、海面レベルの上昇などが進行しています。IPCCの「海洋・雪氷圏特別報告書」では、海面上昇はかつてない速度で加速しており、2100年までに2メートル上昇する可能性は否定できないと指摘されています。
ブルーカーボン資産
マングローブ、海草藻場、塩性湿地などの海洋生態系と、陸生森林の面積当たりの二酸化炭素吸収効率を比較すると、前者は後者の10倍にも達しています。海洋生態系が二酸化炭素を大量吸収することで私たちに恩恵をもたらしているのに対し、人間の営みは沿岸生息環境を驚くべき速度で破壊しています。このようなブルーカーボン資産の保護は、気候変動、海洋問題両方への取り組みにおいて最優先されなければならない課題です。恵みを与えてくれる海が、その恵みを私たちから奪い去ってしまうことにもなるのです。だからこそ、海洋ブルーカーボン資産の保全と修復への合意がCOP26には求められています。
根本的な視点は、どこであろうとも自然が意図する方法で炭素を留めておかなければならないということです。海洋資産についてわからないことが多いとしても、海洋は地球最大のカーボンシンク(炭素吸収資源)であることは事実であり、海洋内の特別な環境の保護が喫緊の課題となることは明らかです。
気候危機対策を実施する上で重要なのは、生物多様性です。二酸化炭素排出量削減は不可欠ですが、大気中や海洋の過剰炭素を今後も低減しなければなりません。そのための最善策は、自然を活用することです。しかし現状では、計画を実行するためには豊かな自然は不足しています。方法は明白で、地球の広範囲を保全し、自然な状態に戻す必要があります。
「30 x 30」目標
中国、昆明で開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)で採択が予想される「ポスト2020生物多様性枠組」には、2030年までに海洋の30%を保護するという目標の明示が見込まれています。一方、2021年8月27日閉会予定の国家管轄圏海域外の海洋生物多様性(BBNJ)政府間会議では、効果的に管理され、かつ生態学的に代表的な、良く連結された海洋保護地域システム確立に向けた、十分な対策が合意されることが期待されています。
海はすでに、気候危機の緩和に大きな貢献をしており、適切な投資判断がなされれば、更なる貢献が期待できます。そのため今後10年にわたり、持続可能なブルーエコノミーへの気候変動関連資金を確実かつ飛躍的に増やすことが不可欠です。海洋を利用した経済活動への公的および民間融資、特に、開発途上国の需要や可能性に応じる融資を大幅に拡大することで、2050年までの二酸化炭素排出量ネットゼロ世界の達成目標に向けた前進を加速することができます。
COP26は、気候変動の緩和と適応に対する海洋の貢献を強化する方向に、気候変動関連資金を割り当てる絶好の機会です。一方で、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の協議では、海洋問題を中心に据えることで締結国が意欲を高め、各国の気候戦略に海洋関連対策を盛り込み、実行に移す原動力となります。
21世紀の大きな課題である気候変動と生物多様性の喪失に対する解決策は、海のブルーレンズを通して見ると明確になります。2022年、ポルトガルのリスボンで開催されるの国連海洋会議に向けこのレンズを通して見れば、2021年11月にグラスゴーで開催されるCOP26が、海の体力を回復させる最も重要な機会であることが理解できるでしょう。
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