世界経済フォーラムの取り組み

ICTを通した価値創造の「New Normal」

ICT has made it possible for people to have remote medical consultations.

ICTによりオンライン診療が可能に

Nobuhiro Endo
Executive Advisor, NEC

Covid-19により、人間社会の活動は大きな制約を受け、社会生活、経済活動に大きなダメージを被っている。一方で、今回のCovid-19下では、100年前のスペイン風邪の時には無かったICTが、力を発揮し、従来一般的であった人の集合による価値創造が、分散状態でも可能であることを示した。人間社会は、ICTの進化で、「場所」と「時間」の制約から解放され、リモートワーク、リモートヘルスケア、リモート教育等の価値創造が可能となり、これらの価値は、インクルーシブの観点でも高い評価ができる。更にICTによる分散での価値創出は、「個」の主体性、或いは「個」の意志を活かす事にもなり、意志を持つ「個」が他と繋がる事で、バリューチェーンを形成し、自らの価値と他の価値を共有、融合して更なる高い価値を、バーチャルな空間で創造できる可能性も出て来た。

この様に、今後の価値創造においては、“New Normal”として、ICTがより積極的に人間社会に取り込まれる。この“New Normal”としての創造価値そのものや、その価値創造におけるフォーメーション、プロセスについて、留意すべきポイントについて考えてみたい。

まずICTそのものの力であるが、ICTの主要コンポーネントであるコンピューティングパワー、ネットワーク、そしてAIを含めたソフトウェアは、携帯電話のシステムがアナログからデジタルに変わった1995年頃から急激に進化し、この25年間で260万倍のプロセッシングパワー、モバイルネットワークでは100万倍の伝送スピードとなり、人間社会は大量のデータを瞬時に収集し、瞬時に処理する能力を得た。結果としてICTのコンポーネントの進化は、「リアルタイム」、「リモート」、「ダイナミック」と言う重要な3機能を作り出したと考えている。ここで、「ダイナミック」とは、データは単体では価値を持たないが、大量に集めたデータを、AI等のソフトで瞬時に処理することで、ダイナミカリーに新しい価値に変換できる機能を示す。

正にこれらの3機能がICT力そのものであり、多くの高い価値創造に貢献し、人間社会を豊かにすると期待される。まず、ICTを活用した価値創造では、この3つの機能を最大限使い切れているか否かを検討、確認する事が、“New Normal”としての基本であろう。

さて、我々人間社会の価値創造は、狩猟社会から農耕社会へ、そして工業社会へと、その価値の源泉を、物体を中心とした領域で変移させてきたが、ICTの出現を契機に、情報が価値源泉となる情報社会が到来した。情報は、ある事象について関連性の高いデータのみを集め、人間の理解しやすい情報を形成し、これを価値源泉として演繹的に価値を創るため、ある意味で、大量に存在するデータの部分集合を元に価値を創出する。それ故、その価値も部分最適、或いは個別最適のソリューションとなる。一方、今や、人間社会はICTの進化により、大量のデータを瞬時に集め、瞬時に処理できる能力を持った事で、データを価値源泉として直接扱えるようになり、データから帰納法的に直接価値を創出する事が可能となった。ICTの進化により、扱えるデータは、多種、大量となり、情報社会で扱えたデータ量を遥かに超えたデータ量を価値源泉とすることが出来るため、「全体最適解」としてのソリューションが得られる可能性が出て来た。全体最適解は、スマートソリューションと同義語と捉えてよく、人間社会として課題となっている、環境、エネルギー、医療、人-モノ含めた効率的移動等々、多くの領域でスマートソリューションを提供出来るだろう。

ただ、この全体最適解の価値創造は、一個人や一企業ではできず、環境の様な地球規模の課題に対しては、一国家でさえ単独では十分な価値を創り上げられないだろう。この観点から、「人間社会の豊かさ」に対して議論を深め、価値観を共有する事が重要で、共有できる人々、或いはグループが、価値創造のためのバリューチェーンを形成する必要がある。このフォーメーションで「個」の持つ価値とデータを持ち寄り、共有して各々の持つ価値を更に高める仕組みが必要であり、このバリューチェーンにて、人間社会の皆が受け入れられる目指すべき全体最適の社会像を、環境、医療等の各領域で描く事が必要である。それには、KPIと言うより、多くの人に享受される、より大きな目標KGI(Key Goal Indicator)を創る事が必須であろう。

実質的には、全体最適解のソリューション創造をする上で、従来の価値創造の過程にはないKGIに対するコンセンサスを得るプロセスが必要になる。これは、自ら価値創造に加わり、更に創造された全体最適価値を享受するために、当事者の関連するデータを価値創造活動に供する必要も出てくるだろうし、全体最適によるプロコンもあり、KGIの価値を評価する基盤を一つに統一しないと価値創出が出来ないからである。そして、どんなに高い価値を創ることができるICTが利用可能であっても、このコンセンサスが低いレベルで有ると、結果として低い価値しか得る事が出来ない。この全体最適価値の創造におけるバリューチェーンと言うフォーメーションも、KGIの創造と、これに対するコンセンサスを取るというプロセスもNew Normalの基本的で重要なポイントだと考える。

私は、価値創造で人間社会に貢献する「企業」と、この価値を持続性に活かす「人間社会」とは、企業にとって最も重要な「継続性」と人間社会にとって最も重要な「持続性」の観点からお互いに支えあう関係にあり、正に表裏一体であると考えている。この観点から企業は、人間社会の長期的ビジョンを考え、提示するという重要な役割を担っているのである。全体最適のソリューション創造もその一つで、その過程で創るKGIは、人間社会の長期ビジョンを示す一環と捉えるべきである。企業が集まり人間社会の在り方を議論するWEFは、正にこれらを実行するために最適な会合であり、良い全体最適でスマートなソリューションの為のバリューチェーンを築く基盤と考える。

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