SDGsの達成に向け、各国政府が取り組むべきテクノロジーの動員
アマゾンから収集したサンプルの温室効果ガス測定に用いられている技術は、地球規模課題に大きなインパクトを与えるテクノロジーが活用されている例です。 Image: REUTERS/Rodolfo Buhrer
- 新型コロナウイルスの感染拡大は、社会的な課題に対処する上で政府が果たすことのできる中心的な役割を示してきました。
- 2021年、パブリックセクターのリーダー達は、再建と回復のための広範な取り組みの中心に、テクノロジーによるソリューションを取り入れる必要があります。
- これは、持続可能な開発目標(SDGs)2030の実現を促すことにもなります。
グローバルコミュニティが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による広範な影響に格闘し続ける中、2021年にはワクチンの接種開始によって、各国がようやく危機対応から「回復と再建」へと移行することが期待されています。
危機の最中、各国政府は協力を取りつけ、ロックダウン措置が続く中においても社会の機能を維持し、セクターや国境を越えたソリューションを支えてきましたが、そこで極めて重要な役割を果たしたのは、新たなテクノロジーです。
パンデミックはまた、企業とサプライチェーンのデジタル化や、コネクティビティ、自動化、インテリジェントなソリューションのペースを加速させ、3Dプリンティング、ドローン、バーチャルリアリティなどのツールの導入を促しました。
一方、こうしたプラスの影響は社会的なコストも生みました。デジタル化が進んでいない社会は不利な立場に立たされ、データプライバシーやサイバーセキュリティのリスクがさらに拡大しています。
注目すべきは、政策立案と投資の焦点が経済の再建へと向けられている今、テクノロジーとイノベーションを中心に据えて、協力していくことが不可欠だということです。
世界経済フォーラムとPwC(プライスウォーターハウスクーパース)による最新の報告書「グローバル目標達成のために技術をつなぐ:政府の行動枠組み」では、国連グローバル目標(SDGs17)が定義する多方面にわたるシステミックな課題に取り組み、各国政府とパブリックセクターのリーダーシップが、どのようにして先端技術の導入促進しより強力な前進を支援できるかを検証しています。
このような、先見性のあるリーダーシップのアプローチは、2020年代における長期的で持続可能な成長とレジリエンス(適応、回復できる力)を推進するために、極めて重要になります。
パブリックセクターが持つテクノロジー動員力
従来、政府は行動が遅いという見方が不当にもありました。しかし、パンデミック下において、各国政府は、最先端技術と人間の創意工夫を駆使し、差し迫ったニーズに対応するためにいかに迅速に行動できるかを示しました。
例えばコロンビアでは、リモート学習に取り組む学生を対象に、あらかじめプログラムされたノートパソコンを迅速に配布。シエラレオネでは、隔離施設における搬入、入所、退院、支援の各サービスをリアルタイムにモニターできるモバイルアプリの開発、導入を直ちに実施しました。
2020年の経験は、各国政府が今後数カ月にわたり推進すべき3つの重要な重要な特徴を明らかにしました。
- 適応性:グローバルヘルスに危機が及ぶ中、技術的ソリューションはレジリエンスと適応性を考慮して設計されるべきでしょう。2021年に起こりうる問題は、まだ正確には見えてきていませんが、この適応性は、景気回復や気候変動など喫緊の課題に適用することができます。同時に、経済とコミュニティにもレジリエンスを構築し、将来起こりうる危機にも立ち向かえるようにしなければなりません。
- 迅速さ:各国政府は、飢餓、貧困、仕事へのアクセスなど、長い間顧みられずにいた問題に対しても、同様に迅速なアクションをとる必要があります。さらに、テクノロジーをどのように活用して行動を引き出すか、いかに迅速にこれを実行するかについての検証が必要です。新型コロナウイルスのパンデミックが、健康問題や人命損失、経済的苦境に関連する唯一の社会的・経済的問題はではないということを、私たちは念頭に置かなければなりません。
- 連携:各国政府は、新型コロナウイルス感染拡大における闘いの中核となってきたパートナーシップを、今後も官民を問わず構築・維持していく必要があります。このようなパートナーシップは、イノベーションや長期的考察に対する支援、サプライヤーとの関係強化、画期的な研究開発への投資、調達プロセスの簡素化など、パンデミックで得た教訓を反映させ、構築していく必要があります。
気候変動から生物多様性の損失に至るまで、より広範な課題に対応するためには、テクノロジーを活用し、インパクトを与え、システミックな変革を大規模に起こしていくためには、あらゆるセクターによる継続的に連携が欠かせないでしょう。
適応性、迅速さ、連携を実現するには
世界経済フォーラムとPwCによる最新の報告書では、行動志向のチェックリストを概説しています。これは、テクノロジーの進歩を活用してグローバル目標の達成に向けた歩みを実現するために、各国政府とパブリックセクターのリーダーを支援することを目的としています。
テクノロジーの潜在的可能性を引き出し、発生しうるダウンサイドリスクを管理する上で欠かせないリーダーシップの重要領域は、6つあります。
1. ビジョンと戦略
各国政府は、大規模なテクノロジーの開発と導入に積極的に取り組む必要があります。深刻な非常事態時に確立されたソリューションは、リソースが限定的であってもシステム全体の変革の契機となり、社会、経済および健康に関わる複数の問題に一度に取り組むことを可能にします。
このためには、何を達成したいのか、そして、入念な計画と調整によりそうした結果をどのように実現するのかについて、政府がアジャイルで適応性のあるビジョンと戦略を定める必要があります。
2. ガバナンスと説明責任
有能なメンバーから成る政府の指導者チームに明確なガバナンスと説明責任を割り当て、「恩恵をもたらすテクノロジー(Tech for Good)」分野のビジョンと戦略の実施を支援する必要があります。支援には、柔軟な行動計画の策定や、提携するグループへの透明性の付与、リーダーシップの監督の下でのサンドボックス(規制にとらわれないテクノロジー開発)化の促進などが含まれていなければなりません。
3. イノベーションと研究開発(R&D)
グローバル目標を達成するための、テクノロジー主導の斬新なソリューションの多くは、プライベートセクターの投資を直ちに引きつけるわけではありません。そのため、イノベーションと研究開発を支援する環境をつくる上で、やはり政府が大きな役割を担うことになります。
政府の役割として、革新的研究や商業的な規模拡大に対するインセンティブの創出、不慣れで特殊な規制環境下での起業家の先導、サンドボックス型の環境整備に対する投資などが挙げられます。
4. 商業化のための融資
成功をもたらすイノベーションと研究開発の裏側で、入念に設計された融資アプローチが円滑な市場展開を成功させるための適切な条件をつくり出すことを可能にします。基盤となるインフラへの投資、政府の調達政策の変革、金融・市場政策の更新など、政府は、商業化を目的とした新たな融資アプローチの開発を検討することができます。
5. 人材とスキル
恩恵をもたらすテクノロジーの導入を追求する政府を支えるためには、人材とそのスキルの育成が不可欠です。適応に失敗するということは、経済、社会の変化により人や労働市場に破壊や混乱が生じることを意味します。
成長ペースが緩やかなセクターから急成長するセクターへと、労働力の円滑な移行を促すと同時に、適切なスキルを持つ適切な人材を活用する対策を講じれば、変革への支援を強化することができます。
6. 団結した行動と連携
最後の項目ながら重要なのは、グローバル目標達成に向けた歩みを進めるためには、団結した協調的な行動が不可欠だということです。国レベル、国際的レベルのどちらにおいても、各国政府は、分断された各機関が異なる問題にあらゆる方法で取り組むという、まとまりのない状況からの脱却を検討することができるでしょう。
例えば、デジタル化のなどのソリューションに焦点を当てれば、教育へのアクセスやデジタル経済、遠隔医療への移行に見られるアクセシビリティの格差も、同時に埋めることができます。
各国政府は、連携して行動し、リソースを交換し、複雑で規模の大きい変革を起こすために、パートナーシップと提携を構築する機会を模索することが賢明だと言えるでしょう。
変化を促す
パンデミックは、私たちの創意工夫、アジリティ、切迫感を持って行動する能力を浮き彫りにする「危機の力」を強調しました。今も続くパンデミックの脅威が落ち着きをみせ始めたとしても、このような力を衰退させてはなりません。
むしろ、グローバルにレジリエンスを強化し、気候変動や自然損失といったより広範な緊急課題に取り組む際に失われた基盤を再構築できるよう、これらの特性を長期的にテクノロジー開発やソリューションの考案に活用することができるでしょう。
このような、団結した協調的なアプローチこそが、グローバル目標の達成に向けた駒を進め、真の意味での「より力強い前進」を後押しすることができるのです。
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