新型コロナウイルス感染拡大によりさらに迫られる、日本のジェンダー格差をなくすためのアクション
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの受付で、保護マスクとゴーグルを着用するホテル従業員(2020年6月26日、東京都) Image: REUTERS/Issei Kato
新型コロナウイルスの感染拡大により、厳しい経済状況に置かれている今、日本では、多くの女性が脆弱な立場に置かれ、ストレスを抱えていることを見過してはいけません。パンデミック(世界的大流行)の影響により、日本でかねてから懸案されているジェンダーギャップの課題が浮き彫りになりましたが、問題は深刻化し続けています。
世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート 2020」で、ジェンダーパリティ(ジェンダー平等)の指数が121位と報告された日本では、7月の失業率が3%に上昇、男性に比べ女性に甚大な影響を及ぼしています。2019年に比べると、現在の労働人口は76万人減少し、そのうちの54万人、つまり約70%が女性です。
世界的に見ても、女性は男性以上に新型コロナウイルス感染拡大による深刻な影響を受けています。国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事とそのチームは、新型コロナウイルスの感染拡大は、「女性が男性よりも多くの無給の家事労働に従事する傾向」を悪化させ、女性の経済的地位に影響を及ぼしていると認めています。新型コロナウイルス感染拡大以前でさえ、1日当たり家事に費やす平均時間は、男性が44分であるのに対し、女性は3時間28分。つまり、男性のおよそ5倍の時間を、女性は家事に費やしていたのです。
日本では、女性が正規労働者として就労していない傾向がみられます。2018年の就業者総数6,660万人のうち、女性が占める割合は44.2%に過ぎません。正規労働者は、常勤の従業員である場合が多く、有給休暇や賞与など、さまざまな福利厚生支援を受けることができますが、非正規労働者はこの限りではないことが多いです。多くの女性は、職場で質の高いサポートを受けられずに、出産や子育てを機に離職を余儀なくされ、職場復帰しても、正規労働者として活躍する機会は、従来限られていました。40歳以上の男女では、不安定な非正規労働者として雇用されている女性の比率が60%近くであるのに対し、正規労働者の男性の比率は90%以上です。また、女性は、サービス業など低賃金の業種に就く傾向が強く、2018年には、サービス業で働く女性の比率は68.2%でした。 さらに、驚くべきことは、日本の男女間の給与格差です。国税庁によると、1年間の平均所得は、男性が567万円であるのに対し、女性は280万円となっています。
このように、男女差が顕著であるにもかかわらず、就労機会におけるジェンダー平等を確保するための取り組みは、長年にわたり停滞しています。2014年の世界経済フォーラム第44回年次総会(通称:ダボス会議)での特別講演で、安倍晋三前首相は、日本に「女性が輝く社会」を作っていく必要があり、そのために、2020年までにすべての上級管理職の30%を女性が占めるようにすると、その意志を表明しました。しかし、安倍首相辞任の数か月前、政府はこの目標の達成年限を2030年に繰り延べし、菅新政権は、男女格差を解消するための具体策をいまだ提言していません。日本の男女雇用機会均等法は、30年以上前に制定されましたが、格差解消に向けた動きは停滞しています。時間の流れに身を任せるだけでは進捗しないことは明らかです。
既存のジェンダー不平等に、新型コロナウイルス感染拡大の影響が追い打ちをかける今こそ、日本は、長い間必要とされてきた変革を起こすべきです。ここでは、日本のジェンダー平等を進めるための3つの戦略を紹介します。
日本の育児休業制度は、他の大国と比べても十分に充実しており、給料の一部が支払われ最長1年間の育児休暇を取得することができます。しかし、現実には、日本の男性は有意義な長期育児休暇を取得していません。それは、一度長期休暇を取得すると、職場での信頼が下がったりするので、長期に職場を空けるのをためらう雰囲気があるためです。
最近発表された明治安田生命保険相互会社の調査では、26.3%の男性が、1日以上の育児休暇を取得していることが分かりました。これは、対前年比で10ポイント以上の上昇です。男性の育休暇取得日数も、前年の4日から7日に増加しました。しかし、妻(女性)が夫(男性)に望む平均育児休業日数は94日で、取得日数における理想と現実には、3か月もの差があります。
企業は、すべての従業員が家事労働を公平に負担できる方針を規定することにより、この動きをリードすることができるでしょう。その効果を期待できる一例として、国内のある大手企業では、男性社員に長期育児休暇の取得を義務付けただけではなく、彼らのパートナーに休業中の家事のパフォーマンスを評価させています。
このような企業の取り組みが、投資家や消費者に評価されるなら、この動きは勢いを増すでしょう。同時に、公的部門は、この変化を支援するために必要な枠組みや政策を、継続して作らなければなりません。
従業員のニーズに合わせて労働環境を向上させることは、今に始まったことではありませんが、パンデミックによりテレワークが増加し、健康管理や育児などでストレスが増えた今、迅速なアクションが求められています。企業は労働時間より、仕事の質を重視すべきです。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は、日本では「従業員が、職務内容やパフォーマンスだけで評価されないため、職場から離れて働くことにより問題が生じやすい。『遅くまでがんばって残業している』などという、プロセス評価が人事評価の大きな要素となっているため、評価制度の見直しも含めた議論が必要だ」と指摘しています。
日本の女性は、従来、事務や秘書などのサポート業務を担ってきましたが、これらは自動化の影響を受けやすい仕事です。このような状況を考慮し、女性は教育やリスキリング(再訓練)の機会を与えられるべきでしょう。
今後、日本には今まで通りのビジネスのやり方を続けポストコロナ時代が健全で持続可能なものになる期待する余裕はありません。30年もの時間をかけていても、物事は自然には変わらないことを私たちは知っています。ジェンダー格差をなくすことは、日本に持続可能でより良い社会を築き、次世代の女性たちが、ジェンダー平等の達成を待ち続けなくても済むための鍵です。そして、ジェンダー格差をなくすことこそが、日本にとっての「グレート・リセット」を実現する上での重要な要素となるはずです。
世界経済フォーラム日本代表 江田麻季子
*本記事は、10月20日~23日開催の世界経済フォーラム「ジョブ・リセット・サミット」の一部として記載されています。
*本記事は、Nikkei Asiaの記事の和訳を転載したものです。
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