持続可能な製造業が、倫理面だけでなく経済面でも重要な理由
新型コロナウイルス感染拡大の只中で、どうすれば世界をより良くできるのでしょうか? Image: REUTERS/Issei Kato
- 新型コロナウイルスのパンデミックにより、製造業は未だかつてないレベルで変革を迫られてきました。
- 持続可能でレジリエントな産業構造を構築できるこの機会を捉え、今すぐ行動に移さなければなりません。
- デジタル・トランスフォーメーションからライフサイクル・アセスメントに至るまで、様々なアプローチを紹介します。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、世界中の製造業の需要や、サプライチェーン、労働力のリソース、エネルギーの利用、そして二酸化炭素排出量に、同時に影響を与えています。人間の活動が制限されると、地球規模の二酸化炭素排出量にここまで劇的な影響があるということを、これまで誰も目の当たりにしたことはありませんでした。実際、エネルギー関連の二酸化炭素排出量は、地球規模で2020年にほぼ8%下落の見通しとなっており、過去10年間で最も低いレベルです。国連は、今後10年の地球温暖化を1.5˚Cに抑えるには、地球規模の二酸化炭素排出量を毎年このレベルで削減していかなければならないと勧告しています。
目的達成の見込みはある
過去3ヶ月以上にわたって、製造業は未だかつてないレベルで変革を迫られてきました。資源不足を鑑みて現状を一新するための方法を探り、デジタル・トランスフォーメーションを加速化するべく行動が必要だったのです。
パンデミックによる制約が二酸化炭素排出量の減少をもたらしたということは、興味深い事実であると共に、劇的な変化を起こすことが可能だという希望を与えてくれます。ただし、大切なのは今すぐ行動を起こすことです。もし資源が有り余る程あれば、誰も現状を刷新したり、それに挑戦したりしようとは思わないでしょう。産業界は、地球の限られた資源という制約の中で何とかしようと努めることにより、考慮すべき事項の基準を設定し、持続可能な形で達成できるレベルを引き上げることができるのです。
人間と自然の犠牲の上に成り立つ事業成長を追求する社会から、地球環境のウェルビーイング(幸福)に優先順位を置いた未来へと、文化的な文脈の急激な転換が始まっています。この転換は、消費者や、次世代の労働力を取り込むために、既に不可欠なものとなっています。
環境、社会、ガバナンス(ESG)のベンチマーキングと報告体制において、よりめざましい取り組みを行っている企業は、他社と比較して市場の不安定な時期を乗り切る優れた能力があることを示し続けています。ブラックロックの最近のレポートによると、昨今の世情の混乱にも関わらず、良好な顧客関係を築き、活気ある企業文化を構築している企業は、財務業績面でも回復力の高さを示しているとのこと。実際、新型コロナウイルスのパンデミック到来から今に至るまで、サステナビリティ・インデックスの90%超が、親指数を上回っています。
デジタル・トランスフォーメーションを通じてレジリエンス向上へ
世界の二酸化炭素排出量の25%以上は、エネルギーの大規模消費者である産業界によるものです。このことを踏まえると、産業界は、持続可能性をビジネスの必須条件として経済復興を促進する、主導的な役割を果たす責任があると言えます。「ニューノーマル」に向けて世界を再構築していく上で、産業界はデジタル・トランスフォーメーションの活用を加速化すべきです。デジタル・トランスフォーメーションは、一般的には生産性向上のために活用されますが、経済面および環境面でのレジリエンス(適応、回復できる力)向上においても、同様に効果的です。
インダストリー4.0とESG目標に注目が集まる現状を利用するために、産業界のリーダーたちは、業務効率化を実現し、再生可能エネルギーを活用、ライフサイクル思考を実践し、サプライチェーンデータの透明性を高めなければなりません。
業務効率化の実現
多くの生産施設は、グローバルなエネルギーサプライチェーンにおいて、消極的な参加者に過ぎません。全体のエネルギー使用量や、利用可能なエネルギー源に関わるコストを監視してはいますが、事業に新たな価値をもたらす方法でエネルギー消費を実現するための、オペレーション内でコントロール可能な要因については、しばしば見過ごされています。
国際エネルギー機関(IEA)による、「世界エネルギー見通し2019」では、「効率化の大幅な改善こそが、持続可能な開発シナリオへ世界が向かうための、唯一最も重要な要素」と述べられています。
製造業者は、エネルギーを消費するプロセスユニット、ライン、機械の監視と測定を行い、全体的なエネルギー消費量や経済的側面、排出量をコントロールすることで、オペレーション内のエネルギー集約型の個々のプロセスを、評価し最適化しなければなりません。
再生可能エネルギーの活用
コストの低下により、再生可能エネルギーの導入が急激に進んでいます。均等化発電原価に基づくと、1977年製造のソーラーパネルのワットあたりのコストは77ドルでしたが、2020年では0.14ドルです。
順調な経済と現代的なビジネスモデルの組み合わせにより、高度に分散・デジタル化された資産を有効に活用できるようになります。
双方向のコントロールと接続を可能にするデジタルテクノロジーは、蓄電池併設型太陽光発電システムのような、分散型エネルギー源との組み合わせにより、柔軟な需要と節減の管理を可能にします。例えば、財政的なインセンティブや、オペレーションの優先順位に基づき、ピーク電力負荷制限、自動デマンドレスポンス・マネジメントへの参入、市場でのエネルギーの売買取引、もしくは、オペレーションを太陽光発電や蓄電池のキャパシティにあわせてダイナミックに調節することも可能です。
ライフサイクル思考の実践
ライフサイクル・アセスメント(LCA)は、商品のライフステージ全体における環境への影響を産業界が評価することを目的とした、総合的な方法論を提供する環境フレームワークです。
車のライフサイクルを考えてみましょう。現在の米国の自動車排出ガス規制の枠組みは、走行中の状態の車にのみ焦点を当てていて、車のライフサイクル全体を通じての排出量を検討していません。車のライフサイクルはもっと包括的なもので、原材料採取、駆動系と部品の製造、組み立て、燃料調達、走行、リサイクル・廃棄に至るまで、全てのステージを含みます。
新型コロナウイルス感染拡大からのネットゼロ・リカバリーを呼びかける上で主導的な役割を担ってきたネスレは、サプライチェーンの様々なステージにおける、気候変動への影響を評価し最小化させるため、10年以上前に最初のライフサイクル・アセスメントを行いました。結果を受けて、ネスプレッソは、コーヒー1杯あたりのカーボンフットプリントを2020年までに28%削減すると確約しました。それ以来、機械のエネルギー効率の向上に努め、事業運営する上で再生可能エネルギーの利用も始めました。
サプライチェーンデータの透明性を高める
グローバルなサプライチェーンには非効率な部分が多く、無駄を大幅に削減できる余地があります。
産業共生は、より持続可能で統合された産業システムへのアプローチのひとつです。これにより、あるプロセスで出される廃棄物(材料、エネルギー、水、キャパシティ、専門技術、資産等)が、別のプロセスでは資源として利用されるようなネットワークが構築されます。
グローバルな産業共生関係を発展させれば、内部オペレーションに集中する従来の方法論から脱却して、サプライチェーン全体で新たなビジネスやビジネスパートナーシップを展開することができます。このような共生コミュニティでは、様々な組織がネットワークに参加し、エコ・イノベーションと長期的な文化的変革を促進しています。
デンマークにあるカルンボー市のネットワークは、産業共生における注目すべき一例です。
カルンボー市のネットワークでは、11の官民のパートナーが協力して、材料や水、エネルギー等の流れをやりとりすることで、参加パートナーのレジリエンスと経済的利益を高めるだけでなく、ESG目標も達成しています。パートナーから得られるメリットを総計すると、年間で100GWh(ギガワットアワー)分のエネルギー、二酸化炭素換算635,000トン、水360万トン、純利益2400万ドルに相当します。こうした共生には、データの透明性や、十分に活用されていない資源の企業間取引といった、計り知れない可能性があることを表しています。
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Lorna De Leoz
2024年8月2日