集団行動により、パンデミック後の社会的公正の復興を加速化させる方法
新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン中の労働者保護を求め、政府に抗議するベルギーのエンターテイメント産業 Image: REUTERS/Yves Herman
- 新型コロナウイルス感染拡大は、世界で最も弱い立場にある人びとのためのシステムにある既存の亀裂を一層浮き彫りにしています。
- コミュニティ動員の緊急性が高まり、新たな弾みがついたことで、パンデミック(世界的大流行)後の社会的公正に向けた復興が加速する可能性があります。
フライデー・フォー・フューチャーから反政府抗議活動、そして被雇用者動員の取り組みまで、2019年は地球規模の集団行動における注目すべき一年となりました。そして、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な課題とその緊急性が、自らのコミュニティの動員や支援のために行動を起こそうとする人とそうでない人の両方を奮い立たせていることで、この流れは、2020年になってからも力と勢いを増し加えています。
最も重要なのは、おそらく、新型コロナウイルス感染拡大が、NGOや労働組合の指導者たち、宗教的指導者たち、信仰に基づいて社会活動を行う組織などの「市民社会」が、何十年にもわたり戦ってきた多くの構造的および制度的不平等を浮き彫りにしたということです。新型コロナウイルス感染拡大という新しい世界に足を踏み入れてからもうすぐ6か月となる中、市民社会のアクターたちは、平等、公正、そして労働者のための新しいソーシャル・コントラクト(社会契約)を求める広範な動員の取り組みをリードしています。
時が経っても、コミュニティ動員の基本はほぼ変わりませんが、現在のパンデミックの状況に合わせ、戦術は変化しています。
例えば、食料品配達、技術支援、保育および財政支援のキャンペーンがグーグルドキュメントを利用して行われ、相互扶助プラットフォームも生まれたほか、アメリカで見られたその歴史上最大規模の社会動員の取り組みでは、新型コロナウイルスの感染リスクを削減するため、抗議者たちはマスクをつけ、コミュニティオーガナイザーたちもハンドサニタイザーをシェアしながら活動を行っていました。
コミュニティ動員は世界的に急増しており、このような集団的な取り組みは、グローバルな課題の中心となっています。ここでは、パンデミック後の復興を目指し、パンデミック期のコミュニティ動員戦術を重視する市民社会が取り組んでいる、3つの課題を紹介します。
1. 平等と公正
新型コロナウイルス感染拡大が、貧困層や社会的弱者に与える、深刻な社会的・経済的影響を目の当たりにするにつれ、根本的な不平等や格差への対処がますます差し迫った課題となっています。
新型コロナウイルスの急速な感染拡大は、貧困、ジェンダー不平等、人種的不公平を悪化かつ増大させています。オックスファムは、世界の人口のうち最大5億人が、新型コロナウイルス感染拡大により貧困のリスクにさらされているとしています。一方で、ジェンダーに基づく暴力の発生率の増加、経済の不確実性、教育へのアクセス低下などの報告が世界中で増加しているように、女性や少女たちがロックダウンの影響を受け苦しんでいます。
アメリカでは、新型コロナウイルスの感染により、アフリカ系アメリカ人は白人の3倍の割合で命を落としています。これらの統計は、長い間システムに亀裂が存在していたことを示していますが、これまでその規模と範囲に本格的に目が向けられることはありませんでした。
不平等および不公正の増大に対し、市民社会はこのような不確実な時期においてコミュニティを支援するため組織化される一方で、このような結果を生み出したシステムへの抗議も行っています。
- イギリスでは、市民社会組織のグループが、政府に対して新型コロナウイルス感染拡大のジェンダーによる影響に関するアクションを求める共同書簡を作成し、イギリスにおけるジェンダーに基づく暴力の、根本的な問題を強調しています。
- 世界最大の難民キャンプであるバングラデシュのコックスバザールでは、難民女性たちが新型コロナウイルス感染拡大に関する意識を広めるため立ち上がりました。この活動は、特に過密状態にあり、新型コロナウイルス感染者が多く出た場合にも対応できるだけの医療インフラもない難民キャンプに、ウイルスが広まってしまうことを防ぐためのものです。
- アメリカでは、人種的不平等に反対するコミュニティが歴史的なレベルで組織化されています。警察の暴力、そしてウイルス感染拡大によってアフリカ系アメリカ人コミュニティへの不均衡な影響がきっかけとなり、これらの抗議から始まった人種的公正を求める活動は、地球規模へと広がりを見せています。
2. 労働者の権利
しかし、労働者は、失業中でも職場で健康リスクにさらされていても、依然として脆弱な立場に置かれていることに変わりありません。国際労働組合総連合(ITUC)は、職場におけるこれらの格差に対処し、すべての人の保護と雇用を守る、新しいソーシャル・コントラクト(社会契約)を求めています。これに、ビジネスや人権の分野から同調の声が集まり、各企業に対して、この不確実な時期にも、また今後においても、労働者にさらなる保護を提供するよう求めています。
対面での直接的なアクションやデモのほとんどは、パンデミック初期のステイホーム要請により制限されましたが、最前線で働く人たちは、従来の直接行動の方法を用いて、変化を求め活動し続けました。
- ITUCのような労働組合は、最前線で働く人々が個人防護具(PPE)、有給の病気休暇、無料のヘルスケアサービスなどの社会的保護へのアクセスを確保できるよう、彼らと連携して取り組みをしています。
- インドでは、女性自営者協会(SEWA)が立ち上がり、さまざまな社会保護提唱キャンペーンを通じ、非公式分野で働く移民や女性の支援を行っています。SEWAはさらに、メンバー向けの新型コロナウイルス感染拡大に関する啓発キャンペーンを主導し、パンデミックの影響で仕事を失った女性たちのためのリスキリング(再訓練)プログラムも実施しました。
- コンゴ民主共和国では、鉱山労働者たちが、新型コロナウイルス流行中における労働者の労働保護の強化を要求する書簡を鉱業会社に提出しました。
- ブラジルでは、失業した家事労働者たちが組織化し、有給での外出規制を求めています。
3. テクノロジーアクティビズム
新しいテクノロジーの普及と急増に伴い、監視、プライバシー、活動家や市民の声の抑圧などの問題の重要性の高まりを受け、テクノロジー・ガバナンスおよび技術の公正に関する議論は、数十年にもわたって行われてきました。
そして今回、新型コロナウイルス感染拡大を受けた感染経路特定アプリの普及により、デジタル監視の関心が地球上のほぼすべての「接続された」人びとに及ぶようになったことで、テクノロジーアクティビズムは、より小規模であった技術と人権の領域を超え社会に広がり、新時代を迎えました。
何十年にもわたり、テクノロジー、人権、社会的公正をめぐる動員の取り組みをリードしてきた市民社会組織は、新型コロナウイルス感染拡大の中においても、より強力なデータに対する権利と社会的公正を求めて組織化し、活動を続けています。
- テクノロジーへのアクセスが基本的な権利としてますます理解されるようになる中、テックスープは、草の根活動を行う市民社会組織のプログラミング作業の継続に不可欠な技術を提供するため、「新型コロナウイルス感染拡大対応基金」を立ち上げました。
- アクセスナウは、パンデミックの中、新型コロナウイルス感染拡大に関する誤った情報の拡散防止、ブロードバンドインターネットへのアクセス増加、すべての人のインターネットへのアクセス確保などの取り組みを含む複数のテクノロジーおよび人権に関するキャンペーンを立ち上げました。
- パンデミックの中、新しい感染経路特定アプリや顔認識アプリの開発や使用により、データに対する権利に対するリスクが高まっています。すでに顔認識の使用を中止させるキャンペーンが成功した例もいくつかあります。
- パンデミックにより政治情勢がますますひっ迫する中、テック業界では従業員を動員しようとする取り組みが増えています。テレワークを命じられた従業員の中には、会社の慣行に抗議するバーチャルなストライキを始めた者たちもいます。
立ち上がり、新しい未来を描く
新型コロナウイルス感染拡大が、世界とその最も脆弱なコミュニティにもたらした前例にないほど多くの課題は、地球規模での集団的な行動を必要としています。
今や、一般市民も市民社会も、オンライン上か実社会かを問わず、大規模な行動を起こすために立ち上がり、声を上げる力が自らにあることを感じています。おそらく最も重要なことは、新型コロナウイルス感染拡大は、根底にある体系的な不平等と不公正への対処が緊急に必要であることを再認識させ、そしてこの危機が、社会のための新しい集団的な解決策を想像するために市民を鼓舞するきっかけとなりうることを改めて示したことです。
そして、労働者たちが新しいソーシャル・コントラクト(社会契約)を望むようになる中で、ステークホルダー資本主義を求める声も高まっています。
この大規模な動員の瞬間は、世界規模の不平等と闘い、すべての人に、より公正な未来を保証し、世界中の労働者たちを保護するソーシャル・コントラクト(社会契約)を生み出すマルチステークホルダー・アクションを求める、より大きな動きのきっかけとなりつつあります。そして同時に、市民社会が健全に機能しており、行動を起こす準備ができていることを示してもいるのです。
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