新型コロナ収束後に、より強力な海洋経済を築く8つの方法
パンデミックはより持続可能なブルーエコノミーを築くチャンス Image: REUTERS/Umit Bektas
Douglas McCauley
Professor, University of California Santa Barbara; Member of Friends of Ocean Action; Director, Benioff Ocean Science Laboratory- 新型コロナウイルスの影響は、陸だけでなく海にも及んでいます。
- 今回のパンデミックは、未来に適した持続可能な海洋経済の構築をはじめる良い機会です。
- ここでは、政策立案者たちが考えるべき8つの分野を紹介します。
新型コロナウイルス感染拡大による危機は、世界経済のほぼすべての分野に影響を与えています。
航空会社、レストラン、スポーツなど、より身近な分野での混乱については多く語られていますが、新型コロナウイルスの影は海にまで伸び、「ブルーエコノミー」もその影響を受けています。公式および非公式の海洋の仕事、製品、サービスを合わせるとその規模は年間2.5兆ドルと見積もられており、海を仮に国と考えた場合の経済規模は世界で7番目となります。
海運活動は、新型コロナウイルスの影響で地域によっては30%減少。ロックダウン、そして海産品の需要減少により、中国や西アフリカでは漁業活動が80%も減っています。さらに、海とビーチの観光に依存していた国々までも国境を完全に閉鎖しています。世界的に、観光事業への新型コロナウイルスの影響は、74億ドルの損失、7500万人の失業リスクにまで膨れ上がれる可能性があります。
陸上をベースとする産業とコミュニティ回復のための景気刺激策の中には、より環境にやさしいあり方への躍進を目指すものもありますが、より海にやさしいあり方という視点はほとんど考慮されていません。しかしこれは、海や海岸に関しても同じ道へ舵を切るチャンスなのです。
新型コロナウイルスの大流行が収束した後に、より力強く持続可能な海洋経済を再構築するための8つの道のりを紹介します。
1. 海にやさしいブルーツーリズム
新型コロナウイルス感染拡大以前、海洋観光の直接の経済効果は3900億ドルとされ、多くの国でGDPの大部分を占めていました。パンデミックの中にあっても、海洋観光に依存し、健全な海によって利益を得ている何百万もの人たちを見捨てることはできません。復興資金を活用し、サンゴ礁やマングローブなどの沿岸生態系がブルーツーリズムにもたらす巨額の投資対効果を考慮し、沿岸生態系を回復させるために人を雇用することで、一時解雇を防ぐことができます。大恐慌時代には、アメリカの市民保全部隊など、このような自然保護に基づく雇用創出プログラムが開発されました。景気刺激のための資金を使って、例えば、空き家になったホテルにプラスチック汚染削減のための飲料水ステーションや水処理システムを設置するなど、持続可能性向上のための活動で雇用を維持することもできます。また、持続可能性に関する知識や技能の多角化のため、従業員研修を行うという方法もあるでしょう。
2. 輸送による排出の削減
海上輸送は地球上の貨物の90%を運んでいると推定され、これが炭素を始めとする大気汚染物質の世界的な排出の大きな割合を占めています。 国際海事機関は、海運による排出量を2020年までに50%削減することを義務付けています。新型コロナウイルスの大流行により輸送活動が減ることは、この目標に向けて前進する貴重な機会でもあります。運用を停止している船には燃料効率を高め、排出量を削減するための改修を加えることができ、活動の少なくなっている造船所は、今後ゼロエミッションが求められるようになった時のために、設備を刷新し政府支援を確保することもできます。このようなチャンスが最も大きいのは、中国、韓国そして日本を合わせて世界の造船量の95%以上を占めているアジア。海上輸送の脱炭素化を加速させるための支援のひとつとして、港を電化しゼロエミッション燃料を提供できるようにすることも必要です。
3. ポストコロナの乱獲回避
他の投資とは異なり、海洋生物資源は低迷期においても成長します。第二次世界大戦中にも、多くの漁船が漁の中止を余儀なくされ、その間にタラなどの魚の数が増えました。新型コロナウイルスのパンデミックが同様の事態をもたらしたとしても、すぐに乱獲しようとするのではなく、水産学の知見を使い、新型コロナウイルスの功名による長期的なメリットを最大化するインテリジェントな漁獲調整をする必要があります。
4. 海の宅配トラック運転手・船員へのサポート
パンデミック下において、船は最も困難な労働環境であることは間違いないでしょう。海運業や漁業に従事し、高い感染リスクにさらされる船員たちは、社会の機能に不可欠な存在です。彼らはブルーエコノミーにおいて食料品店店員や配達員のようなもの。これらの部門を強化するには、乗組員にウイルス検査や抗体検査を提供し、1か月以上の船旅に出た後には尊厳を持って安全に帰宅できるようにすることが必要です。また、乗組員には彼らと家族をつなぐ安全な通信チャネルも提供すべきです。漁業においては、通信の強化は海での過酷な作業に立ち向かうための力となります。
5. 海洋公園の保護
現在、地球上の海で保護されているのはたった7.4%です。これらの海洋公園は、海の生物多様性に恩恵をもたらし、魚の繁殖を促進し、地域漁業の強化、観光業の雇用創出、さらには炭素隔離といった波及効果をもたらします。コロナショック対策として、これらの海洋公園を漁業産業に開放すべきとの声もありますが、これは愚かな考えです。海洋公園は成熟に数十年の時を必要とする長期投資であり、その気になればその成果はたった数日で失われてしまいます。海洋公園をなくすことは、未来の漁業をすぐにでも変えてしまうだけではなく、持続可能なブルーツーリズムにも大きな打撃となるでしょう。このような行動は、はコロナ禍のさなか、ディズニーランドのすべての乗り物を解体して売り払うようなもの。地域の雇用や経済に害をもたらす短絡的な行動です。
6. 養殖で数十億人を養う
科学者の推定では、海産物減少の影響で栄養状態が悪化する人は世界で約8億4500万人。新型コロナウイルスの大流行が引き起こす海産物の取引や労働ネットワークの混乱は、この課題をさらに悪化させかねません。景気刺激のための資金を元に、脆弱な地元住民を栄養面で支えるスマートな水産・養殖業を、環境への影響を最小限に抑えつつ強化することで、食料安全保障システムへの打撃はいくらか回避できます。農業で行われている環境と栄養に配慮した投資がその手本となるでしょう。
7. 海のデジタル化
ブルーエコノミーの再開を早めるもうひとつの方法は、海をより効率的・効果的に観察・理解する海洋技術を刺激する投資。例えば、漁獲増強、法令順守、希少種保護などのためのデータ収集を助ける漁業オブザーバープログラムも、新型コロナウイルスの蔓延のため停止していますが、新しいAI搭載の電子監視システムは、これらのデータパイプラインの維持に貢献できます。他にも、新型コロナウイルスの大流行により海洋パトロールが従来のように行えなくなった地域での違法な漁業を抑制する改良型ドローンから、機械学習による衛星データ分析の強化、レストランや市場が閉鎖する中で持続可能な漁業者と地元の消費者とをつなぐアプリの活用まで、可能性は無限大です。
8. 危機の悪用の阻止
コロナ禍を悪用して自己の利益を進めようとする取り組みを容認してはなりません。例えば、海洋汚染の大きな原因である使い捨てプラスチックからの脱却は、これまで大きな進展がありましたが、新型コロナウイルスの蔓延を機に、利益団体はビニール袋などの製品への規制の中止や一次保留を取り付けました。新型コロナウイルスの拡散を遅らせるために私たちが団結し取り組まなければならないことはたくさんありますが、紙や再利用可能なバッグの代わりに使い捨てビニール袋を使用することはそのうちに含まれません。同様に、海に依存する小さな島国など、大きな打撃を受けている国に外部から投資するのは良いことかもしれませんが、こうした国々の財政的に弱い立場を利用し、搾取を目的とした付帯条件を付けることは許されません。
新型コロナウイルスの蔓延は、私たちの経済と幸福が、いかに海と深く結びついているかを浮き彫りにしました。これらの行動は、コロナ禍の中での「グリーンリカバリー」の議論に、もっとブルー(海)の視点を入れていくことの必要性を示しています。今後、持続可能なブルーエコノミーの回復において、人間と海、双方の未来に恩恵がもたらされるチャンスを逃してはなりません。
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