パンデミックに対する企業のレジリエンスの高め方
サプライチェーンに大きなリスクをもたらすグローバルショック Image: REUTERS/Rafael Marchante
- 新型コロナウイルスがもたらす混乱の影響を受けていない企業はありません。
- 企業は、サプライヤーとバイヤーをマッピングすることで、この寸断された状況に備えることができます。
- 企業は、将来的な混乱を軽減するため、サプライチェーンを多様化させていくべきです。
私は以前、蜂に刺されて死にかけたことがあります。そのような私が養蜂に情熱を注いでいることを知ると多くの人は驚きますが、蜂の巣箱の世話をすることで、私は自然の複雑なシステムである相互依存性、適応性、効率性を観察しています。
これらの観察をビジネスの世界に当てはめてみるのも興味深いことです。20万匹の蜂の世話をすることで死に至る可能性もありますが、アレルギー対策することは、まさにリスクの軽減そのものなのです。しかし、環境の変化により最後の巣箱を失ったことから私が最近学んだのは、エコシステムは自分たちの影響力と管理が及ばない範囲で起こるリスクに対し、特に脆弱だということです。
新型コロナウイルスの蔓延が国際貿易にもたらす影響は、その代表例です。サプライチェーンのエコシステムは、世界中の企業間に広がっています。企業は世界中のサプライヤーから商品やサービスを調達していますが、サプライヤーも同様に他社からそれらを調達しています。蜂が花から蜜を集め、また花が蜂のお陰で受粉するように、貿易は人間にとって不可欠なサービスを提供してくれる重要なものですが、このネットワークの一部が、新型コロナウイルスの蔓延のような出来事の影響を受けると、エコシステム全体が混乱しやすくなります。そのような意味で、影響を受けない企業は存在しないのです。
蜂の世界にもいえることですが、相互依存性はシステム全体の効率性を高める一方、目に見えないリスクと脆弱性をもたらす可能性もあります。現在、世界の成長はアジアの消費者により押し上げられていますが、世界の反対側で起きている出来事であっても、その影響が急速に拡大することもあります。鎖の強さがその環の一番弱いところで決まるように、企業も、サプライチェーンの予期せぬ混乱を迅速に発見することができます。
2011年に起きた福島第一原子力発電所事故は、世界の自動車メーカーに予期せぬショックをもたらしました。サプライチェーンが依存していた一つの電子機器メーカーが、福島第一原子力発電所の近くにあり、シャットダウンを余儀なくされたのです。自動車で使用されるカスタムチップの一種であるマイクロコントローラの供給が、突然世界的に約40%もカットされたことで、世界中で自動車生産が中断されました。
このような事例は、企業のサプライチェーンが戦略的に検討するべき事項であるという事実を浮き彫りにします。では、企業が予期せぬ混乱のリスクを効果的に管理する方法はあるのでしょうか?
差し当たっての優先事項は、従業員とその家族のケアです。公式の勧告を広く発信するため、双方向のタイムリーな情報共有が不可欠です。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、影響を受けている国々の従業員は通常の職場で働くことができなくなっていますが、テレワークを可能にすれば生産性を維持することができます。しかし、長い期間自宅の環境で仕事をするとなると、ブロードバンドの速度から従業員の健康まで、実用的なことから個人的なことまで幅広く考慮する必要があります。
次のステップは、サプライチェーンを隅から隅まで確認し、隠れた依存関係を明らかにすることです。サプライヤーとバイヤーをマッピングすることで、企業は部品レベルまで調達不能な事態に備えることができます。次に、道路や港、積み込み設備が影響を受けた場合、代替的な物流と流通の選択肢が必要になる可能性があります。新型コロナウイルスにより、最初に渡航制限が出された翌月には、アジアからヨーロッパへの主要な輸送ルートで予定されていた出発便の半分がキャンセルとなりました。調達から生産、そして流通までの業務全体を可視化することで、企業は緊急事態用の選択肢を、事前に用意しておくことができるようになります。
直接の影響がおさまったら、企業は累積需要に備える必要があります。この好転により注文が急増する可能性もあり、機敏性が求められます。資金調達を行うことで、リソースを迅速かつ柔軟に割り当て、生産量を増やしボトルネックを回避することができます。
次に、企業は将来の混乱を予測し、サプライチェーンの多様化を検討するべきです。様々な地域に幅広くサプライヤーを確保することで、いずれかの国が封鎖された際のリスクを緩和します。世界最大の工具メーカーであるスタンレー・ブラック&デッカーは、特定の地域への依存を回避するため、米国での生産を拡大させました。
レジリエンスを高めるには、これらのステップを組み合わせる必要があります。これは、SARSやエボラ出血熱、新型コロナウイルスのような感染症、福島第一原発のような環境問題、世界的な金融危機などの金融問題、そして政情不安定など内容を問わず、混乱のリスクが増えるにつれ、より重要となります。世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書は、未解決の状況を予測し、環境的リスクの高まりを強調しています。気候変動の軽減と適応における失敗が、最も影響の大きなリスクとされ、次に私の直近の体験でもある生物多様性の損失が続きます。
時が経つにつれ、消費者との距離を縮めることや、リスクを軽減することを目的とし、企業がサプライヤーとの関係を保つ距離が縮まる可能性もあります。しかし、世界的な成長につながるこのつながりを断ち切るのは短絡的すぎるかもしれません。実際に、国内サプライヤーだけに戻すという提案はレジリエンスを低下させてしまう可能性があります。その地域だけでは、製品、サービス、スキルを入手、利用できなかったり、競争力がなかったり、不確実であったりする可能性もあるため、幅広い選択肢を持っておくことは不可欠です。そして、自然が世界貿易を混乱させている今、政策立案者は、近年貿易を制限した障壁をさらに増やすのではなく、負担を軽減していくことを考えなければなりません。
企業は、不安定で不確実な外部環境をコントロールすることはできませんが、柔軟に対応していくことはできます。脅威が大きくなるにつれ、レジリエンスの重要性は高まります。外部の混乱を予測することで、企業は差別化を図り、混乱に備えることができるのです。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月8日