人間による適切なインプットが鍵となる、新型コロナウイルスの危機におけるAI活用
解決策のひとつに過ぎないAI Image: Gertrūda Valasevičiūtė/Unsplash
- AIは、創造的な方法で応用されれば、新型コロナウイルスとの闘いに活用可能です。
- AIにできることを活用するための、新しく、革新的な方法を見極められるかどうかは、私たちに人間次第です。
- 例えば、新型コロナウイルス関連の研究におけるパターン特定、診断の支援などが挙げられます。
AIは、新型コロナウイルスのパンデミックにより引き起こされた喫緊の課題への対処に、役立つ可能性を秘めています。しかし、変化をもたらすのは技術そのものよりも、それを使う人間の知識と創造性です。
実際、新型コロナウイルスがもたらした危機は、AIの重要な欠点を露呈する可能性があります。現在のAIの形式である機械学習は、過去のトレーニングデータのパターンを特定することで機能します。賢く活用できれば、AIはスピードもさることながら、人間が見落としているトレーニングデータのパターン特定することで、人間を超越する力を秘めています。
しかし、AIシステムがこのようなパターンを見つけるには、関連する例を含む大量のデータが必要です。さらに機械学習は、現在の条件がトレーニングデータの条件と同じであることを暗黙的に仮定します。つまり、AIシステムは、過去に機能したものは将来も機能すると暗黙のうちに想定しているのです。
これは現在の危機にどのように関係してくるのでしょうか?私たちは、先例のない事態に直面しています。私たちを取り巻く状況は、ほんの数週間前とは悲惨なほどに異なっています。私たちが取り組んでいかなければならないことの中には、前例のないものもあるでしょう。同様に、これまで機能していたものが今では機能しない場合もあるのです。
現在の状況がこれほど困難なものになっている理由のひとつは、これらの制限において人間がAIとそれほど変わらないことでしょう。前例を参照できなければ、私たちはそれが本当に最善の行動か確信を持つことができません。そして、従来の原因と結果に関する仮定は、もはや有効ではなくなっている可能性があるのです。
人間らしさ
しかし、人間にはAIよりも優れている点があります。私たちはある状況から学び、概念上の知識を活用して何が機能するか、何が起こるか、という最善の推測を行いながら、その学びを新しい状況に応用することができます。一方、AIシステムは、設定やタスクが少しでも変わるたびに、ゼロからの学習が必要です。
そのため、新型コロナウイルスのもたらした危機においては、AIに関する不変の真実が浮き彫りになります。それは、AIはツールであり、その価値はそれを設計し活用する人間によって決まるということです。この現状の危機において、特に重要なのは、AIが持つ力を活用する上での人間の行動とイノベーションなのです。
変化していく状況での課題に対するひとつのアプローチは、現在の条件での新たなトレーニングデータを収集することです。人間の意思決定者にとってもAIシステムにとっても、現在の状況に関する新しい情報は、今後の意思決定において大きな価値があります。情報共有をより効果的に行うことができれば、状況をより早く既知のものとすることができ、進むべき道筋が見えてきます。
24,000以上の研究論文のテキストを提供する「COVID-19オープン・リサーチ・データセット」のようなプロジェクト、肺スキャンで新型コロナウイルスを特定するシステムを共同開発しようとしている「COVID-net オープン・アクセス・ニューラル・ネットワーク」、個人からの匿名化されたデータの寄贈を募る取り組みは、AIシステムがその情報を取捨選択しパターンを特定できるようデータをプールするための、人間による重要な試みです。
2つ目のアプローチは、人間の知識と創造性を活用し、AIシステムにはできない抽象化を行うことです。人間は、アルゴリズムでは識別できない可能性が高い場所を識別できます。また、少なくともより最新のデータが利用できるようになるまで、重大かつタイムリーな課題への対処に従来のトレーニングデータが活用できる状況も識別できます。
このようなシステムには、過去のパンデミックのデータを用いてウイルスの拡散を予測するアルゴリズムや、知識や技能を活用できる機会を探している求職者を支援するツールが組み込まれている場合もあります。新型コロナウイルスが特異的な性質を有しており、労働市場の基本的なルールの多くが機能していない状況でも、AIツール適用の貴重な手段(慎重に制限はされると考えられますが)を見つけることは可能です。
鍵となるのはコラボレーション
新型コロナウイルスが猛威をふるうこの状況において、AIツールを活用しようという取り組みは、複数の異なる役割の人間によるインプットとコラボレーションがあってこそ、最大の効果をもたらします。AIシステムをコーディングするデータサイエンティストは、「AIにできること」、そしてそれと同じくらい重要な「AIにできないこと」を把握しているため、重要な役割を果たします。また、問題の性質を理解し、過去のトレーニングデータに関して、現在も活用できるポイントを特定できるこの分野の専門家も必要です。そして、これまでの仮定を超えて私たちを動かし、驚くべきつながりを見つけ出すことのできる、従来の常識を破るような発想力のある人が必要なのです。
トロントを拠点とするスタートアップ企業ブルードットは、そのようなコラボレーションの一例です。ブルードットは、12月に中国における新しい感染症の会うとブレイクを最初に特定した一社です。同社のシステムは、アウトブレイクの予測は可能だという信念を持っていた創設者のビジョンを基に、複数の異なるAIツールの力と、新興感染症の証拠を探すための場所と方法を特定した疫学者たちの知識を組み合わせたものです。さらに、これらの疫学者たちが結果を再度検証するのです。
ルールを新たに作り変えることは、ルールを破ることではありません。現在のニーズに対応するための取り組みでも、長期的な結果に目を向けることを忘れてはならないのです。AIシステムの開発に携わるすべての人間は、倫理規範を持ち続け、彼らが生み出す技術が予期せぬ結果を招く可能性がないかを考える必要があります。現在の危機は非常に切迫したものですが、それに対処するための基本的原則を犠牲にすることはできません。
重要なのは次ポイントです。まず、AIには大きな期待がかけられていますが、人間はまだ、多くの点でAIの能力を上回っているということです。さらに、近年AIがもたらした驚くべき進歩は、AI自体の技術の質によるものではありません。それはむしろ、数学的にも計算的にも複雑でありながら、その根幹は非常にシンプルで限定的なこのツールを、信じられないほど創造的に使いこなす人間の能力。その証明といえるのです。
したがって、私たちが現在抱えている問題に迅速に対処していくためには、人間の創造性が遺憾なく発揮される必要があります。それは、AI技術の専門家だけでなく、現場の知識を持つ人たち、私たちの思い込みに異議を唱え、新しいつながりを見出す人たちなど、あらゆる角度から引き出された創造性であるべきです。この、人間によるコラボレーションがあってこそ、AIはその潜在能力を発揮し、永久に活用できる強力なツールとなることができるのです。
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