中東はどのように持続可能な未来へとシフトしているか
単一拠点としては世界最大のアラブ首長国連邦の集光型太陽熱発電(CSP)プロジェクト Image: REUTERS/Satish Kumar
気候変動への対応が急務となっていることで、持続可能性および環境・社会・ガバナンス(ESG)の実践を事業戦略の中心に据える投資家が増えてきています。規制当局と政府当局の双方が、気候変動による影響の軽減を目指し、国単位で持続可能性の実現に向けた様々な取り組みを始めており、他の様々な機関にも協力を呼び掛けています。
こうした考え方への支持の高まりが、「環境にやさしい」から「持続可能」への転換を促し、完全に持続可能なアジェンダの達成を目指すことに役立っています。また、このような取り組みに投資家や各機関がどれだけ関心を持っているかを測るために、多くの努力が注ぎ込まれています。
金融活動を最大限持続可能にするひとつの方法は、「害のより少ないことを行う」という原則と、「より良いことをするように努める」という原則を組み合わせること。例えば、スタンダードチャータード銀行が議長を務めるエクエーター原則(赤道原則)は、世界中の100以上の金融機関が採用。幅広い環境・社会的基準の実施を求めています。
しかし、コスト増を警戒して、グリーンファイナンス施策の採用に慎重な金融機関もあります。これを解決するには、金銭的な動機付けもひとつの方法ですが、これは持続可能な、長期に継続できるやり方とは言えません。そのため、資本家や投資家は、これらの投資がもたらす無形の利益に目を向けなければなりません。規制当局が、気候リスクに関するシナリオ分析をすれば、その重要性は見えてくるかもしれません。
持続可能な金融という市場全体を覆い続けている最大の問題は「信頼性」です。グリーンボンド市場が誕生して以来、環境活動のためと指定された資金がその通りに使われていないという「グリーンウォッシング」の事例がいくつも発生しています。
持続可能な金融活動として、組織が何を信頼できるとみなすのか明確に定義することが、グリーンウォッシングを回避し、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには重要です。詳細な報告と測定、そして持続可能性に特化した約款により、投資家の持続可能な金融施策に対する信頼を高める必要があります。資金が、目的通りに使われているという根本的な保証として、定量化できる報告も行う必要があります。
2030年までにSDGsの目標を達成するために、新興市場は年間2.5兆ドルの投資を必要としており、その大半は中東に集中していると推定されています。中東には持続可能な開発のための重要な投資先が複数あり、資金の不足額は年間1000億ドル以上と推定されています。2030年までに目標を達成するためには、投資家と銀行が連携し、資金をマッチングすることで持続可能な開発を促進していく必要があります。
中東の多くの国は、予算を賄い、経済活動を支えるために化石燃料に依存しています。規制のハードルが上がることで、より監視が厳しくなり、コンプライアンス基準が高くなれば、生産コストは大幅に上昇。資金調達はますます難しくなるでしょう。湾岸協力理事会加盟国などの進歩的な国の政府は、太陽光や廃棄物などを使った再生可能エネルギーへの投資を進めています。中東では年中太陽が出ている上、導入コストも安くなってきているため、再生可能エネルギーのコストは今や化石燃料ベースの電力と同等。この地域にとって、太陽は第二の石油なのです。
再生可能エネルギーは、化石燃料からの二酸化炭素の排出を劇的に減らしたり、エネルギーを大量消費する産業の価格競争力を上げたり、また海水の塩分除去の普及を進めたりと、地域の展望を良い方向へ変化させられる可能性があります。スタンダードチャータードのような国際銀行は、各国をつなげてノウハウと支援を提供し、2030年の目標やSDGs達成に向けて大きな進歩を遂げる力を持っています。
2019年、サウジアラビアは280億ドル規模の再生可能エネルギー開発プログラムを立ち上げました。クリーンエネルギープロジェクトや、再生可能エネルギー部品を製造する企業に、融資を行うプログラムです。さらに、サウジ工業開発基金の「Mutjadeda」は、サウジアラビアが石油依存から脱却し、その他の多様なエネルギー源へシフトするために創設されたものです。
他にも最近では、アラブ首長国連邦(UAE)が周辺国と協力し、SDGsの様々な分野に取り組んでいます。例えば、UAEを代表する航空会社であるエティハド航空は、1億ユーロの融資を受けSDGsに関するプロジェクトに資金を投じました。
中東では、再生可能エネルギーへの移行は勢いを増し、金融機関にとっても魅力ある分野となっています。マスダールが2013年に、当時世界最大の集光型太陽熱発電(CSP)プラントであったシャムス発電所を開設して以来、太陽熱発電はこの地域で成長を続けています。
現在も、世界最大級のCSPプロジェクトのひとつであるこのプラントは、UAEの再生可能エネルギー容量増加へ道を開拓。近年で特に注目すべきは、ドバイのモハメッド・ビン・ラシッド・アル・マクトゥーム・ソーラー・パークの開発、そしてノア・アブダビ太陽光発電プロジェクトの完成です。UAEの気候はこの技術に最適であり、さらにイスラム金融はこの国にとって特に有用なメカニズムなのです。
エネルギー需要の97%を輸入に頼っていると言われるヨルダンは、2020年までに電力消費量の20%をグリーンエネルギーに切り替えるという野心的な計画を立てています。年間日照日数が300日以上のこの国で、太陽エネルギーは国家のエネルギー産業の投資先として急速に注目を集めています。
中東では、債権の発行元である政府や企業により、持続可能エネルギーへの投資によるチャンスをうまく生かすための準備が着々と進められています。この地域の市場へ参入した多くの企業は、自分たちのビジネスが持続可能な開発戦略へ貢献できると判断しています。例えば、不動産開発業者は、よりエネルギー効率と資源効率の高い建物の建設を目指し、運輸・物流企業も、再生可能エネルギー源や高効率エネルギー技術の進歩の恩恵を受けることができます。
「環境にやさしい」金融から「持続可能」な金融への移行は、究極的にはSDGs達成を促進させることになります。現在のところ、まだ大きなギャップがありますが、金融機関と政府当局は手を取り合い、完全に持続可能なアジェンダを採用することでそのギャップを埋めていくべきです。
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