AIによる金融サービスの変革とその方法
金融機関ではデータから得られた見識の利用の仕方をAIが変えている
Lukas Ryll
Research Affiliate, Cambridge Centre for Alternative Finance, the University of Cambridge Judge Business SchoolBryan Zheng Zhang
Executive Director, Cambridge Centre for Alternative Finance, the University of Cambridge Judge Business School- EYおよびインベスコのサポートを受けて実施された、金融サービスにおけるAIに関する世界調査は、AIがビジネスモデルから労働力の変化まで、金融機関に与える影響を示しています。
- フィンテックは、2030年までにAIがフィンテックの総労働を19%拡大すると予測しています。
- データの質、データへのアクセス、そして適切な人材へのアクセスはすべて、AIを導入する上で大きな障害と見られています。
AIは、グローバルな金融サービス産業においてさまざまなモデルを変革している最中であることが、ケンブリッジ大学・ジャッジ・ビジネス・スクールのケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センター(CCAF)と世界経済フォーラムが共同で実施したグローバル調査によって示唆されています。
EYおよびインベスコのサポートを受けて実施されたこの研究は、金融機関がデータから得た見識を活用する方法をAIが変えつつあり、その結果として、新しい形態のビジネスモデルのイノベーションが推進されると共に、競合環境と労働力が再形成され、あらたなリスクダイナミクスが生じていることと、企業と政策決定者にこれまでない課題が等しく与えられていることを実証しています。
大量導入に向けた動き
30か国以上の既存企業およびフィンテックの両方を含む151の金融機関の回答を集めた調査結果によると、短期的に見て、AIはサービス業界においてきわめて重要な事業推進力であると断定できます。注目すべきは、AIを導入している企業はAIを導入するための具体的な運用方法を持っているようには見えず、代わりに64%が2年以内に大量導入企業になると予想しており、幅広いビジネス機能にわたってイノベーションと成長を刺激するAIの可能性が、高まっていることが証明されていることです。
フィンテックも既存企業も、主にコスト削減のためにAIを利用するのではなく、その能力を収益創出のために活用するようになってきていますが、目的達成のために追求しているAI戦略は両者で異なっています。下のグラフに示すように、多くの既存企業ではおもに既存製品とサービスを強化するためにAIを使用し、多くのフィンテックはあらたな価値ある提案を創出するためにAIを使用しています。
この戦略は「AIaaS(サービスとしてのAI)」と連動しており、全フィンテック企業(B2Bのみの企業を除く)の45%が、AIベースのB2Bソリューションを提供しているのに対し、既存企業では21%に留まっています。
EYのグローバルAIリーダーであるナイジェル・ダフィー氏は、大量導入の意味合いを理解することの重要性を認識しており、「AIは金融サービス業界を変革しており、今後もAI導入が広く普及することが予想される。テクノロジーが新たな収益源への道を切り開き、ビジネス機能を変革する中で、AI導入の長期的な意味合いに注目することは、組織にとってますます重要になる」と述べています。
調査の参加者たちの認識では、大量導入後、2030年までに既存の金融サービス業務の9%近くがAIに取って代わられる可能性があり、フィンテック企業では、同期間にAIが総労働力を19%拡大すると予測しています。業務削減幅が最も大きくなるのは投資運用の分野で、参加者たちは5年以内に10%、10年以内に24%の純減を予想しています。
あらたなモデル、あらたな課題
導入に向けた競争において、企業は同様なハードルに直面しています。データの質とデータへのアクセス、適切な人材へのアクセスなど、いずれも回答者の80%以上がAI導入の大きな障害になっているとみています。一方で、ハードウェア/ソフトウェアのコスト、市場の不確実性、テクノロジーの成熟度は、それほど大きな障害ではないと考えられています。
しかし、これらの導入のハードルを乗り越えたとしても、AIの普及は、金融サービスの現場に関わるすべての関係者にさまざまな課題をもたらします。
- AI導入は、市場全体の特定のリスクやバイアスの悪化につながると予測されています。例えば、企業は特に、従来とは異なるデータセットが使用されている場合に、AIが信用分析においてバイアスを生み出したり、悪化させたりすると予想しています予測しています。
- AI導入に対する規制の影響力については、見解が分かれているが、ほとんどの企業は、規制の不確実性や複雑さに加えて、法域や事業体間のデータ共有規制が妨げになっていると感じています。
- 回答者の半数近くが、グーグルやテンセントなどのビッグテック企業がAI機能を使って金融サービス市場に参入することを、大きな競争上の脅威であるとみています。
この研究では、これらの所見を経験的定量データで裏付けるだけでなく、異なるセクターや企業のタイプにまたがって一般化できる戦略関連の側面も明らかにしています。調査結果をまとめると、成功するAI戦略を開発しようとする企業は、持続可能かつ(理想的には)独占的なトレーニングデータのソースを確保する必要があるという結論に達することができます。基礎となるアルゴリズムやシステムは複雑かもしれなくとも、コモディティ化が容易であり、独自のデータセットに比べて差別化が少ないのです。
大規模データに対する普遍的ニーズは、AI対応の製品やサービスを統合して、バイヤーとサプライヤーの間にデータ豊富なインターフェースを形成するデジタル・プラットフォーム・モデルを構築する流れを促します。この流れは、すでにグーグルなど重要なテックセクターのプレイヤーにはすでに見られており、グーグルは、AIが持つ自己強化型の特性を最大限に利用して、検索分野での優位性を確立しています。
しかし、既存企業、フィンテック、ビックテックの三者間における、パワー・ダイナミズムがどの方向に進化するのか、特にこれらの企業がもたらす補完的な能力を考えると、明らかになっていないのが現状です。こうした全般的な発展を包括的な概観するためには、早期のAI導入者の優位性のメカニズム、既存企業の「レガシーインフラ」の負担と、AIを活用したネットワーク効果、そして、AIに起因するバイアスとリスクについて、さらに詳細な研究を行う必要があります。
このように、課題が山積しているにも関わらず、インベスコの最高技術責任者(CTO)であるドニー・ロシャン氏は、AIが金融サービスにもたらす驚くべき機会に注目しています。「このレポートは、金融サービスにおいて、人工知能と機械学習を利用して顧客と組織の利益に貢献するという驚くべき機会が目の前にあることを強調している。インテリジェンスを活用して、顧客の個人的な目標と結びつけて投資を定義し、「インテリジェント・ボット」を使用して顧客体験を向上させ、代替データセットからの洞察によるアルファの追加生成し、機械学習の自動化による業務の効率化を図るなどの技術的進歩は、まもなく金融サービス業界のスタンダードとなるだろう」。
研究の全文はこちらからご覧いただけます。
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