コロナウイルスが企業に与える影響はこれだ
コロナウイルスの大流行は世界中に波紋を広げている Image: REUTERS/China Out/Stringer
- 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の大流行は、国境を越えた信頼の亀裂、国際的な相互依存の落とし穴、そしてグローバルガバナンスの課題を浮き彫りにしている
- 伝染病はそれだけでもビジネスリスクであると同時に、現在ある傾向や脆弱性を増幅させる
- 企業は、新たに浮上するグローバルリスクに対抗すべく、戦略的・事業的・財務的なレジリエンスに投資していくことによって、対応策や復興において有利な立場に立つことができる
多くの国において、パンデミックはリスクマネジメント体制の最優先事項となっています。例えば、英国ナショナルリスクレジスターの自然災害マトリックスでは、インフルエンザのパンデミックが最上位に来ており、新興感染症は高度の懸念と分類されています。潜在的に危険な感染症のアウトブレイクが発生し、それが医学的な問題と見なされると、当局は分別のある質問を投げかけ、必要に応じて実行可能な対応策を段階的に引っ張り出してくるわけです。
しかしながら、中央政府と超国家機関は、不完全かつ常に変化している情報を元に保健対策の安定性や経済的・社会的な緊急課題の釣り合いをとっていくため、現実は想像以上に混乱していることが多いのです。これは、地域社会や企業に長期的な影響をもたらす可能性がある、ガバナンスの課題です。これに加えて、人間の行動も考慮に入れていく必要があります。
管理上の難問と信頼低下
新型コロナウイルス2019(COVID-19)も例外ではありません。人口が密集した中国中部の製造・輸送ハブで発生した新型コロナウイルスは、春節や海外旅行が影響し、29の国と地域(2020年2月20日時点)に広がり、世界的なパンデミックになる可能性があります。
2013〜2016年に、西アフリカで発生したエボラ出血熱流行の場合は、新型コロナウイルスよりも致死率が高いものの感染力は低く、より散発的であると考えられ、資金力のある国々が、アフリカに資金を投入したこともあって最終的には封じ込めに成功しました。一方、新型コロナウィルスの流行は、規模が大きくて相互依存的な経済圏に、管理上の難問をもたらしています。また、社会不安の高まりや大国間の経済的対立といった圧力が中央政府にかかる中、国家内そして国家間の信頼が損なわれつつある時期に発生したのです。
パンデミックなどの国境を越えた危機を効果的に管理していくためには、地域レベル、国家レベル、そして国際レベルで準備を整え、対応と回復のための対策をとっていく必要があります。感染症準備評価では、特に新しい病原体が出現する可能性がある地域の多くの国においてアウトブレイクを検出、報告、対応する体制が不十分であることを示しています。
否認、隠蔽とガバナンスの失敗
感染症への対応戦略は、問題を重く見るか軽く見るか、ぎりぎりのところまで企業の業務を続けるか早期の再開を目指すか、など多岐にわたっています。今回の、新型コロナウィルス流行の場合、経済的または政治的な不利益を避けようとして危険信号を見なかったことにしたり、隠蔽しようとしたりする傾向が多くの国で見られましたが、この方法は意図した効果をあげない可能性があります。
数千万人の労働者が隔離され、部品が不足している中国は、経済活動を何とか回復させようと奮闘しています。危機管理体制がより進んだ国は、感染拡大の速度を遅らせるべく健闘していますが、それでも政治的・経済的圧力から逃れられるわけではありません。
準備不足の当局が安定を維持または回復しようとするあまり、何の対策もとらないか、または度の超えた対策をとることにより、いかにガバナンスが失敗するかという事例を、今回の新型コロナウイルス流行を通して示しています。どちらも、市民や国家間の信頼と協力を損なうものです。集権的な管理対策は、ウイルスの拡散を阻止または遅らせるために必要で、個人や地域社会の対応能力不足を補ってくれるように見えますが、害を及ぼす可能性もあるのです。
都市やクルーズ船における大量検疫で封鎖状態に置かれた人たちは、白い目で見られることがあり、ストレス、不安、孤立感や、命や健康への危機を自分の力でコントロールできない感覚を体験することで、メンタルヘルス上のリスクも増加します。旅行禁止は、社会的・経済的・政治的な不利益をもたらすため、個人や政府機関が、情報共有や将来のアウトブレイクに関する情報公開をためらう可能性に繋がります。脆弱な、または対応能力不足の医療制度は、感染の広がりを抑えて急増する治療ニーズに対応すべく懸命に努力していますが、それによって、対応に当たる機関や個人の能力と地位に対する信頼がさらに低下するという事態になっています。
パニックはパンデミックよりも早く拡大する
信頼をさらに困難にしているのが、ソーシャルメディアです。グローバルなプラットフォーム[A1] は不確実性と偽情報を増幅させるため、パニックはパンデミックよりも早い速度で広がります。発信者が誰であれ、恐怖をあおるようなデータ、逸話、推測など、感情的で直感的なコンテンツは急速に拡散され、専門家が提供する控えめで安心感を与える助言よりも多くの人たちに届きます。人間または自動化された荒らしが注意を引いたり、混乱を引き起こしたりしようとしていますが、それがなかったとしても、早期に出された情報や暫定的な情報、または文脈からかけ離れた情報をエスカレートさせたり、誤解したりすることによって、善意で行動した個人が世界中にパニックを広げることがあります。こうした恐怖によって、自分たちを危険から守ってくれる政府の能力に対する、市民の信頼が揺らぎ、買い占めや偏見など、社会に悪影響を与える心理的な防衛手段が出現する可能性が増加してしまいます。
企業が受ける影響はどのようなものか
厳しい政策対応が必要とされる場合、企業は短期的な影響、および予想としては低いものの長期的な結果という形で、否応なく影響を受けるでしょう。
何億人もの人たちに影響を与える旅行規制と検疫によって、中国の工場では労働力と部品が不足し、ジャストインタイムのサプライチェーンが混乱、テクノロジー、自動車、消費財、医薬品などの産業全体で販売に関する注意事項が出されている。中国における原材料消費の減少に伴い商品価格が下落しており、生産者は減産を検討している。モビリティと業務の混乱で中国国内の消費量が大きく減少したため、航空、留学、インフラ、観光、エンターテイメント、ホスピタリティ、エレクトロニクス、消費財、高級品など、複数の部門で多国籍企業が苦境に立たされている。
全般的にみると、中国の今年のGDP成長率は0.5ポイント、そして、世界のGDP成長率は少なくとも0.1ポイント低下し、中国への依存度の高い先進国市場と新興市場に、貿易、観光、投資といった形で波及するでしょう。これらの国の中にはもともとの経済の脆弱性が表面化した国もあれば、保健制度に弱点があり、パンデミックに対するレジリエンスが低い国もあります(その双方が重複することも)。アジアとアフリカの多くの国では、感染症が発生した際に患者を特定、隔離し、治療するための監視能力、診断能力、そして病院の対応能力が不足しています。場所を問わず、脆弱な制度は伝染の可能性を増加させ、社会的・経済的な影響を与えることから、保健対策の安定性にとって脅威となっています。
企業がパンデミックへの対応能力強化に投資すべき理由
感染症流行とパンデミックはそれぞれ、単独でも企業に対するリスクであると共に、現在ある傾向や脆弱性を増幅させる要因でもあります。長い目で見ると、企業にとって新型コロナウィルス流行が、保護主義の規制やエネルギー効率上のニーズに加えて、自社のサプライチェーンに関して、感染症の発生しやすい地域としてのリスクを再評価し、地域ごとに再編成する上でも新たな動機となるかもしれません。
また、企業は、米中貿易対立の再燃といった政治的リスク、経済的リスク、そして保健対策の安定性に対するリスクの増大に対応していかねばなりません。感染症発生や経済的混乱が長引くことによって、香港そして中国本土で国民の不満があおられ、イノベーションや成長を抑えつけるような、抑圧的な措置を招く可能性もあります。新興市場での成長のつまずきが、急速に増加している労働力の活用を困難にし、社会不安、政治的な不透明感、そして医療制度への投資不能につながっていくことも考えられます。
企業の業務継続、従業員保護、市場維持といった一般的な懸念を超えて、企業も国家も複雑で発展しつつある相互依存的な関係が、パンデミックや他の危機の悪影響を増幅させるリスクとなることをふまえ、この関係を新たな目で見直していくべきです。パニックやパンデミックへの対応度を軽視してきたサイクルを考慮すると、新型コロナウィルスが封じ込められたなら、世界の大半は無頓着な状態に戻ってしまい、不可避である次のアウトブレイクに対して準備がおろそかになったままということも考えられます。新たに浮上するグローバルなリスクに対抗すべく、戦略的・事業的・財務的なレジリエンスに投資する企業は、対応策や復興において有利な立場に立つことができるのです。
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