G7協調は「止血剤」、3期連続マイナス成長に現実味
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済が2008年のリーマンショック以来となる打撃を受けようとしている。 Image: 2020年 ロイター/Athit Perawongmetha
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済が2008年のリーマンショック以来となる打撃を受けようとしている。主要7カ国(G7)は3日に財務相による電話会議を行ったが、仮に流動性対応も含めた緩和策が打ち出されたとしても「止血剤」にしかならないだろう。感染拡大から終息に向かうまでどの程度の時間がかかるのか、それとの競争という面が否めない。
また、日本経済をみると、1〜3月期の国内総生産(GDP)が前期比マイナスになるのは確実であり、大規模なイベント開催の自粛要請が長期化するなら、4〜6月期のマイナス成長も現実味を帯びてくる。長期戦への覚悟が必要になってきた。
G7協調、負のスパイラル切断狙う
これまでもリーマンショック時には米連邦準備理事会(FRB)が大幅な利下げで対応してきたように、緊急時に機動性が効く金融政策で対応するのが「定石」だ。今回もG7による協調的な姿勢を示すことで、市場に金融緩和や財政出動への期待が残るような書きぶりになると予想する。
ただ、今回はショックの震源地が新型コロナウイルスの感染拡大という公衆衛生にかかわる問題であり、マクロ政策を強力に推し進めても、ウイルスを根絶することはできない。
その意味で、今回のG7協調は、実体経済の先行き懸念─株価急落に象徴される市場の動揺─実体経済の一段の下押し、という「負のスパイラル」を市場動揺のところでいったん切断し、世界の「恐怖心理」を沈静化させることに主眼があると考える。
言わば、手術で患部を切除するのではなく、大量の出血を止める「止血剤」の役割をG7が果たすということだろう。
中国以外での感染拡大がネック
では、新型ウイルスの感染は、いつ終息するのか─。中国国家衛生健康委員会の3日の発表によると、中国本土で2日に新たに確認された新型コロナウイルスの感染者は125人と、前日の202人から減少し、当局が1月に集計結果の公表を開始して以降で最小となった。
一方、中国以外では感染が拡大しており、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は2日、新型コロナウイルスの感染拡大についてWHOは韓国、イタリア、イラン、日本の情勢を最も懸念していると述べた。
米国やフランスなどでも感染が拡大しており、終息のメドは立っていない。G7協調は「時間を買った」とも言え、感染終息との「時間の競争」になっている。
寸断続く供給網
世界経済への影響度合いも深刻さを増しており、 経済協力開発機構(OECD)は2日、2020年の世界成長率見通しを2.9%から2.4%に引き下げ、米国や欧州に感染が広がれば、1.5%に減速する可能性があると指摘した。日本については、従来の0.6%から0.2%へと成長率を3分の1に押し下げた。
今回のコロナウイルスの感染拡大では、「世界の工場」となった中国の製造業が大打撃を受け、グローバルなサプライチェーン(供給網)が寸断されている。
実際、中国国家統計局が29日発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は35.7と、前月の50から大幅に低下し、過去最低を記録。 いつ頃から立ち直るのか、見通しが立たない状況となっている。
日本でも、自動車メーカーの生産ラインから、一部の薬品の原材料、雑誌の付録にいたるまで、広範囲で中国からの供給不足による影響が出ており、「供給サイド」の打撃は深刻さを増している。
内需の打撃も深刻
一方、グローバルに見ても、観光や運輸関連の企業業績が軒並み、足元で悪化しており、感染の拡大によって身近な消費にも影響が出てきている。
日本国内では、安倍晋三首相が2月26日に大規模なイベントの中止・縮小を要請。3月2日からは小中高の一斉休校、企業へのテレワークの要請などが加わり、急速な国内消費の落ち込みが予想されている。
現実に消費サイドでは、急速な落ち込みが進行していることを裏付けるデータがある。ビッグデータの解析・分析を行うナウキャストとジェーシービーがまとめている「JCB消費NOW」によると、2月2〜15日の消費総合指数は、前年同期比マイナス3.1%と大きく落ち込んだ。これは政府のイベント自粛要請前の期間であり、足元ではさらに大きく落ち込んでいる可能性がある。
業種別では、旅行が同マイナス13.1%、宿泊が同マイナス6.5%、交通が同マイナス5.8%、飲食衣料品小売りが同マイナス2.3%と軒並み落ち込んでいる。他方、医薬品が同プラス6.7%、スーパーが同5.9%とマスクや食料品などの需要が強かったことを示している。
長期戦の覚悟も
このように今回のウイルス感染では、供給サイドと需要サイドの両面で大きなマイナスが発生しており、立ち直りに時間がかかることは明白だ。これまで米中貿易摩擦の影響により、対中輸出の依存度の高い企業にしわが寄っていた構造から、消費や非製造業の設備投資など経済を下支えしてきた分野にまでマイナスの影響が波及している。
言い換えれば、輸出だけでなく、消費と設備投資という両輪も大きく「損傷」する可能性が出てきたわけで、日本経済はリーマンショック以来の「試練」に直面していると指摘したい。
2019年10〜12月の成長率はマイナス6.3%となったが、2020年1〜3月期もマイナス成長が確実視される。テクニカルには2期連続のマイナス成長で景気後退とみなされるが、4〜6月期から急回復すれば、そこから経済が緩やかに回復する軌跡を描くことは可能だろう。
しかし、新型コロナウイルスの感染が終息していなければ、4〜6月期にV字回復するとは断言できない。
もし、政府のイベント自粛要請が2週間にとどまらず、3月末ないし4月以降にも継続されれば、その影響は相当に大きくなるだろう。
悪いシナリオも想定して政策対応するのが当局の使命であるなら、今の段階で「長期戦」に対応する選択肢も検討すべきだ。
消費者サイドの疲弊が大きくなると予想するなら、19年度予算の予備費、20年度予算案で示されている予備費だけでなく、消費者の需要を生むような直接的な財政的対応も必要になると指摘したい。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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