新型肺炎、終息が4月以降なら世界の成長率1%に下振れも
新型コロナウイルスによる肺炎患者が拡大を続け、中国経済だけでなく、世界経済の先行きに大きな影響を与え出している。 Image: 2020年 ロイター/Aly Song
新型コロナウイルスによる肺炎患者が拡大を続け、中国経済だけでなく、世界経済の先行きに大きな影響を与え出している。今後の展開を占う上で最も重要な点は、いつ、「ピークアウト宣言」ができるかだ。3月末までにメドが立てば世界の株価は急回復するとの楽観論がある一方、6月になっても感染拡大が継続すれば、「世界の工場」の低稼働率で世界経済が1%成長に低迷することも想定すべき事態になるだろう。
終息に向けた具体的な目安としては、米国が宣言した「公衆衛生上の緊急事態」がいつ解除されるかだ。米国が中国からの入国を拒否している間は、世界経済の「収縮現象」は継続し、対中依存度が高い日本は、米国以上に打撃を受けることになるだろう。
特に7月下旬からの東京五輪の開催に影響が出るような事態に発展すれば、日本経済の受ける衝撃は、世界各国の中で「突出」した規模になりかねない。
好感された1兆2000億元の資金供給
3日の日経平均.N225はいったん、前日比400円を超える下げとなったが、取引が再開された上海総合指数.SSECが7%から8%台の下落幅で推移するなど、想定内の動きを見せ、中国人民銀行がリバースレポで1兆2000億元の資金を供給し、安心感から日本株にも買い戻しの動きが出ている。
ただ、新型肺炎の影響を市場が織り込んだか言えば、答えは「ノー」だろう。中国での感染者数が拡大を続け、いったい、いつになったら「終息宣言」が出るのか、今の段階では全くわからないからだ。
中国政府によると、2日時点で同国内の新型肺炎感染者は2829人増え、1万7205人となった。感染者の増加ペースに衰えは見えず、今のところ武漢市を「封鎖」した効果ははっきり出ていない。
中国の工場再稼働はいつか
今回の新型肺炎の経済的な打撃を整理してみると、1)中国人観光客の急減による観光業、運輸業などの売上減少、2)中国以外でのインバウンド需要の急減、3)中国企業の操業停止による中国経済の縮小、4)中国企業の稼働率低下による世界的なサプライチェーンへの打撃、5)中国経済の停滞による世界各国の対中輸出の減少──などが挙げられる。
当面は、3)で指摘した中国企業の操業停止がどうなるのかが、市場関係者の注目を集めている。武漢市のある湖北省は、春節(旧正月)休暇を13日まで延長。その他の地域では9日まで工場の操業を停止しているところが多い。
果たして、上海などで10日から操業を再開できるのか、湖北省で14日から予定通りに工場を再開できるのか。新型肺炎の感染者が増加を続けていた場合、仮に操業を再開し、感染者の数が急拡大した場合は、再停止に追い込まれかねず「朝令暮改」の批判を受けかねない。
SARSより厄介な新型肺炎
要は感染者の増加ペースがいつ、頭打ちになるかだ。今回の新型肺炎は、2003年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べ、明らかに違う点が2つある。1つは、症状がない人からの感染の心配がなかったSARSと比べ、新型肺炎は無症状の人でも保菌者であれば、他の人に感染させることがあることだ。
また、SARSは早期にワクチン、特効薬が開発され、世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言から4カ月足らずで終息宣言が出た。
しかし、今回の新型肺炎では、今のところワクチン、特効薬の開発メドは立っておらず、慎重な科学者の中では、1年後になるとの見方も出ているという。
仮に3月末までに感染者のピークアウトが確認できれば、世界の株価は急反発し、新型肺炎の騒動は「一過性だった」ということになるだろう。
中国国家発展改革委員会の幹部は3日、新型肺炎拡大による経営への影響は短期的で、景気への影響を最小限にとどめることに自信があるとの見解を表明した。
ピークアウトの目安、米緊急事態宣言の撤回
ただ、現実に4月になっても感染者の増大に歯止めがかからず、中国全土で感染増加がみられる事態になった場合、先に指摘したような世界的なサプライチェーンへの影響や、中国経済の低迷長期化による各国の対中輸出減少が、現実の問題としてクローズアップされることになる。
「世界の工場」と言える中国経済の低迷が6ヶ月を超えるような事態は、世界経済がこれまでに経験したことがない。
そのケースでは、世界経済の成長が国際通貨基金(IMF)の弱めの予想の3%台前半を下回って1%そこそこまで失速するリスクも出てくると予想する。
そうしたワーストシナリオになるかどうかの判断を下す際に重要な目安は、米国が宣言した「公衆衛生上の緊急事態」の行方だろう。この宣言は、中国外務省が「実に卑劣」と強く反発するほど、大きな「強制力」を持つ。
この宣言が出ている間は、世界経済の1位と2位の国の間で、正常な経済行為が行われないと言っていいだろう。つまり、米国のこの宣言が出ている間は、世界経済の回復に向けた動きは期待できない。
終息時期の後ずれ、東京五輪に影響
米国以上に大きな影響を受けそうなのが、日本であることも明白だ。対中依存度の高い大企業が多い上に、7月下旬から東京五輪の開催を控えている。
もし、6月中下旬になっても「終息宣言」が出ていない場合、日本経済の受ける打撃の割合は、米国を上回ると予想される。
また、東京五輪を予定通りに開催するのかどうか、国際オリンピック委員会(IOC)もWHOの見解を参考にしつつ、判断を下すことになるとみられる。
東京五輪の開催に影響が出るようなら、実際の経済的なダメージとともに、心理的な打撃が大きくなる。
新型肺炎のピークアウトがいつになるのか。しばらくは、この点が世界のさまざまな分野で最も注目されるポイントとして意識される続けるに違いない。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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