世界経済フォーラムの取り組み

SDGsとメディア:効果的なステークホルダーとして

Japanese media covers the SDGs extensively. Here's how and why other outlets should follow.

日本メディアはSDGs関連の報道に積極的。他国の報道機関が後に続くために取り組むべきこととは。 Image: UN/Flickr

Yoichi Nishimura
CEO, The Huffington Post Japan
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム 年次総会2020

来日した国連の幹部や、グローバル企業のCEOが東京の光景を見て一様に驚くのが、SDGsバッジをつけて歩く人の多さである。「グローバルビジネスをする企業にとって、SDGsへの取り組みを標準装備し、情報開示することは必要不可欠になった」(大手商社幹部)といった認識が広まり、大半の大企業が社内にSDGs推進の部署を設けるようになっている。高い技術力を持つ中小企業経営者の関心も高まってきた。

SDGsに対する「マルチ・ステークホルダー」の関心の広がりを考える時、報道機関の果たす役割は大きい。

SDGsの17目標の土台のひとつである「気候変動」は他の分野の課題のほとんどに絡んでおり、この解決なしにSDGsの目標の達成は不可能と言っていい。たとえば、この分野については、BBCが2018年9月、「気候変動をいかに報道すべきか」という編集指針を作成し、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による科学の知見を受け入れ、報道に懐疑派を入れてバランスをとる必要はない」などの点を決めている。英紙ガーディアンも2019年5月、気候変動をめぐる用語集を一新し、これまでの表現は残しつつも、climate change(気候変動)は、climate emergency(気候緊急事態)やclimate crisis(気候危機)への言い換えが望ましいなどと決めている。朝日新聞も、2019年9月に国連本部で開かれた気候行動サミットを機に「気候危機」という表現を使い始めている。

国連は2018年9月、世界の主要メディアの連携組織「the SDG Media Compact」を立ち上げ、参加する個々のメディアに、SDGs報道への積極的な関与を促す取り組みを始めた。 興味深いのはその構成だ。現在、世界で加盟する85社を地域別にみると、欧州が20、南北米大陸が14、アフリカ15、中東9なのに対して、アジアは27と最も多い。中でも日本メディアは当初から加わった朝日新聞を含めて最も多く12社を数える。

日本のメディアの関心が高いのはなぜか。石油のほぼ全量を海外からの輸入に依存する日本は、1970年代の石油ショックの際に大きな経済危機に見舞われた。それ以来、政府、企業、市民それぞれが省エネルギーに向けた努力を進めてきたが、2011年の東日本大震災の際、津波を受けて福島第1原発が深刻な炉心溶融(メルトダウン)を起こした。当時54基あった原発の多くが操業を停止するなか、二酸化炭素を排出する化石燃料への依存が再び増えているという事情がある。資源エネルギー庁によると、震災前、日本のエネルギー供給の約3割を占めていた原発は2017年にはわずか3%になった。天然ガス(39%)と石炭(35%)が7割以上を占めるが、再生エネルギーは16%にとどまっている。

関心の高さは報道の継続性にもつながっている。2000年から16年までのMDG、SDGs関連の報道記事数を調べた米シンクタンク、ブルッキングズ研究所の分析では、欧米メディアは国連の関連会議の開催年かどうかで記事数が増減するのに対し、インド、南ア、ナイジェリアなど途上国では、会議の後もこの問題が継続的に報じられている。日本や途上国メディアの関心の高さは、これらの地球規模課題が、自国にとってまさに「今そこにある危機」であるからに他ならない。

Do you know the 17 Sustainable Development Goals? Your answer may depend on your country's media coverage of them.
17の持続可能な開発目標についてよく知っているかどうかは、それぞれの国の報道機関がその役割を果たしているかniどうかにかかっています。

朝日新聞では、SDGsにかかわる多くの特集企画を、紙面とデジタルを通じて継続的に発信している。森林管理を通じて地域の循環経済に挑戦している地方の町、年間650万トンの食品や10億着の新品の洋服が捨てられると言われる「大量廃棄社会」をとりあげたルポやデジタル企画に加えて、キーパーソンへのインタビューも企画してきた。その中にはSDGs策定を主導したアミーナ・モハメッド国連副事務総長の招請と会見も含まれる。

SDGsで世界を変える 国谷裕子氏×アミーナ・モハメッド氏 朝日地球会議2017
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13162656.html

2030 Transform through SDGs by Asahi Shimbun
http://www.asahi.com/ajw/special/SDGs/

教育もジャーナリズムが役割を果たすことのできる分野だ。私たちは2018年3月からSDGs報道を教材とする「出前授業(ワークショップ)」を実施している。これまでに中学、高校、大学などで約3000人が受講した。そこでは、生徒たちが17のSDGs目標との関連性を考えながら地球温暖化、食品ロス、廃プラなど様々な記事を読み、気になった記事を選んでコメントを書き込む手法をとっている。SDGsという言葉を初めて聞く生徒たちも、地球温暖化問題などを自分の生活に引きつけて考えるようになる。

専門家と市民を結ぶのもメディアの役割といえる。朝日新聞は2008年以降、地球環境問題やSDGsに関する国際シンポジウムを年に何度も開催している。昨年は、SDGsに多大な影響を与えた「プラネタリー・バウンダリー」の提唱者で地球環境問題研究の第一人者ヨハン・ロックストローム・ポツダム気候影響研究所理事、ジェフリー・サックス・コロンビア大教授らを招いて、日本の専門家や市民、高校生らと議論する場を提供した。サックス氏は2014年以来の常連である。

“Three Challenges in Realising Decarbonisation”
Jeffery Sachs, Director of The Earth Institute and Professor of Sustainable Development at Columbia University

Asahi World Forum 2019 朝日地球会議2019
http://www.asahi.com/eco/awf2019/en/

(2030 SDGsで変える)地球の限界、越えないために ヨハン・ロックストロームさん×国谷裕子さん
https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20191102000198.html

MPJ10周年記念 朝日SDGsフォーラム
https://www.asahi.com/ads/start/articles/00069/

(2030 SDGsで変える)目標達成へ、走りだそう 朝日SDGsフォーラムhttps://digital.asahi.com/articles/DA3S14278294.html

今年夏、東京で開かれる五輪・パラリンピックは、世界中から訪れた人々がSDGsへの関心を高める絶好の機会になる。私たちはその時期に合わせたイベント開催などで、国連機関との協力も検討している。報道機関は、気候危機やSDGsに関心を持つ市民、学生、企業や研究者らの大きなコミュニティを作るうえでのステークホルダーになることができる。2030年に迫るSDGsの目標達成に向けて、今後10年に何ができるか、ダボス会議などでの活発な議論を通じてさらなる可能性を探ってみたいと思う。

このトピックに関する最新情報をお見逃しなく

無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。

会員登録(無料)

ライセンスと転載

世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

最新の情報をお届けします:

恩恵をもたらすテクノロジー

シェアする:
World Economic Forum logo

アジェンダ ウィークリー

グローバル・アジェンダとなる、重要な課題のウィークリー・アップデート

今すぐ登録する

2025年世界経済フォーラム年次総会をデジタルで視聴する方法

Beatrice Di Caro

2024年12月22日

年次総会の前後の51週間に、起こっていること

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2024 世界経済フォーラム