気候変動に抗うため地経学について考え直すべき理由
ノルウェーは森林破壊と闘うガボンをサポートしている。これはあらたな地経学の一面なのか? Image: NASA/JPL-Caltech
- 経済発展と気候変動対策を両立させることは不可能。多くの政策決定者が、そのような誤った見方をしています。
- 気候変動の影響を極めて受けやすい新興国は、世界規模の気候変動対策で重要な役割を果たさねばなりませんが、そのためには先進国の支援が必須です。
- 中央アフリカ森林イニシアティブ(CAFI)のようなプロジェクトは、経済的な繁栄や気候変動対策のために、国々がどのように協力できるかを教えています。
豊かな生態系に恵まれたユネスコ世界遺産、シュンドルボンのインド側に位置するモウスニ島では、気候危機により約1,300万人の島民が脅威にさらされ、ベンガルトラが絶滅の危機に瀕しています。群島4,000平方マイルのうち70%が、海面の高さがあと数フィートで地表に達する状態にあります。エリアによっては、1年間で約200ヤードのペースで海岸線が地面を侵食し、気候危機の最前線にさらされた島民たちが退去を余儀なくされています。
気候変動は地上を飲み込んでいます。人間の命を奪い、暮らしの土台を脅かし、インフラを崩壊させて国家経済を揺さぶり、自治体の予算を圧迫しています。あらたに発表されたストックホルム国際平和研究所(SIPRI)レポートによると、気候変動は安全保障のランドスケープを世界規模で様変わりさせ、再定義する必要性を求めており、気候変動が平和と安全保障にもたらす影響は、今後ますます安全保障の議論の中に組み込まれていくだろうと言われています。
生活水準を引き上げ、世界規模の経済的相互依存を高める役割を果たしている産業界の経済的規範もまた、気候変動の脅威に直面しています。例えば、ガーナとコートジボワール。国際ココア機関(ICCO)のデータによると、ガーナは世界のココア生産のおよそ19%、コートジボワールは45%を占めています。2019年7月16日、両国は世界のチョコレート業界の圧力に屈し、1か月間のココア販売禁止を解き、世界のバイヤーたちは、新たな最低価格協定を受け入れざるをえない状況に追いやられました。
西アフリカのココア農園の収益は短期的にわずかに上昇したものの、ガーナとコートジボワールがめざしていた1トンの最低価格2,600ドルにはほど遠い金額でした。とりわけ、壊滅的なレベルの森林伐採と、ココア販売の低マージンによる経済的苦境に陥っていたコートジボワールにとって、これは大きな後退といえます。
世界経済フォーラムの創設者・会長のクラウス・シュワブ教授が先ごろ発表した記事によると、我々は、パリ協定および持続可能な開発目標(SDGs)について、長期的な優先事項の達成に関するパフォーマンスを追跡し、経済政策決定の重要業績評価指標(KPI)としてGDPを見直すために、スコアカードを作成する必要があります。
気候変動に抗う手段として森林を保護し、よみがえらせるためにできることは、ほかにもたくさんあります。経済発展と気候変動対策を両立させることは不可能。そのようにあやまった見方をしている政策決定者があまりに多すぎます。暴力的な衝突とは別のところで、地経学をめぐる競争は広がりつつあります。これは普遍的イデオロギーを国外に広める冷戦や貿易摩擦ではありませんが、冷戦時代とおなじく権力者たちは今もまた、「経済援助は地政学的影響力をもたらすものだ」と見ています。中南米諸国、アフリカ、アジアでは、インフラ、エネルギー、テクノロジーへの投資は、G20関係各国の協力というレベルから、もっと規模の大きな地経学的競争へと転換しつつあるのです。
このような状況に置かれながら、模範を示している国々もあります。2015年、ガボンと近隣5か国は、中央アフリカの森林の価値を認識および保持することを目的として、中央アフリカ森林イニシアティブ(CAFI)を設立しました。この地域の森林総面積は、世界第2位の熱帯雨林に相当し、炭素70ギガトンをストック、6千万人の人々に生きるすべをもたらしています。コンゴ盆地の規模は、アマゾンの三分の一にすぎないかもしれませんが、炭素ストック量はアマゾンの60%に達し、年間の炭素隔離量は相対的に高くなっています。
CAFIは現在、これまでの成功に基づいてさらに前進しようとしています。そのために、もっと意欲的に関わり、既存のイニシアティブとの連携を深めて、あらたなパートナーと寄付者を引き込もうとしています。これに関して、CAFIのサポートにより結ばれた最近のノルウェーおよびガボン間の1.5億ドルの協定は、正しい方向へ進むきわめて大きな一歩となりました。10年間の協定により、ノルウェーは、森林伐採および土地侵食が原因で生じた温室効果ガス排出の1トン削減達成、および自然林による二酸化炭素吸収1トン達成につき、最低10ドルをガボンに対して支払うことになります。ウェールズもまた、ウガンダに樹木1千万本を植林しています。
深刻化する気候危機に開発途上国が対処するため、先進国がさらなる技術的および経済的サポートをするのは至極当然のことです。悪化の一途をたどる気候変動は、いずれ地球規模で政策に影響をもたらし、あらたな脆弱性そして機会を生みだすでしょう。今後、世界規模の気候変動対策で重要な役割を果たすのは、影響力を持ち始めたと同時に気候変動の影響をきわめて受けやすい新興国です。
太平洋地域レジリエンス・プロジェクトは緑の気候基金(GCF)と並び、低カーボンエネルギーシステムから干ばつに強い農業に至るまで、世界中で盛んに行われているイニシアティブの一例で、地球温暖化がもたらす極めて危険な結果を国家が回避しなければならない時に、ある種の経済支援を求めます。GCFは今年、初期に103億ドルを請願されて資金難に陥り、再び財源を満たすため富裕国からの支援を必要としています。その一方で、低所得国に対する新たな約束が各国間で話し合われており、2025年までに決定することが取り決められています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、気温上昇を産業革命以前のレベルの1.5 °C以下に抑えるためには、エネルギーシステムだけで1年間に2.4兆ドルの投資が2035年まで必要となります。これは世界経済の約2.5%に等しい数値です。
気候変動と気候不安が引き金となり、大規模な移民危機と市民暴動の波が押し寄せる。私たちは今、その重要な分岐点に立っています。すでに2019年には、さまざまな社会経済学的問題により、不安定な状態が一層強く揺さぶれる事態が起きました。シリア内戦勃発の背景に長期的な干ばつがあった経緯や、チリ、レバノン、エクアドルで燃料補助金の上に構築された社会契約が基礎的公共サービス供給の失敗とそれに先立つ抗議活動につながった経緯など、過去の潮流から学ぶならば、我々は、社会経済学的な安定を確保するために、グローバル経済の相互依存関係を再構築し、公共インフラと公益事業分野のグリーンおよびクリーン投資を長期的な視点で見る必要があります。ひとつの物語として見る、長期的視点を取り入れる必要があるのです。
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