自覚症状なき経済衰退の兆し、「日本病」の実態
12月5日、直近で公表された日本の経済データは弱い数値が目立つ Image: 2019年 ロイター/Issei Kato
直近で公表された日本の経済データは、弱い数値が目立つ。詳細にみると、経済のエンジンが不調となり、循環的に回復しないリスクが高まっていることがわかる。しかし株式市場はそれに目を向けることなく、年末高値を追っている。衰退リスクに自覚症状のない今の現象を「日本病」と呼びたい。この病気は予想外に進行している。
5日の東京株式市場は、米中通商交渉が進展し、年内に「第1弾」の合意にこぎつけるのではないかとの楽観論が広がり、日経平均.N225は2万3300円台に上昇した。米中協議がいったんの合意にたどり着けば、しばらくは「リスクオン」相場を満喫できるという見方が市場を覆っている。
しかし、日本経済の実態は、市場関係者が見ているのとは違った「病巣」を抱えている可能性が高い。
11月29日に発表された10月鉱工業生産指数速報は前月比マイナス4.2%となり、マイナス幅は市場予想の2倍となった。市場は、台風被害の影響が大きかったと判断したが、果たしてそうか。
生産急減の深層
落ち込みの目立った中に、汎用・業務用機械、生産用機械が含まれていた。これらの仕向け先で高い比率を誇っているのが中国である。米国の関税引き上げで中国国内の製造業が打撃を受け、設備投資を先送りしており、その影響を直接的に受けた格好だ。
10月の工作機械受注をみても、中国向けは、前月比ではプラス8.3%となったものの、前年同月比ではマイナス21.5%。1〜10月累計では、前年同期比マイナス44.9%と半減に近い。
米国が引き上げた対中関税を劇的に撤廃すれば、日本からの輸出も回復するだろう。しかし、仮に一部が撤廃されても、引き上げ前の水準に戻るには相当の時間がかかりそうであり、日本への打撃も長期化は避けられそうもない。
さらに深刻なのは、汎用・業務用機械、生産用機械が輸出品の「主力打者」となっていること。1970年代後半から80年代のように、電気機械の完成品が輸出の主力製品だったころとは様変わりしているのだ。中国の景気変動の影響をより受けやすい輸出品の比重が高まり、「中国経済依存」の度合いが強くなっている。
さらに完成品で稼ぐ分野が減少した結果、輸出自体の勢いも弱まり、生産の水準にも影響している。10月の生産指数は98.9で、2015年の100を下回った水準だ。
この基調が継続すれば、単月での赤字が目立ってきた貿易収支の赤字基調が定着するまで、そう時間はかからないだろう。
市場の中では依然として「貿易立国・日本」と言われているようだが、貿易赤字の定着が市場で周知されれば、マネーフローにも大きな変化が生じ、ドル高/円安の要素が今後、一段と意識されやすくなる状況が訪れると予想する。
増税後の消費落ち込みと支払い賃金減少
一方で、内需の足腰も衰えが見え出している。2日発表の今年7〜9月期法人企業統計では、設備投資や売上高、経常利益のマイナスにばかり注目が集まったが、さらに深刻な「病状」が明らかになった。それは企業が支払っている従業員への賃金・賞与が減少していたことだ。
従業員給与は前年同期比でマイナス1.1%、従業員賞与は同マイナス3.5%となり、合わせたベースでは同マイナス1.5%となった。その前の4〜6月期は同マイナス0.0%、賞与は同マイナス3.0%と、それより前の期に続いていたプラス基調から突然、マイナス基調に転換した。政府が主唱した「働き方改革」が、残業時間の削減となって、結果的に労働コスト圧縮をサポートすることにつながった可能性がある。
対照的に7〜9月期の利益剰余金は、同プラス4.0%の471兆円と過去最高を更新した。企業経営者は、労働コストと設備投資を削減し、利益剰余金を積み上げていたことになる。これは「策なき」様子見経営の典型ではないか。
経常利益が4〜6月期に同マイナス12.0%、7〜9月期にマイナス5.3%と減少基調となっており、この傾向が継続するなら、来年の春闘における経営者側の「賃上げ抑制」の方針は目に見えている。賃上げが望めなければ、ここまで頑張ってきた個人消費の先行きは、かなりぜい弱になると予想する。
実際、10月の消費増税後、消費に関連したデータは軒並み弱い。政府内でも想定より弱いとの声が漏れている。
10月の小売販売額は前年同月比マイナス7.1%と4年半ぶりの大きな落ち込みとなった。政府の対策で反動減は小さいとみられていた自動車販売は、10月が同マイナス24.9%、11月が同マイナス12.7%と振るわない。
流通業界の一部では、前回の消費税引き上げ時の2014年よりも回復テンポが鈍いとの声も出ている。
輸出比率の高い製造業だけでなく、これまで日本経済を支えてきた非製造業の足元までおぼつかなくなると、日本経済の先行きは「暗い影」に覆われるだろう。
政府が13兆円の財政支出を伴う経済対策を打ち出し、短期的なショックは回避できそうだが、中長期的には別だ。国内ではGAFAのような企業が登場せず、5Gに対応した新サービスの提供も米企業の提携なしではできないところまで「陳腐化」が進行している。
にもかかわらず、東京市場の危機感はほとんどない。病気が進行しているのに、それを感知できない市場と抜本的な対応策を提示できない政策当局という現状にこそ、「日本病」というネーミングを提起したい。
この病気は、株価が上がっているために、多くの人々に「苦痛」を感じさせず、経済構造の「エイジング」を進ませる恐ろしさがある。
症状を止めるには、より多くの人々がこの病状に気づき、まずは「声」を上げることだと思う。自己株消却でROE(自己資本利益率)の引き上げばかり考えている経営者に、大きな刺激を与え、ニューウエーブが起きることを期待したい。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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