日本も気候変動のストレステストを、金融機関の命運左右
超低金利環境の長期化と人口減少、AI化の流れで収益環境が悪化している日本の大手銀や地銀にとって、温暖化という力は、対応を誤れば、経営の致命傷にもなりかねない。写真は台風19号で千曲川が氾濫した長野市で捜索活動をする警察。10月14日撮影 Image: ロイター/Kim Kyung-Hoon
政府・日銀は欧州連合(EU)にならって、気候変動に絞ったストレステスト(健全性審査)を金融機関に課し、今から自然災害リスクへの備えを厚くするべきだ。超低金利環境の長期化と人口減少、AI化の流れで収益環境が悪化している大手銀や地銀にとって、温暖化という力は、対応を誤れば、経営の致命傷にもなりかねない。
台風被害、大手損保3社は1兆円の保険金支払いへ
台風28号が今月26日に発生した。22月に入って6個目で、これは1951年の統計開始以来、64年と91年に並んで最多。海水温度の上昇が多数の台風発生につながっているとみられ、地球温暖化が関係しているとの見方が専門家の中では出ている。
近年は巨大な勢力を保ったまま、台風が日本に接近するケースが増加し、被害の深刻化につながっている。9月9日に上陸した台風15号は、千葉市付近に接近した際の中心気圧が960ヘクトパスカル、最大風速は40メートルだった。
台風被害は各地で想定を超える規模となり、大手損害保険グループの3社が支払った台風15号と19号による保険金見込み額は8688億円にのぼった。今年発生した他の自然災害分を含めると、3社だけで1兆円を超すとみられている。経常利益見通しを3社はそろって引き下げた。
自然災害の発生は非線形
だが、「50年に1度」の自然災害が、地球温暖化を反映して毎年のように繰り返された場合、人的な損害にとどまらず、経済的な損害もこれまでの想定を超えて巨大になるリスクが高まっている。
保険監督者国際機構(IAIS)などが2018年7月にまとめた「保険セクターに対する気候変動リスクに関する論点書」には、興味深い視点が数多く盛り込まれていた。
そこでは、損害保険会社のリスクに言及し、将来の気候の影響は「非線形」であると指摘。リスク膨張の可能性を提起している。
また、イングランド銀行が2016年にまとめた自然災害から金融セクター、マクロ経済に至る「伝達マップ」も紹介。そこでは、保険会社だけでなく、銀行にも大きな影響が出るとされた。災害によって個人と企業のバランスシートが弱体化して「不良債権化」するだけでなく、資産の投げ売りによる資産価格の下落が進み、銀行経営を圧迫すると予測した。
実際、今回の災害で中小・零細企業では、事業の継続が危ぶまれるケースが多数みられ、地域金融機関を中心に「問題債権」が増加する傾向にある。地域金融機関は人口減少と産業の衰退、さらに超低金利の長期化で業務純益の先細り傾向に直面している。
そこに大規模な自然災害の被害が数年に1回の間隔で発生すれば、深刻な経営状況に直面しかねないところが相次ぐ可能性がある。
日銀総裁も自然災害リスクに言及
こうした中、日本の政策当局にも自然災害リスクと金融機関経営との関連を注視しようとする動きが出てきた。
日銀の黒田東彦総裁は、28日のパリ・ユーロプラス・ファイナンシャル・フォーラムで、自然災害関連リスクは金融機関の大きな課題になる可能性があるとの見方を示した。具体的には「資産価格の下落や担保価値の毀損につながる可能性」に言及。「しっかりとした調査や分析を行う必要がある」と指摘した。
欧州中銀(ECB)のデギンドス副総裁は今月14日、欧州の銀行に対するストレステストに気候変動リスクの導入を検討していると表明した。
欧州連合の執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス委員(金融安定・金融サービス担当)も今月6日、気候変動リスクを銀行のストレステストに導入する方向性に言及。欧州の金融機関は気候変動リスクに対応した新たなバッファー機能の強化に直面する可能性が浮上している。
そこで、日本でも金融庁と日銀が主体になって、気候変動リスクを織り込んだストレステストの導入に着手するべきだと提案したい。
気候変動リスクが顕在化してきた場合、かつてのバブル崩壊後の不良債権問題のように、被災して発生した損失の累積は、金融システムという血管を通って、金融機関の不良債権として集積される。あたかも摂取した毒素が肝臓に集約されるように、金融システムがむしばまれることになる。
そうした展開を阻止するには、どの程度のバッファーが必要か試算しておくことが必要で、ストレステスト化は避けて通れない。
12月2日からマドリードで国連気候変動枠組み条約の第25回締約国会議(COP25)が開催される。温室効果ガスの増大を回避するため、EUが提案している国際炭素税には、最大の温室効果排出国である中国が強く反対を表明。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からは米国が離脱し、主要国の足並みがそろわない。
温室効果ガスの適切な削減にめどが立たない中で、気候変動リスクにどのように対応するのか、着々と切実感が増している。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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Louise Thomas and Will Hicks
2024年12月16日