世界の難民キャンプに眠る無限の才能:見落とされてきた可能性に光を
とうもろこしの粒を選別する、南スーダンからの難民。ナイロビ(ケニア)の北西、トゥルカナ地区のカクマ難民キャンプの外にある、カロベイエ難民居住区にて(2018年1月31日)。 Image: REUTERS/Thomas Mukoya - RC1C962AD4A0
さまざまな事情で国を後にせざるを得ない人たちの問題は、現代政治の課題です。国を追われた避難民の数は、毎年世界中で新たに増え続け、諸外国からの援助は減り続けています。一方で、多くの人たちが気候変動により将来避難を強いられると予想されており、その兆しは既に表れています。近い将来、移民問題の影響を受ける可能性は、私たち全員にあるのです。
国を追われた避難民は、受け入れ国での就業に必要な書類が足りない、移動の自由が制限されている等、数限りない政治的・実務的障壁により、世界経済に貢献するのを阻まれています。移民が受け入れ国にもたらす影響への懸念は世界中に広がり、彼らの居場所が永久に与えられないといった状況が世界各地で起きています。これは、私たちが移民が持つ得る類いまれなる起業家精神を経済活動に活かせる可能性から目を逸らしており、移民への投資が著しい見返りに繋がることを示す研究をも見過ごしている、ということでもあるのです。
そういった機会を見過ごす余裕が私たちにはあるのでしょうか?人口動態の推移や高齢人口の増加により、G20各国の労働人口は、今後数十年で激減すると予測されています。EUに限っても、労働力は2030年までに9%、2060年までに28%減少するとの予測です。難民キャンプに眠っている素晴らしい才能を活用すれば、こういった労働力不足に解決策を見いだせるのではないでしょうか。既にカナダなどいくつかの国々では、難民の持つ経済的可能性を十分認識しており、労働力不足を難民の人材で補っています。
一般的に政治的な視点からみると、難民キャンプの人たちと世界経済をつなぐには、相当なイノベーションが不可欠。難民の約78%が難民状態の長期化に直面していて、中には40年にわたり難民生活を送っている人たちもいます。テクノロジーの力があれば、そんな状態の人たちが以前は利用できなかったようなサービスも提供可能です。いくつかのスタートアップ企業では、そもそも銀行口座を持っていないことも多い避難民たちに、フィンテックを利用して預金や貸し付けのサービスを行っています。電子商取引やインターネットを利用することで、難民の人材と世界経済の需要を結びつける経済的な機会を、より広げることができるでしょう。
2018年、ヤング・グローバル・リーダー・フォーラムは、ダイナミックで聡明かつ影響力の大きいメンバーからなる代表団を、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の協力の下、ケニア北西部のカクマ難民キャンプに派遣。人道支援が必要な状況が長期化する中、新たなアプローチを探るべく、リーダーたちのエネルギーやネットワーク、組織力、知性といったリソースを活かす方法を検討するのがミッション。18.7万人弱の人口を擁するカクマ難民キャンプは、著しい制約を抱えているにも関わらず、その経済規模はGDPでいうと5600万ドル近くに上り、ケニアのトゥルカナ地区の経済を牽引しています。難民の起業家精神と才覚を示す、素晴らしい一例と言えるでしょう。
ヤング・グローバル・リーダーが出会った女性たちの内の一人、ジョエル・ハンギ氏は、カクマ難民キャンプ作家協会の一員で、世界経済フォーラムのマライア・レビンと共に、本記事の共同執筆者を務めています。
本記事で私たちがお伝えしたいのは、難民の才能発揮を阻む障壁を乗り越えていくことでもたらされる恩恵についてです。ハンギ氏は、難民キャンプに最初にたどり着いた時、奨学金を受け高等教育を続ける幸運に恵まれたわずかな人たちの内には入っていませんでした。しかし、彼女の歩みが止まることはなく、英語、映像技術、写真撮影、ジャーナリズム等のコースを受講。国際救済委員会では、ボランティアの人事アシスタントとして2年間働きました。
2015年、彼女は慈善事業であるイエズス会ワールドワイド・ラーニングの支援を得て、米国コロラド州デンバーにある、イエズス会系の私立大学、レジス大学の一般教養課程の通信教育コースに入学。2018年に卒業後、現在はサザンニューハンプシャー大学のビジネス・コミュニケーションの学士号を取得すべく、勉学に励んでいます。
難民キャンプでは、いくつかの学位プログラムが提供されていて、その内多くが起業を奨励したり、難民の知性を刺激したりする内容です。しかし、どうすれば自らの才能を活かせるかという点に関して、難民には大きな制約があるのが現状です。
これまでの成功にも関わらず、ハンギ氏は、難民キャンプ全体を覆う、教育やキャリア上の大志を抑えつける見えない天井に突き当たったように感じています。彼女には、世界経済に貢献できるだけの可能性とスキルがあるのに、その機会が与えられていないのです。自分や家族、コミュニティのために生活費を稼いで生計を立てる能力と意欲があるのに、人道支援に頼らざるを得ない状況を強いられています。
昨年築いた関係を基に、ヤング・グローバル・リーダーは、組織で培った経験を、難民キャンプや、受け入れ地であるトゥルカナの住人と分かち合うべく、今月カクマの地に再び降り立ちます。リーダーたちの組織力や個々の才覚を活かし、iamtheCODEの技術支援を受け、UNHCR、アリコ・ダンゴート財団、オックスフォード大学難民研究センターの協力の下、今回開催されるのは、起業とメンタリングに関する3ヶ月にわたるコース。避難民が世界経済の一員として活躍できるよう、非常に高い障壁を乗り越える道筋を開拓し、有意義な交流を行うのが目的です。
今回のコースはメンターシップの研究を元にしており、難民の置かれた状況に合わせて新たに作り出された起業トレーニングです。メンタリングの重要性は、起業家の間ではよく知られており、研究によると、出世した起業家をメンターに持つ創業者の33%は概してその後大きな成功を収めていて、会社を大きく育て上げた経験豊かな起業家のメンタリングを受けた企業は、そうでない企業に比べて、優れた業績を挙げる確率が約2倍になるとのこと。小規模なマイクロビジネスに関する多数の起業支援プログラムから得た知見に基づき、今回のトレーニングでは、より大きな枠組みでの経済的な動向にも対応していける可能性があり、拡張性が高くテクノロジーの進化に対応できる取り組みに特化しています。スキルを探し求めている難民に向けて、ヤング・グローバル・リーダーのスキルを分かち合う良い機会となるでしょう。
難民の才能と世界経済を結びつけるのは、特に政治的に緊張状態にある中では、簡単な取り組みではありません。
難民が直面する最も大きな障害は、機会の欠如です。人道的な支援は、難民には世界をより良くできる、普遍的な可能性があることを認めているとは言えません。どこでビジネスの提案をしたり、求人に応募したり、ポートフォリオを提出したりしたらいいのか、わからないまま勉強しているのが難民の現状です。
ヤング・グローバル・リーダー・フォーラムの取り組みは、特効薬ではありません。しかし、難民キャンプの内外にいる優れたリーダーたちが真摯に意見を交わしあうのを手助けすることで、素晴らしいアイデアとアプローチが新たに生まれると確信しています。
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