自然と生物多様性

ストロー廃止やレジ袋有料化。その前に、政府と私たちが今やるべきこと

形式だけではなく、変化をもたらす行動を起こさなければなりません。

形式だけではなく、変化をもたらす行動を起こさなければなりません。

Akira Sakano
Chair of the Board of Directors, Zero Waste Academy

プラスチックのストローをやめることが日本国内でもトレンドになりつつあります。スーパーマーケットの棚には紙ストローが並び、一部のカフェでも紙ストローを使用する店舗が出てきました。さらに、一部のカフェやコンビニでは、ストローを使わないリッド(ふた)への切り替えも行われています。しかし少し落ち着いて見返してみると・・紙ストローがささっているのはプラスチックのカップ、ストローを使わないためのリッドもプラスチックです。この動きは、果たして「使い捨てプラスチックからの脱却」というそもそも目指すべき方向性の実現に貢献していると言えるのでしょうか。

日本では、プラスチックごみ削減の政策方針とその実際に乖離がみられることも少なくありません。日本政府は、2019年6月のG20に向け、同年5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。その基本理念は明確で、3R(リデュース、リユース、リサイクル)+「Renewable(バイオプラスチックの推進とリサイクルプラスチック市場の拡大を含む、「再生資源への代替」)」の原則に従うという方針です。しかしコンセプトが明確でも、その具体的な実現施策は不明瞭です。例えば使い捨てプラスチックを2030年までに25%削減するという目標が掲げられていますが、この25%が何に基準を置いた数値なのか、そしてどのように具体的な削減を行うのかといったロードマップは示されていません。

日本政府は、G20エネルギー・環境関係閣僚会合の初日に、使い捨てプラスチック製レジ袋の有料義務化を翌年4月より実施するという意欲的な方針を明らかにしました。これまでと比べ日本政府としては非常に進歩的な方針であることは評価できますが、この「使い捨てプラスチック削減」という大きな目標に対して非常に意欲的に取り組んでいる他国の政策と比べると、まだまだ後進的と言わざるを得ません。先進的な具体例としては、例えばケニアではプラスチック製の袋の製造と使用が違法とされていますし、イギリスでは2042年までに回避でき得るプラスチックごみを全て無くすための具体的な計画が組まれています。

日本の政策が先進的だと言えない理由はいくつかあります。まず、この政策がプラスチック製レジ袋の生産や使用の総量を直接コントロールし、削減しようとするものではないということ。さらに、プラスチック製レジ袋は使い捨てプラスチック製品全体のシンボル的な存在ではありますが、日本においては破棄されるプラスチック製品のたった2%を占めるにすぎず、大きくプラスチックごみ削減に寄与するわけではないのです。

日本での環境政策策定において、政策立案者が産業界の意向に強く影響を受ける、配慮しする、などといったことは多分にあります。このプラスチックに関する政策でも、産業界の具体的な責任や既存のプラスチック製品製造量の削減への具体的なロードマップが示されていません。こうした政策姿勢は日本の既存の事業者・産業界を守るものとして正当化されることも多いのですが、世界経済を取り巻く状況が急速に変化しつつある中、果たしてそれは本当に日本の産業界を守る方法として正しいのでしょうか?

循環型経済(サーキュラーエコノミー)を重んじる政策方針への転換により、多くのヨーロッパ諸国で製造時に一定量のリサイクル素材を使用することや、特定の使い捨てプラスチック製品の禁止を定める政策がすでに導入された、あるいは導入検討段階に進んでいる中、このような製品製造に関する規制や方針に対応する準備ができていなければ、日本企業がヨーロッパ地域でビジネスを伸ばしていくことはできません。そして多くの場合、ヨーロッパの政策立案者たちはそれをヨーロッパ内だけに留めることなくグローバルスタンダードにしようとしています。これまでの事業の殻を破ることができなければ、日本の産業界は確実にグローバルマーケットにおいて市場を失うことになるでしょう。日本政府は、産業界が投資の方向性を転換し、現状を打破して今後の世界的な流れに取り残されないように、政策を通じてサポートしていくべきです。

もし日本政府が「プラスチック・スマート」政策(日本で既に行われているプラスチック削減への取り組みの実践事例をグローバルに紹介するキャンペーン)でグローバル社会をリードしたいと考えるのなら、国内の政策立案と制度設計にもより注力するべきです。意識ある産業界のリーダーはすでにグローバルマーケットが目指そうとしている方向性やトレンドを把握しており、その多くがその方向性に乗り遅れまいと、次の必要なステップへ進みたいと考えています。そうしたニーズに対し、政府は規制だけではなく、使い捨てプラスチックの総量を削減するために有効なソリューションを生み出す事業へのインセンティブや助成金などを組み合わせたポリシーミックスを導入することで、産業界がアクションを起こすための良き理由と後押しを提供することができます。その際に留意すべきなのは、よく注目されるバイオプラスチックなどの代替素材の開発だけでなく、こうした素材や代替品を市場で適正な価格で流通させるための支援も必要だということです。

それでは、市場ではどのような変化が起こるべきなのでしょうか?

既に店舗で代替品の提供や、これまで無料で配布してきた使い捨てプラスチック製品の廃止を独自に発表した意識の高い事業者も存在します。そして私たち、ゼロ・ウェイストアカデミーは、そのような廃棄物削減または「ゼロ・ウェイスト」の方向へ舵を切る事業をサポートする仕組みを運営しています。これは「ゼロ・ウェイスト認証制度」という仕組みで、使い捨て製品の提供中止や代替品の模索に取り組むだけではなく、サプライヤーやお客様ともコミュニケーションを取って協力者を増やし、廃棄物を削減しようとしている事業者(特に店舗)へのサポートを提供する制度です。事業者は、サステナビリティに取り組むビジネスであるという認証を受けブランディングできることや、それを実現していくための明確なアプローチ方法(スタッフへのトレーニングなども行っています)の提供を受けられます。また、こうした認証店を増やすことで政策立案者や生産者や社会に対し、サステナビリティを実現する製品やサプライチェーンモデルに対する一定の需要があるという声をより大きく届けることもこの制度の大きな目的です。

また、NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーは、ゼロ・ウェイスト政策を実現するために地域コミュニティの中で長年活動してきました。そして、コミュニティの努力によって80%以上の廃棄物を資源化できることを証明しました。しかし同時に、残りの約20%については、生産段階における製品設計や素材の革新、あるいはそれをサポートするような政策実現による「体系的な仕組みの変革(“Systemic Change”)」が起こらなければ達成できないということも明確になったのです。

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このようなシステミックな変革を日本で起こすには、私たちはマルチステークホルダーによるパートナーシップ構築が鍵となると強く信じています。そのためには、地域コミュニティや、NGO/NPO、事業者および政策立案者がそれぞれのステークホルダーの立場でお互いに何ができるのかを理解し、それぞれが他者から学ぶための一歩を踏み出し、サーキュラーエコノミーなどの社会的・経済的モデルを作るためのインフラを確立する必要があります。

G20がプラスチックごみの削減に向けた建設的かつ効果的なロードマップを示して閉会されることを期待しつつ、一方で、政府が方針を打ち出して私たちを導いてくれるまで待っていては時間がかかりすぎてしまいます。私たち一人ひとりが持続可能な未来をつくっていくことに対して、早急に自分事として取り組む必要があります。例えば私たちが始めたマルチステークホルダーによる取り組みが、様々な主体を対話のためのテーブルにつかせ、より良い政策をつくるための基礎を生み出すかもしれないのですから。

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