電気自動車の秘め事
環境に優しい車。しかし、その生産にどれほどの犠牲が払われているのでしょうか? Image: REUTERS/Mark Blinch
路上を走行する電気自動車の数は、世界で急増しています。最新のデータによると、電気自動車の数は300万台を超えており、年75%近いペースで販売が増加。ところがここにきて、電気自動車の購入に対する倫理的な疑念が生じています。
電気自動車の動力源となるバッテリーの製造には、コバルトなどの鉱物が使用されています。これら鉱物の採掘に際し児童労働などの人権侵害が行われている事態は、電気自動車に対する倫理的な主張を揺るがすものだ―アムネスティ・インターナショナルが、こう指摘したのです。
アムネスティのクミ・ナイドゥ事務総長は、このほどオスロで開催されたノルデックEVサミットにおいて、気候変動への取り組みが人権を犠牲にして行われてはならないと述べました。「抜本的な改革がなされなければ、環境に優しい車の動力源であるバッテリーが、人権侵害によって汚染され続けることになります」と、ナイドゥ氏はコメントしています。
児童労働
アムネスティは、その刊行レポートにおいて、コンゴ民主共和国のコバルト鉱山で働く児童および成人労働者が、深刻な健康リスクに晒されていることを指摘。世界で使用されるコバルトの半分以上がコンゴ共和国南部で産出され、その多くは手作業が主体の鉱山で採掘されています。こうした鉱山は、同国の算出量の20%を担っています。
調査員は、簡素な道具を使った手作業の採掘が行われている深部鉱山など、9つの現場を訪問。手作業に従事する鉱員には、わずか7歳の若年労働者がいることが確認されました。最年少者の場合、1日当たりわずか1ドルの賃金しか得られません。鉱員たちは、コバルト粉塵との接触に起因する慢性的な肺疾患の症状を訴えました。
こうした鉱山で採掘されたコバルトは、主要な製造業者に販売されます。ところが、法律によりサプライチェーンに関する報告を製造業者に義務付けている国は、ありません。こうした状況から、電気自動車のバッテリーが「児童労働やその他の人権侵害で汚染される」可能性は許容しがたいほどに高まっていると、アムネスティは指摘しています。
現在、世界で毎年採掘されるコバルト12万5,000トンのうち、バッテリー製造に使用されるものが60%を占めています。
ロンドン金属取引所は昨年、人権問題のあるコバルトの販売を禁止する措置をとりました。また、アムネスティを含むNGO14団体の連合組織は、単に取引が秘密裏に行われるようになるだけだとして、これに反対を表明、鉱物供給源に対するトレーサビリティの拡大を訴えました。
世界経済フォーラムのグローバル・バッテリー・アライアンスでは、主な問題として次の2点を指摘しています。世界経済フォーラムのグローバル・バッテリー・アライアンスでは、主な問題として次の2点を指摘しています。
「第1に、バッテリーに必要な原材料の採掘が、人的にも環境的にも大きな犠牲を払って行われていることです。例えば、児童労働や、非公式労働における健康・安全上の危険、貧困、汚染などが挙げられます。第2に、リサイクルの問題があります。廃棄される使用済みリチウムイオンバッテリーの量は、2030年までに1,100万トンに上ると予想されています。バッテリーを循環経済において再利用、リサイクルできるシステムがほとんど実施されていないなかで、懸念すべき事態といえます」
OECDの責任ある鉱物サプライチェーン・フォーラムがパリで開催した会合では、参加国が企業にコバルト供給源の確認を要求。アップル、BMW、ダイムラー、ルノー、およびバッテリーメーカーのサムスンSDI の各企業は既に、自社のサプライチェーンのデータを公表することに同意しました。
アムネスティによると、リチウムイオンバッテリーの製造は、大部分が中国、韓国、日本で行われており、これらの国では依然、発電を石炭やその他の化石燃料に頼っています。アムネスティは、メーカーが自社製品のカーボンフットプリントを開示すべきだと主張しました。
業界は活況
電気自動車の所有台数は急速に増加しています。国際エネルギー機関は、世界全体の使用台数が2030年までに1億2,500万台に到達すると予測。政府が法律面の改革ペースを加速すれば、電気自動車の使用台数は倍増する可能性もあります。
昨年の電気自動車の新車販売台数は、全世界で210万台でした。中国は世界最大の電気自動車市場で、2018年には120万台の電気自動車を販売。これは世界全体の56%に相当します。また、電気を動力とするトラック、バス、オートバイ、スクーターの販売台数では、中国は99%を占めています。
電気自動車の新車販売で2018年に世界第2位の米国は、販売数36万1,000台と、中国と大きな隔たりがあります。そのほぼ半数は、テスラの新しいモデル3でした。電気自動車の市場シェアという点ではノルウェーがリードしており、新車販売台数の49%は電気自動車またはハイブリッド車でした。
環境に優しい車を要求する圧力は強まっています。欧州では化石燃料車の新車販売を禁止する動きが出ており、ドイツでは、ガソリン車およびディーゼル車の新車販売を2030年から全面的に禁止する見通し。スコットランドでは2032年から、フランスと英国は2040年からの禁止が予定されています。
前途には長い道のり
とはいえ、有害な排気ガスをまったく出さない車両走行という目標は、なお実現にはほど遠い状況です。世界全体でみれば、電気自動車の新車販売台数はわずか2.4%にとどまっています。電気自動車の販売シェアの高さが際立つノルウェーでも、オスロを走行する車両のうち、電気自動車は8台に1台を占めるに過ぎません。
その他の欧州諸国では、電気自動車の販売は遥かに少ないのが現状です。イタリアでは、昨年の新車販売数のうち電気自動車が占める割合はたったの0.26%。購入者の間ではなお、ガソリン車よりもディーゼル車が好まれます。自動車の主要生産国スペインでさえ、電気自動車が新車販売に占める比率は0.5%と、極めて低い水準にあります。
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