レジリエンス、平和、安全保障

2019年、人道危機に対応するために必要な8つの取り組み

イエメンのような人道危機が多発する地域に、注力する事が必須です。

イエメンのような人道危機が多発する地域に、注力する事が必須です。 Image: 画像:ロイター/Abduljabbar Zeyad

Peter Maurer
Co-Chair, Humanitarian and Resilience Investing Initiative

今月、マリのティンブクトゥで、ある家族に出会いました。その家族は不作に見舞われ食糧がなく、子どもたちを即席爆発装置(IED)で亡くしていました。助けになることはできませんでしたが、こうした人々の苦しみに深く心を動かされました。あまりにも多くの人々が危険と隣り合わせで生きているのです。

西アフリカから直接、スウェーデンのダボスにきました。世界経済フォーラムの年次総会に参加されているリーダーたちにサヘルで苦しんでいる人々の現実を伝えました。現在、世界中で1億2000万人が紛争から生き残るためだけに支援を必要としています。イエメン、シリア、南スーダンがそうした人々が暮らす地域です。

サヘルでは新たな境界ができつつあります。気候変動が紛争貧困、開発が進んでいないがゆえに生じている被害を増大させています。資源が枯渇している地域では、人々は生き残るため綱渡りのような生活をしています。気温上昇が世界平均の2倍にもなる場所で、何も対策を取らなければ、人々が生きていくために必要なものが不足するようになり、脆弱性が高まります。

紛争などによって生活が脅かされ、支援を必要としている人は、世界中で1億2000万人に上ります。

こうした大規模で、複雑に絡み合った背景を持つ危害に対応したり、防止するための近道はありません。緊急人道救済は常に求められていますが、必要な場所が多すぎて、十分に行き届いていないのが現状です。昨年は人道支援の分かれ道でした。長期的な政治的合意が見えない場面があまりにも多く、また長期にわたって大規模な支援をしていこうといった、基本的な人道的行動の見直しについては否定的でした。今年は、8つの取り組みが必要であると考えます。

1.危険地域へのフォーカス

世界中で避難を強いられたり、人道的な支援が必要になったりしたケースの80%は20の最も深刻な暴力的な危機が起因していました。

暴力の連鎖を断ち切り、より安定した状況を構築していこうとする確固とした政治的な行動が膠着状況を変えました。

シリア、イラク、イエメン、アフリカ北東地域、チャド湖周辺地域、サヘル、アフガニスタン、ミャンマーとバングラディシュにまたがる地域は、2019年も危機的な状況が続くでしょう。

2.洞察、スキル、リソースの蓄積

1つのセクターだけで人道的な危機に対応することはできません。国や国際機関、大規模な市民社会からの強力な支援なくして進展はありません。

広域で、他の地域から離れた人道的な場所が生活を立て直し、和解を促す最適な場所です。人道支援に関わる機関は前線で対応することができます。また不安定な地域社会や安全保障の課題、多様なニーズに対応する他の機関の先導役にもなれるのです。

地域団体と国際機関は補完し合うことができます。学術界は批判的な考え方や測定方法を提案することができるでしょう。一方、民間セクターは、事業を発展させ、生産量や技術力を向上させていく過程で経済を活性化させ、コミュニティを後押しすることができます。

赤十字社赤新月社運動は国際的な取り組みと地域での取り組みを結び、活動の効果高める他にはない活動で190カ国以上に広がっています。国際連盟もより強い影響力をもたらすため、国家を統合させる力を持っています。

世界銀行とグーグル、アマゾン、世界食糧計画、国際赤十字社が発展させた飢饉行動メカニズムは命の危険を伴う問題の解決に向けて、ゲームチェンジの考え方や新たな方向性や知見を集める取り組みです。

3.持続可能な取り組みへの新な投資

これまであった人道的なファイナンスモデルは人道的な緊急事態が生じたときのファンドレイジングでしたが、危機が長期化する傾向の中、ニーズに対応しきれていません。より対象を絞り人や技術、コミュニティへの歳入に持続的に投資していくことができるように支援の在り方を変わらなければならないのです。

ヒューマニタリアン・インパクト・ボンドのように、規模を広げられるような革新的なファイナンス方法でリスクを分け合う方向に進めるべきか、2019年に問われることになります。

4.依存ではなく自助の促進

戦争の被害を受けたコミュニティは危機に対応する力をもっています。支援を受けないように促していくのではなく、緊急事態下から抜け出して通常の経済活動ができるよう助けていかなければなりません。

マイクロクレジットが経済活動として認められていく中で、資金援助から物理的な支援に変わっていきました。ある程度の緊急支援は依然として必要とされていますが、より複雑かつ耐久性があり、拡張できる解決策が求められています。

5.新たな人道支援の形

世界の結びつきが強まる中、人道支援の担い手たちはより緊密に活動し、被支援者に対して責任を持たなければなりません。被支援者たち自ら立ち上がろうとする動きを支援し、いかに国際的な支援活動が地域の取り組みをサポートすることができるか考える必要があります。型にはまった解決策から、より個々の状況に合わせた支援へと変化していくことが求められています。

6.害を出さずにデジタル技術を生かす

デジタルツールはすでに支援の方法を変え、被支援者との関わり方に変化をもたらしました。今後もその流れは変わらないでしょう。2019年の課題は、情報の人道的な活用からサイバー攻撃に関する国際人道法の適用まで多岐にわたります。デジタル変革は分析力や供給システムを向上させる機会になりますが、挑戦でもあります。紛争地域では特に新たなデジタルアイデンティティ認証やデータ保護が必要になります。

7.目に見えないトラウマへの取り組み

目に見えない苦痛も増しています。メンタルヘルスの問題や性暴力が原因となって苦しめられているケースなどが顕著な例です。代表的な人道的危機において、10~15%の人が軽度の心の病に悩まされ、4%は重度な精神疾患に発展します。メンタルヘルスは人道的な緊急事態において優先的に取り組む課題です。身体的な健康への深刻な影響もあるからです。戦争や紛争下において、人々の精神的なケアを行うことは、傷の手当や清潔な水の供給と同じくらい命を救うことにつながります。

8.例外なき法の順守

ジュネーブ条約は、2019年に締結から70年を迎えます。安定と長期的な平和の構築に向けた条項によって、数十年に渡って数百万人の命を救い一般市民に対する紛争の影響を最小化してきたことは疑いに疑いの余地はありません。

しかし、今の時代に合わせた解釈と実施が必要になります。2019年、私たちは再度、法に基づく軍事力の使用や拘束されている人々の取り扱い、一般市民の保護について、再考していきたいと思います。武力紛争や対テロ戦争、非対称戦争やコミュニティ同士の争いなどの危機的状況にあっても基本原則は優先事項なのです。

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