世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年12月4日、スイス、ジュネーブ - 世界経済フォーラムの最新のレポートによると、テクノロジー業界が事業活動とサプライチェーンの中心に自然を据えることで、2030年までにバリューチェーン全体で8,000億ドル相当の価値を創出できる可能性があります。これは、企業がネイチャーポジティブな解決策を広く採用することで実現可能な、10.1兆ドル規模のビジネスチャンスの一部に相当します。
予測される8,000億ドルのうち、半分以上はエネルギー・採掘分野の上流工程から生まれる見込みです。これには、再生可能エネルギーの拡大、資源回収効率の向上、電子機器や家電製品の循環型製造プロセスの推進などが含まれます。この分析は、オリバー・ワイマンの協力を得て作成されたレポート『Nature Positive: Role of the Technology Sector(ネイチャーポジティブ:テクノロジー業界の役割)』に基づくものです。
さらに新たな調査では、インフラ整備と建築環境分野からも3分の1程度の価値創出が見込まれており、これにはエネルギー効率の高い建築物、スマートメーターシステム、排水再利用、持続可能な建築手法などが含まれます。残りの部分は、自然再生活動や持続可能な土地利用、デジタルイノベーションによって可能となる、分野横断的なエネルギー効率化の機会から生まれる可能性があります。
テクノロジー業界の成長は今後も堅調に推移すると見込まれ、その原動力となるのはAI、クラウドコンピューティング、高性能電子機器への需要、そして量子コンピューティングなどの最先端のイノベーションです。ただし、同分野の成長に伴い、水資源の大量消費、汚染物質の排出、廃棄物の発生、温室効果ガスの排出、土地利用の圧力など、環境への大きな負荷が生じることが懸念されます。
現在、年間1兆個以上の半導体チップが販売されており、これらはスマートフォンや自動車、テレビをはじめとする日常的な電子機器の動力源となっています。その舞台裏では、11,000カ所以上のデータセンターが稼働。2030年までに年間19~22%の割合で需要が増加すると見込まれます。そうしたソリューションに使用される半導体の製造だけで、年間1兆リットル以上の水を消費しており、金属資源や重要鉱物の採掘に依存。世界のデータセンターは60ギガワット以上の電力を消費しており、これは米国カリフォルニア州全体のピーク電力需要を上回っています。さらに、ハードウェア生産は毎年600億キログラム以上の電子廃棄物を生み出しており、現在リサイクルされているのはその4分の1未満に過ぎません。
天然資源の制約は運用効率を低下させ、企業の事業継続性を脅かす要因となっています。こうした課題は、循環型資源回収の実践や、鉱業・鉱物サプライチェーン全体でのパートナーシップを促進することで、解決可能です。
「自然への投資を行い、ネットゼロ、ネイチャーポジティブ、レジリエンスを意識したビジネスモデルへ移行する企業は、リスク管理能力を高め、競争優位性を獲得できるでしょう」と、世界経済フォーラムの気候、自然経済部門長であるピム・ヴァルドレは述べています。
テクノロジー産業の急速な成長に伴い、特にデータセンターなどのインフラ開発が急増。これに対して地域社会や規制当局からの監視の目が厳しくなっています。こうした取り組みの利点としては、地域社会や規制当局からの支援強化による成長促進、環境変動に対するレジリエンスの向上、さらには顧客、従業員、投資家が求める方向性との整合性向上、新たな成長機会やコスト削減の可能性などが挙げられます。
本レポートでは、水資源、汚染・廃棄物、土地利用、温室効果ガス排出、電力供給、サプライチェーン、政策関与という7つの分野で具体的な施策を実施することにより、テクノロジー企業が自然への影響と依存関係をより適切に管理できるようになることが明らかになりました。自然喪失に伴うリスクを事前に計画することで、企業は業務の混乱を最小限に抑え、異常気象や政策・市場の転換、より広範なシステム的問題による影響を軽減できます。また、清浄な水などの不可欠な生態系サービスへの依存リスクを低減すると同時に、ネイチャーポジティブな機会を他社に先駆けて活用することが可能になります。
具体例として、現在テクノロジー産業は世界のエネルギー消費量の約4%を占めています。再生可能エネルギーの拡大、エネルギーと水の利用効率向上、循環型製造モデルやリサイクルシステムの推進により、この業界は自然への影響をさらに低減することが可能です。また、データセンターにおける液冷システムなどの革新的な技術を導入すれば、温室効果ガス排出量を最大21%削減可能であり、循環型素材回収の取り組みでは、新規採掘と比較して最大95%の排出削減を達成しています。
オリバー・ワイマンのニック・スチューダー社長兼CEOが指摘するように、「テクノロジー産業は経済成長とネイチャーポジティブな転換の両方を主導する可能性を秘めています。しかし、もはや一刻の猶予もありません」。
「ネイチャーポジティブ転換」レポートシリーズについて
セクター別のネイチャーポジティブな転換を取り上げる本シリーズでは、2030年までに自然喪失を停止および逆転させるための変革的な道筋について考察しています。特に重要なセクターに焦点を当て、これらの産業が自然に与える二面的な影響と依存関係を明らかにすると同時に、企業が負の影響を回避、軽減し、自然関連リスクを低減、レジリエンスを構築し、バリューチェーン全体で機会を創出するために取るべき優先的な行動を提示しています。
各レポートでは、汚染、土地利用変化、資源利用など、セクターごとに異なる自然への物質的影響を明らかにし、企業がグローバルな生物多様性および気候目標と整合した事業活動を行うための実践的な提言を行っています。
世界経済フォーラム年次総会2026について
第56回世界経済フォーラム年次総会は、2026年1月19日から23日までスイスのダボス・クロスタースにて開催。「対話の力(A Spirit of Dialogue)」をテーマに、各国政府、企業、国際機関、市民社会、アカデミアのリーダーたちが一堂に会します。詳細はこちら。