世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年11月14日、スイス、ジュネーブ - 世界経済フォーラムの報告書によると、グリーン移行は2030年までに世界で1,440万人の雇用に影響を与えます。240万人の雇用が段階的に減少する一方で、新たに960万人の雇用が創出され、全体としては960万人の純増となる見込みです。
80%以上の国で、ビジネスリーダーたちは経済全体の活性化を期待していますが、地政学的な分断、経済的不確実性、社会的分断が深刻化する中で、従来の気候変動緩和策は新たな課題に直面しています。これらの要因は、労働者、消費者、企業に対する影響の不均衡な分布リスクを高め、国内外の経済主体に様々な影響を及ぼしています。
報告書「Making the Green Transition Work for People and for the Economy(人々と経済の双方に利益をもたらすグリーン移行を目指して)」は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの協力とラウデス財団の支援を受けて作成。国レベルの新たなデータと指針を提供し、企業が社会経済的要因を自社の移行戦略および持続可能性戦略に統合するための実践的な提言を行っています。同報告書は、ブラジルのベレンで開催中の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)に合わせて発表されました。同会議では、グリーン移行が社会と経済に及ぼす影響、そして人的発展の重要性について、これまで以上に重点的な議論が行われています。
世界経済フォーラムの経済成長、トランスフォメーション部門長のアッティリオ・ディ・バッティスタは、次のように述べています。「効果的な気候変動対策を実現するためには、各国、各地域の社会経済的特性を十分に理解することが不可欠です。新たなデータと実践的な指針を活用することにより、気候変動対策戦略を適応させ、人々と経済の双方に利益をもたらす形でのグリーン移行を実現することが可能になります」
企業はグリーン移行における競争力の維持に苦慮しており、消費者に向けた負の影響についても懸念を表明しています。世界的に見ると、37%の企業(低所得国では47%)がエネルギーおよび原材料コストの上昇を報告しており、そのうち51%は、これらのコスト増加の一部が消費者に転嫁されることで、主要商品やサービスの価格が上昇し、消費者にとって手に届きにくいものとなることを懸念しています。
「急速に変化する社会的、地政学的環境において、グリーン移行の成功を目指す企業は、自社の気候対策計画が人々に与える影響を明示的に検討する必要があります」と、世界経済フォーラムのエクイタブル・トランジション部門長、ハーシュ・ビジェイ・シンは述べています。
グリーン移行に向けた資金調達は、国内、国外ともに依然として不均一な状態が続く見込みです。調査によると、全体の32%の企業、特に低所得国では49%の企業が、競争力維持の障壁として投資能力の限界と資金調達へのアクセス不足を挙げています。グローバルに見ると、調査対象企業の経営幹部の80%が、自国の少なくとも一つの産業において、企業間でのグリーン金融へのアクセス格差を重大なリスク要因として認識。この懸念は所得水準を問わず、一貫して見られる傾向です。
グリーン移行は、新たな技術格差を生み出すリスクをはらんでいます。多くの政府がエネルギー分野やグリーン産業における産業政策を強化していますが、技術や生産能力へのアクセスは国ごとに異なり、均等化しない可能性があります。中低所得国の企業は、グリーン技術へのアクセス、持続可能な製品のサプライチェーン、グリーン関連スキルの習得において、より深刻な課題に直面。低所得国では、5社に1社以上がグリーン技術の利用が困難な状況です。一方、高中所得国および高所得国の企業の約40%が、規制における不確実性の増大とコンプライアンス負担の増加に直面しています。
さらに、世界の企業の3分の1が、自国の主要産業の少なくとも一つにおいて雇用喪失を懸念。グリーン移行によって利益が見込まれる国であっても、労働市場に重大な混乱が生じることが予想されます。また、社会的保護制度の充実度やその他の長期的、社会経済的な基盤が強固であるほど、労働者や消費者への影響に関する懸念レベルが低くなる傾向が確認されました。
国別ハイライト
人々と経済にとって持続可能なグリーン移行を可能にする、構造的な社会経済的条件は、所得水準によらず異なります。したがって、先進国と開発途上国という従来の区分を超えた新たな視点が求められます。同報告書では、類似したリスクと機会を持つ6つの典型的な国の類型について分析。G20加盟国および世界人口上位10カ国に関する主要な知見も含まれています。
同報告書は、企業が社会経済的リスクと機会を特定、対処するための指針を提供しており、意思決定者がこれらの要素を気候変動戦略に統合する際に、考慮すべき重要なポイントと指針となる問いを提示しています。ただし、企業の気候変動対策計画の策定に向けた、包括的なガイドとして作成されたものではありません。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナー兼サステナビリティ部門共同リーダー、ヘマント・アーラワット氏は、「気候変動対策が世界的に進展する中、リーダーたちは社会経済システムの移行が人々や地域社会に与える影響を正確に把握する必要があります。当社の『Climate Transition Impact Framework(気候トランジション・インパクトフレームワーク)』からの洞察を基盤とした本報告書は、あらゆる業界の企業が戦略策定において社会的、経済的側面を考慮できるよう支援することを目的としています。これにより、持続可能かつ包摂的な成長を実現することが可能になります」と述べています。
同報告書は、世界経済フォーラムの「エクイタブル・トランジション・イニシアチブ」がこれまで開発してきた既存のツールや枠組みを基盤として作成されました。その調査結果は、アクセラレーターズ・ネットワークを通じて各国レベルで実施される具体的な施策に反映されると同時に、企業がグリーン移行戦略を社会と経済の双方に真に貢献する形で策定、実施するための支援ツールとして活用される予定です。

