世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年10月15日、アラブ首長国連邦、ドバイ – 世界経済フォーラムの新たな報告書によると、10の革新的な技術的ソリューションが家庭用電力供給、食料生産、淡水確保の方法をグローバルに変革する可能性があります。これらの重要なテクノロジーの多くはすでに存在していますが、十分に活用されていません。気候変動という喫緊の課題に対する、実用的かつスケーラブルな解決策としての可能性を引き出すためには、政治的意思、資金的・物質的投資と同時に、人々の意識向上が不可欠です。
学術出版社、フロンティアーズの協力を得て作成された報告書『10 Emerging Technology Solutions for Planetary Health(プラネタリーヘルスに向けた10の新興技術ソリューション)』は、革新的な技術的ソリューションを大規模に導入することにより、気候変動対策を促進し、持続可能な繁栄に貢献し得る可能性を示しています。2024年、世界の気温は年間を通じて産業革命前比で1.5℃上昇した状態が続き、現在の推計では2100年までに約3℃という壊滅的な温暖化レベルに達する可能性が高まっています。このような背景を踏まえ、同報告書では、排出量削減に貢献するだけでなく、気候変動に対する社会の適応と被害の修復を図る上で役立つテクノロジーや、効果的な規模拡大の方法についても考察しています。
世界経済フォーラム取締役のジェレミー・ジュルゲンズは、次のように述べています。「気候変動の緊急性は明白ですが、その解決策としてすでに利用可能なテクノロジーや、それを新たな方法で活用する方法については、あまり注目されていません。同報告書は、世界のリーダーたちが必要な速度と規模で行動するために必要な先見性を提供します」。
同報告書が探求する課題の一つは、サウジアラビア、オマーン、クウェートなどの乾燥国における飲料水不足です。再生型海水淡水化技術は、先進的な膜技術と再生可能エネルギーを組み合わせ、従来の方法よりもはるかに少ないエネルギーで海水を安全な飲料水に変換。イタリアとカナダで実施されたパイロットプロジェクトでは有望な成果が得られており、対象地域への適切な投資を行うことで、中東地域をはじめとする他の地域にもこの手法を拡大し、淡水資源へのアクセス向上を図ることが可能です。
もう一つの喫緊の課題は、化石燃料に依存せずに信頼性の高い電力を供給することです。特に、気温上昇と気候変動の影響が既存の電力システムに負荷をかける中で、この課題は深刻化しています。地熱エネルギーは昼夜を問わず安定した電力源となるでしょう。新たに開発された工場生産型モジュール式システムは、24時間体制で電力を供給可能であり、より多くの地域への展開が期待できます。これにより、脆弱な地域コミュニティが手頃な価格の再生可能エネルギーを利用して、快適な環境と安定した通信環境を維持することができるようになります。
こうした事例は、実用的なテクノロジーが今日の喫緊の課題を解決し得ることを示しています。同報告書では10のソリューションを取り上げ、イノベーションの科学的背景だけでなく、その実現に必要な要素である投資、インフラ、政策、責任あるガバナンスも概説。各テクノロジーは、専門家による推薦、AIトレンド分析、ピアレビュー、導入条件の分析など、様々な手法を通じて評価されています。選定基準は、新規性、深み、そして社会に有意義な利益をもたらす潜在的可能性です。
「イノベーションを実効性ある成果へと転換するには、オープンサイエンスとセクター横断的なパートナーシップが不可欠です」と、フロンティアーズのチーフ・エグゼクティブ・エディターであるフレデリック・フェンター氏は述べています。「本報告書は、単独のテクノロジーに万能薬は存在しないものの、それらを組み合わせることで、より健全な地球とすべての人々にとって持続可能な未来へ向けた転換を実現できることを示しています」。
1. 精密発酵
動物由来でないタンパク質は、飼料作物の需要削減、水とエネルギー使用量の削減、家畜由来のメタン排出量低減を実現すると同時に、食品、素材、医薬分野を変革する可能性があります。
2. グリーンアンモニアの生産
よりクリーンなアンモニア製造法が、肥料製造におけるエネルギー集約型の従来プロセスに取って代わる可能性があります。これにより二酸化炭素排出量と大気汚染の低減を図ることができ、より持続可能な農業とクリーンな船舶燃料の実現を支援します。
3.食品廃棄物
アップサイクリングの自動化自動選別システムは、食品廃棄物から傷んだものや包装材などを識別して分離することができ、堆肥、飼料、新たな製品への転換を実現します。
4. メタン回収・利用技術
新たなテクノロジーで、農場、埋立地、産業施設からのメタン漏洩を大気放出前に検知および回収します。地球温暖化抑制の最速手段の一つとなるでしょう。
5. グリーンコンクリート
再生材を使用し、二酸化炭素を固定化できる次世代コンクリートは、建設現場の環境負荷を軽減すると同時に、重要な資源の有効活用を可能にします。
6. 次世代双方向充電システム
新たな充電システムは、電気自動車や家庭などあらゆる蓄電源から、電力の双方向供給を可能にします。これにより電力網の柔軟性と安定性が向上します。
7. タイムリーかつ特定的な地球観測(EO)
新たな衛星とセンサーが洪水、干ばつ、森林伐採をリアルタイムで追跡し、より迅速で精度の高いデータを提供します。これにより各国政府、企業、地域社会は危機が深刻化する前に行動を起こすことが可能となります。
8. モジュール型地熱発電
工場生産された小型地熱システムが、ほぼあらゆる場所で安定した再生可能エネルギーを供給。グローバルなエネルギーミックスに信頼性の高いクリーンエネルギーを追加します。
9. 再生型海水淡水化
新たな海水淡水化システムは、従来法の数分の一のエネルギーで清潔な飲料水を生産可能であり、世界中の乾燥地域に持続可能な形で清潔な水を供給します。
10. 土壌健全化に向けたテクノロジー・コンバージェンス(技術融合)
センサー、微生物、AIの活用により、劣化した土壌の回復を支援し、より多くの炭素を貯蔵。より多くの食料を生産すると同時に、土壌が生態系を支えられるようにします。
インテリジェント時代の相互に関連する課題に対処し、あらゆるセクターにおけるサイバーセキュリティとレジリエンスを強化するため、世界経済フォーラムは、各国政府、企業、市民社会、アカデミアから500人以上の専門家たちと、世界を代表するサイバーセキュリティ分野のリーダーたち150人を招集し、10月14日から16日までアラブ首長国連邦のドバイにて特別合同会合を開催します。本会合で得られた知見は、ダボスで開催予定の年次総会2026を含む、世界経済フォーラムの今後の活動の方向性を示すものとなるでしょう。