気候変動による健康リスクが、2050年までに1.5兆ドルの生産性損失を招く可能性

発行済み
2025年09月18日
2025
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世界経済フォーラム 広報統括(日本) 栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org

  • 世界経済フォーラムの報告書によると、2050年までに食料・農業、建造環境、医療・健康の分野において、気候変動に伴う健康リスクがグローバル経済に少なくとも1.5兆ドル相当の生産性損失をもたらす可能性があることが明らかになりました。
  • 同報告書は、四つの主要な経済分野における適応策の優先順位を提示し、企業に対して従業員の健康保護と事業継続力の強化に向けた早急な対応を強く要請しています。
  • 気候変動に強い作物の開発から、熱安定性に優れた医薬品の製造、さらには保険対象範囲の空白部分を埋める新たな保険モデルの構築に至るまで、気候変動に対応した健康を守るイノベーションへの投資は、リスク軽減に寄与するとともに、新たな市場機会を創出し、長期的な価値創造を促進します。
  • レポート全文はこちら2025年「持続可能な開発インパクト会合」の詳細はこちら。また、ソーシャルメディアでは、ハッシュタグ#SDIM25をご活用ください。

2025年9月18日、スイス、ジュネーブ – 今後25年間で、気候変動が引き起こす健康被害により、一部の気候関連疾患によって1.5兆ドルを超える生産量損失が発生する可能性があります。これは世界経済フォーラムが発表した最新報告書によるもので、気候変動が特に大きな影響を及ぼす四つの経済セクター(食品・農業、建造環境、医療・健康、保険)における健康への影響を評価したものです。1.5兆ドルという推計値は、中間シナリオにおける最初の3セクターのみの損失を反映したものであり、実際のグローバル経済への負荷はこれを大幅に上回る可能性があることを示唆しています。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の協力を得て作成された報告書、「Building economic resilience to the health impacts of climate change(気候変動が健康に及ぼす影響に対する経済的レジリエンスの構築)」は、気候適応コストが増大して管理不能になる前に、企業が今すぐ行動を起こし、従業員の健康保護、事業運営のレジリエンス構築、生産性の確保に取り組むよう強く促しています。調査結果からは、気候変動により加速する猛暑、感染症その他の健康リスクへの適応が、今や戦略的な経営上の必須課題であることが浮き彫りになりました。

世界経済フォーラムの気候レジリエンス部門長、エリック・ホワイトは次のように述べています。「企業の事業継続と長期的なレジリエンスには、労働者の健康保護が欠かせないことが明らかになってきています。ビジネス上の意思決定にレジリエンスを組み込むことを先延ばしにすれば、従業員の健康と生産性に対するリスクは増大し、適応のためのコストも上昇するでしょう」。

混乱の状況に加えて、本分析では各産業分野に特有の脆弱性についても明らかにしています。食料・農業分野では、気候変動による健康被害で最大7,400億ドルの生産損失が発生する可能性があり、グローバルな食料安全保障に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。建造環境分野においては、気候変動が健康に及ぼす影響により、5,700億ドル相当の生産性損失が生じると予測。医療・健康分野では、労働力人口の生産性が2,000億ドル低下すると見込まれており、さらに広範な人口層で気候変動を要因とする疾病が増加すれば、医療需要のさらなる増大を招く可能性があります。一方、保険分野では、気候変動に関連する健康被害による保険金請求件数が急激に増加すると予測されています。

「気温の上昇に伴い、何百万もの職業がより危険にさらされるか、完全に消滅する可能性があります。これにより家計が貧困に陥り、人々がどこに住むか、どのように生活し、繁栄できるかが変化していくでしょう」と、本調査を支援するロックフェラー財団のヘルス担当バイスプレジデント、ナヴィーン・ラオ氏は述べています。「この報告書は、すべての企業が緊急に行動を起こし、ビジネスの将来を見据えた対策を取るよう警鐘を鳴らすものです」。

一方、この報告書では、気候変動による健康リスクへの早期対応に投資する企業は、リスク軽減以上の恩恵が得られることも示されています。これは、新たなイノベーションと成長の機会を創出するとともに、新たに生じる市場ニーズにも対応することが可能となるためです。

各セクターはそれぞれの強みを活かし、新たな気候変動関連の健康課題に対する解決策を開発、拡大する独自の立場にあります。例えば、気候変動に強い作物の開発による食料システムの保護、高温環境下でも有効性を維持する医薬品の開発による医療アクセスの拡大、建設作業員の安全を確保する冷却技術の導入、気候変動による健康被害から地域社会を守る新たな保険モデルの構築など、すでに様々なイノベーションが生まれつつあります。

BCGのマネージング・ディレクター兼パートナーであるエリア・ツィアンバジス氏は、次のように述べています。「気候変動への健康適応に向けた動きは加速していますが、必要な資金と実施体制は依然として大きく不足しています。現在の課題は、気候変動のスピードに遅れることなく実証済みの解決策を迅速に拡大し、労働力への影響を緩和すると同時に、次世代のレジリエンスを高めるサービスおよび製品の基盤となるイノベーションに投資することです」。

同報告書の分析では、気候変動によって深刻化する七つの主要な健康リスクを調査し、2025年から2050年までの期間において、気候変動を要因とする労働者の疾病や死亡による生産損失の経済的コストをモデル化。健康関連データは学術文献から、雇用データは国際労働機関(ILO)および世界銀行のデータを参照し、経済的コストについては、ILOと世界銀行のデータに基づいて算出しています。

さらに、グローバルな健康レジリエンスへの移行を実現するためには、支援的な政策枠組み、相互運用可能な気候変動関連健康データシステム、資本を動員するための革新的な資金調達メカニズムが不可欠であると指摘しています。

これらの調査結果は、同フォーラムの「持続可能な開発インパクト会合2025」の開催に先立って発表されました。また、同調査はブラジルのベレンで開催される国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)に向けた準備が本格化する中で行われたものです。今年の気候変動交渉では、健康分野における適応策が世界の気候変動アジェンダの最優先課題となる見込みであり、企業のイノベーションと政策行動を連携させる絶好の機会となるでしょう。

持続可能な開発インパクト会合2025について

2025年の「持続可能な開発インパクト会合」は、9月22日から26日までニューヨークで開催され、様々な分野や地域から1,000人を超える世界のリーダーが一堂に会します。2026年の世界経済フォーラム年次総会に先立って開催される同会合は、同フォーラムが年間を通じて取り組む活動の一環であり、多様なステークホルダーによる対話と行動を通じて、持続可能な開発の進展を加速することを目的としています。

すべての意見は、著者によるものです。世界経済フォーラムは、独立かつ中立なプラットホームとして、​グローバル、地域、産業のアジェンダを形成する話題に関わる議論の場を提供しています。

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