世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年9月23日、米国、ニューヨーク - 世界経済フォーラムが発表した最新の「チーフエコノミスト・アウトルック」によると、グローバル経済は低成長と構造的混乱の時期に突入しつつあります。調査対象のチーフエコノミストの約72%が、貿易に関する混乱の激化、政策における不確実性の高まり、技術革新の加速といった状況を背景に、今後1年間にグローバル経済が減速すると予測。この調査結果は、持続的な混乱と分断化の進展によって形作られる、新たな経済環境の出現を示唆しています。
同報告書では、地域間の顕著な格差が鮮明に示されています。新興市場が成長の主要な原動力になると見込まれており、特に中東・北アフリカ(MENA)、南アジア、東アジア・太平洋地域が有望な成長エリアとして注目。チーフエコノミストの3人に1人が、これらの地域では力強い、あるいは非常に力強い成長が見込まれると予測しています。中国の見通しはより複雑で、チーフエコノミストの56%が緩やかな成長を予想すると同時に、デフレ圧力も持続すると見込まれています。先進国経済では、成長はより停滞した状態が続くと予測され、欧州では、40%が財政緩和(74%)と低いまたは緩やかなインフレを伴う弱い成長(88%)を予想。米国では、大半(52%)のチーフエコノミストが、金融政策緩和(85%)とそれに伴う弱いあるいは非常に弱い成長と高いインフレ(59%)を予想しています。
チーフエコノミストたちは、先進国と開発途上国の成長経路がますます乖離していると警告しており、56%が今後3年間でその差は拡大するだろうと予測しています。
エコノミストの大多数が、現在の混乱は循環的な変動ではなく構造的な変化であるとの見解で一致。特に、自然資源・エネルギー(78%)、技術・イノベーション(75%)、貿易・グローバルバリューチェーン(63%)、国際経済機関(63%)において、長期的な混乱が続くと予測する声が多数を占めます。これは重要な転換点を示しています。グローバル経済は、個別の突発的なショックに対処している段階を超え、根本的な再構築の過程に入っており、新たなリーダーシップのあり方、協力体制、レジリエンスの重要性が高まっているのです。
世界経済フォーラムの常務取締役であるサーディア・ザヒディは、「新たな経済環境の輪郭はすでに形作られつつあり、貿易、テクノロジー、資源、制度における混乱がその特徴を決定づけています。リーダーたちは、緊急性と協力体制をもって対応し、現在の混乱を将来のレジリエンスへと転換していかなければなりません」と述べています。
グローバル経済の構造的変化は、貿易、財政政策、債務において最も顕著に現れています。調査対象のチーフエコノミストの約70%が、現在の貿易混乱のレベルを「極めて高い」と評価。これは他の経済分野を大きく上回っています。また、4分の3以上が、貿易とグローバルバリューチェーンにおける混乱が他の分野にも波及すると予想。金融市場と金融政策においては、調査対象エコノミストの45%が混乱を「高い」または「極めて高い」と評価していますが、その状態が持続すると予想する割合はわずか21%でした。また、こうした状況下でも、近い将来に先進国で大規模な危機が発生する可能性は52%が「低い」と見ていますが、一方で85%が「いかなるショックも経済システム全体に広範な影響を及ぼす可能性がある」と警告しています。
公的債務水準が世界的に上昇する中、調査対象のチーフエコノミストは、かつては新興国経済に多く見られていた債務脆弱性が、先進国経済に集中しつつあることを指摘。また、80%が今後1年間で先進国経済のリスクが増大すると予想しています。財政面の脆弱性についても、先進国経済においては41%のエコノミストが成長阻害要因と見なす一方、開発途上国経済では12%にとどまっています。
本報告書は、世界経済フォーラムのニューエコノミー、ソサエティ部門による官民のチーフエコノミストを対象とした広範な協議および調査を基に作成されています。また、本報告書は、同フォーラムの「成長の未来イニシアチブ」を支援するものであり、持続可能かつ包摂的な経済成長に向けた対話と具体的な行動への道筋を促すことを目的としています。
2025年の「持続可能な開発インパクト会合」は、9月22日から26日までニューヨークで開催され、様々な分野や地域から1,000人を超える世界のリーダーが一堂に会します。2026年の世界経済フォーラム年次総会に先立って開催される同会合は、同フォーラムが年間を通じて取り組む活動の一環であり、多様なステークホルダーによる対話と行動を通じて、成長、レジリエンス、イノベーションの進展を加速することを目的としています。