世界経済フォーラム コミュニケーションズ・リード 栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年6月3日、スイス、ジュネーブ – 世界経済フォーラムは、新興テクノロジーの組み合わせがどのように産業構造を変えつつあるかを分析し、企業のリーダーたちがその知見を活用して投資判断を行い、能力を高め、エコシステムを戦略的に構築する方法を考察した新たなレポートを発表しました。政策立案者にとっても、規制の縦割りを打破し、システム全体への影響を予測する上で、有益な示唆を提供しています。
コンサルティング企業であるキャップジェミニの協力を得て作成された「テクノロジーコンバージェンス・レポート」は、新たなビジネスモデルを生み出す新興テクノロジーの交差点を特定する「3Cフレームワーク」(組み合わせ、融合、複合化)を導入しています。
同フォーラム常務取締役のジェレミー・ジュルゲンズは、「複数のテクノロジー分野における急速な進展は、産業に避けることのできない変革をもたらしています。このレポートは、リーダーたちが次に訪れる変化を活用するための明確なモデルを提供します」と述べています。
テクノロジーの成熟度と展開目的の両方を考慮し、本レポートでは、8つの重要な分野(AI、オムニコンピューティング、エンジニアリングバイオロジー、空間知能、ロボティクス、先進材料、次世代エネルギー、量子技術)の230を超えるサブコンポーネントから、ポテンシャルの高い23の組み合わせを特定しました。
このフレームワークでは、個々の技術革新のみでなく、テクノロジーを組み合わせて生まれるインパクトに着目する一方で、AIを主要なイネーブラーとして強調し、AIが多くの相乗効果を商業的に実現可能にしている点を指摘。インフラ、医療、エネルギー、輸送など、複数のセクターにおけるテクノロジー融合の変革的な可能性を示します。注目すべき組み合わせの例は、以下のとおりです。
認知ロボティクス:エージェント型AI、空間知能、操作と適応制御におけるロボティクスの進歩により、自律システムが複雑な環境で知能的な意思決定を行うことが可能になり、自動車産業とスマート製造の進展を促進しています。
デジタルツインエコシステム:センサーネットワークとAIシミュレーションシステムの進展により、デジタルツインの機能が強化。一層統合の進んだエンドツーエンドのインパクトを実現し、航空宇宙から医療までの多様な分野で、効率性と適用範囲を拡大しています。
ハイブリッド量子古典コンピューティング:量子テクノロジーと古典的コンピューティングシステムの信頼性を組み合わせるこのアプローチにより、すでに金融、分子シミュレーション、複雑な最適化の分野で量子テクノロジーの潜在力が活用されています。
マテリアルズ・インフォマティクス:予測モデリングおよびトランスフォーマー技術は、材料の組成や構造を実験室で合成する前に仮想テストを可能にし、先端材料の研究開発を加速しています。これにより、製造業や化学産業をはじめとする幅広い分野に革新がもたらされています。
「課題は、テクノロジーの融合で産業の再構築が可能かどうかではありません。その過程は、すでに始まっています。真の課題は、テクノロジーの融合において先頭に立つための戦略なのです」と、キャップジェミニの最高経営責任者(CEO)、アイマン・エザット氏は述べています。
本レポートは、洞察を実行に移すための実践的なガイドとして、システム思考アプローチ、テクノロジーの成熟段階に応じたバランスの取れた投資、バリューチェーンの再配置、エコシステム対応に向けた準備の重要性を強調しています。これは、同フォーラムの「テクノロジーコンバージェンス・コミュニティ」からの定性的、定量的洞察に基づいています。同コミュニティは、フォーラムのグローバルネットワークに属する企業、アカデミア、市民社会、パブリックセクターのリーダーたちで構成。各分野の専門家チームが、専門知識とケーススタディを提供します。これに加え、キャップジェミニが18カ国、10業界、5大陸の2,000人のシニアエグゼクティブを対象に実施した、グローバル調査の結果も反映されています。
テクノロジーコンバージェンス・イニシアチブについて
世界経済フォーラムの「テクノロジーコンバージェンス・イニシアチブ」は、AI、量子コンピューティング、バイオテクノロジー、空間コンピューティング、ロボティクスなど、新興テクノロジーの動向をマッピングし、それらを結びつける取り組みです。同イニシアチブは、技術者、政策立案者、経済学者、ビジネスリーダーたちが、単一のテクノロジーを超えたシステム設計、組織構造の構築、ソリューションの拡大を通じて、より広範な社会的価値を創造するための実践的な洞察とツールの開発を支援することを目的としています。