世界経済フォーラム コミュニケーションズ・リード 栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年6月24日、中華人民共和国天津市 – 都市の接続性が高まる中で、協調センシングが車両、交通システム、緊急サービスのリアルタイム連携を可能とし、安全性の向上と渋滞の緩和に貢献しています。これは、世界経済フォーラムによる2025年版「新興テクノロジー・トップ10」レポートに選出されたテクノロジーの一つであり、3~5年以内に実社会への影響をもたらし、喫緊のグローバルな課題に対応すると期待されています。
フロンティアーズの協力を得て、同レポートは、科学的な進歩と現実世界の応用が交わる転換点にある画期的なテクノロジーを特集。これらのテクノロジーは、新規性、成熟度、社会に意味のある利益をもたらす可能性を評価して選択され、イノベーションとレジリエンスの両面での進展を反映するものです。今年選出されたテクノロジーは、「コネクテッド・ワールドにおける信頼と安全」、「健康のための次世代バイオテクノロジー」、「持続可能な産業の再設計」、「エネルギーとマテリアルの統合」という四つの主要トレンドを明らかにしています。
「科学技術革新は急速に進展していますが、イノベーションのグローバルな環境は一層複雑化しています」と、世界経済フォーラム常務取締役、ジェレミー・ジュルゲンズは述べています。「本調査は、グローバルリーダーたちに、どのテクノロジーが実用化段階に近づいているか、そうしたテクノロジーが喫緊のグローバルな課題の解決にどのように貢献できるか、そしてそれらを責任を持って大規模展開するために何が必要かを明確に示すものです」。
今年のトップ10は、過去のテーマを基盤とし、健康、持続可能性、都市のレジリエンスを引き続き最優先課題としています。協調センシング、自律型生化学センシング、グリーン窒素固定などのテクノロジーは、緊急性の高い課題が残るこれらの分野で、継続的にイノベーションが進展していること、そして、慢性疾患、環境へのインパクト、インフラの負荷に対するスケーラブルな解決策の開発に向けたモメンタムが拡大していることを示しています。
本レポートは、こうしたテクノロジーを大規模に展開するために必要な要素である投資、インフラ、基準、責任あるガバナンスを明確にし、各国政府、企業、科学コミュニティが連携して、その開発を公共の利益に資するものとするよう呼びかけています。
2025年版の本レポートでは、テクノロジー・コンバージェンス(技術的収束)の傾向が強調されています。例えば、構造電池複合材料はエネルギーと貯蔵設計を組み合わせたものであり、人工生体治療は合成生物学と精密医療を融合しています。こうした状況は、単独のイノベーションから、より統合されたシステムベースのソリューションに移行しつつあることを示しており、実現可能な選択肢の幅が拡大しています。
フロンティアーズのチーフエディター、フレデリック・フェンター氏は、「画期的な研究から具体的な社会的な進歩への道は、透明性、連携、オープンサイエンスに依存しています。世界経済フォーラムと共に、当社は今回も、すべての人々にとってより良い未来を築くための新興テクノロジーに関する、信頼性の高いエビデンスに基づいたインサイトを提供しています」と述べています。
コネクテッド・ワールドにおける信頼と安全:
接続されたセンサーのネットワークで、車両、都市、緊急サービスがリアルタイムで情報を共有します。これにより、安全性が向上し、交通量が減少し、危機への対応が迅速化されます。
2. AI生成コンテンツを識別する電子透かし
このテクノロジーは、AI生成コンテンツに目に見えないタグを追加し、区別しやすくします。これにより、誤情報の拡散防止や、オンライン上の信頼保護に役立つ可能性があります。
持続可能な産業の再設計:
3. グリーン窒素固定
化石燃料ではなく、電気を使用して肥料を製造する新たな方法であり、汚染と二酸化炭素排出量を削減することができます。これにより、より持続可能な食料生産が可能になります。
天然の酵素のように機能しますが、より強力で安価かつ使用が容易な人工酵素です。医療検査の精度向上、汚染の除去、安全な製造に向けた支援などに役立つ可能性があります。
健康のための次世代バイオテクノロジー:
5. 人工生体治療
慎重に設計された有益な細菌を用いて、体内に治療薬を届ける新たな治療法が開発されています。これにより、長期療養コストの削減と効果の向上が期待されます。
6. GLP-1の神経変性疾患に対する効果
糖尿病や体重減少に用いられていた薬剤に、アルツハイマー病やパーキンソン病の進行を遅らせる可能性があることが示されています。この治療法は、現在選択肢が限られている分野に新たな希望をもたらす可能性があります。
この小型かつスマートなセンサーは、ケーブルも人間の監視もなしに、24時間体制で健康状態や環境の変化を監視することができます。環境汚染や疾患の早期発見に役立ち、時間と命を救う可能性があります。
エネルギーとマテリアルの統合:
8. 構造電池複合材料
自動車や航空機などに使用される、エネルギーを貯蔵すると同時に重量を支える材料は、電気自動車を軽量かつ高効率化することができます。これにより、排出量の削減と性能の向上が実現します。
塩水と淡水の浸透圧の差を利用してエネルギーを回収し、クリーンな電力を生成することができます。沿岸地域における、環境への影響の少ない安定した電力源として有望です。
小型原子炉と代替冷却システムは、安全、低コストのクリーンエネルギーを提供します。電気化とAIの進展に伴い、エネルギー需要が増加する中、このような原子炉は、信頼性が高く、二酸化炭素排出量ゼロの電力システム構築に重要な役割を果たす可能性があります。
各テクノロジーは、専門家による推薦、文献調査、ピアレビュー、採用条件の分析を含む厳格なプロセスで評価されています。また、戦略的展望、実現可能性の評価、リアルワールドにおける実装に向けた道筋も含まれています。
13回目の発行となる「新興テクノロジー・トップ10」レポートは、リーダーたちが科学技術の変化に対応するための信頼できる将来展望を提供。科学者、研究者、未来学者らの専門知識をもとに、5年以内に拡大し、広範かつ社会的な利益をもたらすと予想される10のイノベーションを特定しています。
2025年版は、フロンティアーズの協力を得て作成され、同フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシルズ」、大学・研究ネットワーク、共同議長のマリエット・ディ・クリスティーナとバーナード・メイヤーソン、そして、フロンティアーズ編集ネットワークから選出された300人を超える専門家を含む、グローバルなプロセスを経ています。
第16回ニュー・チャンピオン年次総会は、「新たな時代の起業家精神」をテーマに、2025年6月24日~26日に中華人民共和国の天津で開催されます。同会合には、各国政府、企業、市民社会、アカデミア、国際機関、イノベーション、メディアから1,700人を超えるリーダーたちが参集し、グローバルな課題に対する起業家的なソリューションを探求します。