世界経済フォーラム コミュニケーションズ・リード 栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年6月25日、中華人民共和国天津市 – パンデミック後の成長鈍化にもかかわらず、フィンテック業界は持続可能な成長を続け、従来型金融サービスが不足していた層へのサービス提供を拡大しています。240社のフィンテック企業を対象とした新たなグローバル調査によると、顧客成長率は37%で安定化しており、前回の調査の55%から低下しています。一方、財務パフォーマンスは依然として堅調で、売上高成長率は40%、利益成長率は39%となっています。
ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センターの協力を得て作成された、世界経済フォーラムの新しい報告書「グローバルフィンテックの未来:急速な拡大から持続可能な成長へ(The Future of Global Fintech:From Rapid Expansion to Sustainable Growth)」は、従来型金融サービスが不足していた市場セグメントの金融アクセス拡大における、フィンテック業界の継続的な役割を強調しています。, 中小零細企業、低所得者、女性は、フィンテック企業の顧客基盤でそれぞれ57%、47%、41%と、かなりの割合を占めています。特に新興国および開発途上国では、これらのセグメントがフィンテック企業の利益にも大きく貢献しています。
同フォーラムの金融サービスにおけるテクノロジーとイノベーション部門長であるドリュー・プロプソンは、「フィンテック企業は、アクセシビリティとリーチをビジネスモデルに組み込み、より公平なグローバル金融システム構築に不可欠なプレイヤーとして位置付けられています。これらの調査結果は、フィンテックがポストコロナの成長鈍化傾向の中にあっても、経済拡大を後押しする能力を有していることを改めて示しています」。
アジア太平洋、欧州、ラテンアメリカ・カリブ海地域、中東・北アフリカ、米国・カナダ、サハラ以南のアフリカという6地域の主要フィンテック分野を対象としたこの調査は、AIの採用がパフォーマンス向上に寄与していることも示しています。フィンテック企業の83%が顧客体験の向上を報告し、回答者の約3分の2が利益率の向上とコスト削減を指摘しました。さらに、調査では、マクロ経済動向と資金調達動向、規制環境、伝統的な金融機関との提携機会に対する業界の対応も明らかになりました。
「フィンテック企業のマクロ経済状況と資金調達環境に関する懸念は緩和されたものの、依然として残っています」と、ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センターの共同創設者兼執行役員であるブライアン・ジャン氏は述べました。「ただ、より有利な規制環境、既存企業との協業の機会拡大、AIの業務プロセスやビジネスモデルへの採用拡大と相まって、フィンテックの成長見通しは依然として有望です」。
成長の最大の課題として最も多く挙げられたのは、マクロ経済状況でしたが、これを障害と見る回答者は2024年の56%から18%に減少しました。また、資金調達環境に関する懸念も大幅に緩和され、障害と回答した割合は12%と、前回調査の40%から大幅に減少しました。これらの改善にもかかわらず、フィンテックの持続可能な成長を促進するためには、特に資本へのアクセス拡大と規制効率の向上において、さらなる取り組みが必要です。
フィンテック企業は、一般に規制環境は適切であると報告しています。回答者の62%が地域における規制が適切であると回答し、35%が規制は明確であると述べています。一方、引き続き改善が必要な領域も指摘。金融当局の能力と調整、ライセンス取得や登録プロセスの効率化などが挙げられています。
また、フィンテックと伝統的な金融機関とのパートナーシップが、フィンテック戦略において重要な役割を果たしています。報告書によると、フィンテック企業の84%が既存企業と協業。その主な方法は、アプリケーションインターフェイス(API)の統合(52%)であり、フィンテックと広範な金融エコシステムの統合が進んでいることを示しています。
本報告書では、今後の優先課題としてAIの採用、地域間の相互運用性、既存企業との協業、規制と資金調達環境の継続的な改善などが挙げられており、より統合されたレジリエンスの高い金融の未来を示唆しています。規制当局、政策立案者、ビジネスリーダーたちは、データから得られるインサイトを活用して、業界の新たな動向に対応することで、フィンテックの成長による経済的恩恵を最大限に引き出すことができるでしょう。
報告書「グローバルフィンテックの未来:急速な拡大から持続可能な成長へ(The Future of Global Fintech: From Rapid Expansion to Sustainable Growth)」では、6つの主要な小売向けフィンテック事業分野(デジタルローン、デジタル資金調達、デジタル決済、デジタルバンキングと貯蓄、インシュアテック、ウェルステック)および6つの地域(アジア太平洋、欧州、ラテンアメリカ・カリブ海地域、中東・北アフリカ、米国・カナダ、サハラ以南のアフリカ)から厳選された240社のフィンテック企業を対象に、調査を実施しました。
第16回ニュー・チャンピオン年次総会は、「新たな時代の起業家精神」をテーマに、2025年6月24日~26日に中華人民共和国の天津で開催。同会合には、各国政府、企業、市民社会、アカデミア、国際機関、イノベーション、メディアから1,500人を超えるリーダーたちが参集し、グローバルな課題に対する起業家的なソリューションを探求します。