<報告書発表> チーフエコノミスト、貿易政策の衝撃とAIによる混乱が グローバル経済成長に圧力と警告

発行済み
2025年05月28日
2025
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世界経済フォーラム コミュニケーションズ・リード 栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org

  • 調査対象のエコノミストの大多数は、現在の米国経済政策がグローバル経済に長期的な影響を与えると見ており、87%が戦略的な事業決定の遅延と景気後退リスクの増大を予想しています。
  • 成長見通しは分かれており、北米は弱含み、アジア太平洋地域にはレジリエンスがあり、欧州は慎重な楽観論が支配的です。
  • 防衛費の増加に伴い公的債務への懸念が高まっており、チーフエコノミストの86%が各国政府の借入れ増加を予想しています。
  • AIは成長を牽引すると見込まれていますが、47%が雇用の純減を予測しています。
  • レポート全文は、こちら

2025528日、スイス、ジュネーブ 世界経済フォーラムが発表した報告書によると、本年初頭以来、グローバル経済の見通しは悪化しています。経済ナショナリズムの高まりと関税の変動が不確実性を増大させ、長期的な意思決定の停滞リスクを招いているためです。

最新の「チーフエコノミスト・アウトルック」では、調査対象のエコノミストの多く(79%)が、現在の地経学的な動向は一時的な混乱ではなく、グローバル経済の構造的変化の兆候であるとしています。

世界経済フォーラム常務取締役、サーディア・ザヒディは、「政策立案者やビジネスリーダーたちは、高まる不確実性や貿易摩擦に対し、より一層の連携、戦略的な機動力、そしてAIのような変革的テクノロジーの成長可能性への投資をもって対応する必要があります。現在の経済の逆風を乗り越え、長期的なレジリエンスと成長を確保するためには、こうした措置が不可欠です」と述べています。

地政学的、政策的な不確実性が展望を曇らせる

世界的な不確実性は、チーフエコノミストの82%が「極めて高い」と評価。また、過半数(56%)は今後1年間で状況が改善すると予想していますが、懸念は残っています。また、ほぼすべてのチーフエコノミスト(97%)が、貿易政策を最も不確実な分野の一つに挙げており、金融政策(49%)と財政政策(35%)が続きます。こうした不確実性が、貿易量(70%)、GDP成長率(68%)、外国直接投資(62%)などの主要経済指標に悪影響を及ぼすと予想されています。

チーフエコノミストの大多数(87%)が、不確実性に対応するために企業は戦略的決定を延期し、これによって景気後退リスクが高まると予測。債務の持続可能性に関しても懸念が高まっており、先進国、開発途上国を問わず、回答者の74%が指摘しています。また、同じく大多数(86%)が、各国政府が防衛費の増加に対応するため借入れを拡大し、公共サービスやインフラ投資を圧迫する可能性があると予想しています。

成長見通しは地域間で大きく乖離

不確実性がピークに達した4月初旬の時点で、ほとんどのチーフエコノミスト(77%)が米国に関し、2025年までの弱い成長、または非常に弱い成長を予測し、高インフレ(79%)とドル安(76%)も指摘しました。一方、欧州の展望については、数年ぶりに慎重な楽観論が浮上。これは主に、ドイツを中心に財政拡大が期待されているためです。中国の展望は依然として鈍く、チーフエコノミストは年内に5%のGDP成長目標を達成できるかどうかで意見が分かれています。南アジアでは楽観的な見方が最も高く、33%が今年の「強い成長」または「非常に強い成長」を予想しています。

AIは成長の触媒だが、潜在的な経済リスクも抱える

AIは、次なる経済変革の波を牽引し、大きな成長可能性を解き放つ一方で、深刻なリスクをもたらす可能性もあります。チーフエコノミストの約半数(46%)は、AIが今後10年間で世界の実質GDPを0~5ポイント程度押し上げるものと予想しており、さらに35%が5~10ポイントの増加を予測。主要な成長要因には、タスクの自動化(68%)、イノベーションの加速(62%)、労働力の強化(49%)が挙げられています。しかし、その潜在的な可能性にもかかわらず、懸念は残っています。チーフエコノミストの47%が今後10年間で雇用の純減を予想しており、増加を予想する19%を大幅に上回っているからです。

さらに、経済に対する最大のリスクとして、偽情報と社会の不安定化につながるAIの悪用が指摘されています(53%)。その他の主要なリスクには、市場支配力の集中化(47%)と既存ビジネスモデルの破壊(44%)が含まれます。

一方で、AIの潜在能力を最大限に引き出すため、チーフエコノミストたちは政府と企業の双方による大胆な行動の必要性を強調。各国政府の優先課題には、AIインフラへの投資(89%)、主要産業におけるAIの普及促進(86%)、AI人材の流動性向上(80%)、アップスキリング(技能向上)と再配置への投資(75%)などが挙げられました。企業においては、AIを統合するための中核的な業務プロセスの適応(95%)、従業員のリスキリング(91%)、AIを活用した変革をリードするためのリーダーシップの育成(83%)が重要な課題となっています。

「チーフエコノミスト・アウトルック」について

本報告書は、世界経済フォーラムのニューエコノミーとソサエティ部門による官民のチーフエコノミストを対象とした広範な協議および調査を基に作成されています。この最新の調査は、2025年4月初旬に実施されました。本報告書は、同フォーラムの「成長の未来イニシアチブ」を支援するものであり、持続可能かつ包摂的な経済成長に向けた対話と具体的な行動への道筋を促すことを目的としています。

すべての意見は、著者によるものです。世界経済フォーラムは、独立かつ中立なプラットホームとして、​グローバル、地域、産業のアジェンダを形成する話題に関わる議論の場を提供しています。

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